『カナリアは眠れない』(近藤史恵)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/12 『カナリアは眠れない』(近藤史恵), 作家別(か行), 書評(か行), 近藤史恵

『カナリアは眠れない』近藤 史恵 祥伝社文庫 1999年7月20日初版

変わり者の整体師合田力は “身体の声を聞く” 能力に長けている。助手を務める屈託のない美人姉妹も、一皮剥くと何がしかの依存症に罹っていた。新婚七ヵ月目の墨田茜を初めて診たとき、力は底知れぬ暗い影を感じた。彼を驚愕させたその影とは? やがて不安が現実に茜を襲うとき、力は決死の救出作戦に出た! 蔓延する現代病理をミステリアスに描く傑作、誕生。(祥伝社文庫)

整体師〈合田力〉シリーズの中の一冊。様々な〈依存症〉を抱えた女性たちの苦悩と回復を主題にしたシリアスな小説でありながら、重からず、軽すぎず。初めて読んだのですが、癖がないのですらすら読めます。

少々物足りなく感じるかもしれませんが、言うべきことは言い、感じていてもうまく表現できないことが上手に書いてあります。緩いわけではありません。尖ったもの言いが、さりげなく、あいだ間に挟まっています。

十万円のワンピースだなんて、きっと彼は目を丸くするだろう。けれども、正直に話す必要なんてない。五万円、もしくは三万円くらい、と言っておけばいい。どうせ彼には女性の服の値段なんてわからないんだから。

あるいは、このあいだ買ったばかりで気が引けるのなら、タンスに隠しておいて、結婚前から持っていたけど着なかった、というふうに嘘をついたっていいのだ。少し心は痛むけど、これから生活費を切りつめてうまくやりくりすればいい。彼は、カードの明細に目を通したりもしない。

心の中でもう一方のわたしが叫ぶ。
どうして、彼はそんなにわたしを信じているのだろう。

あれほど固く決心し、一度は立ち直ったかに思えた茜は、結婚後、またもやあの〈忌まわしい性癖〉を繰り返すことになります。彼女は、何かに追い立てられてでもいるかのようにして、物を買います。それらはおしなべて高価で、しかも、ほとんどが無用の品々です。

それを茜は誰にも言わず隠し通しています。幸い、夫の真紀夫には十分な収入があります。彼は細かいことには拘らない性格で、それをよいことに、茜は自分がしていることを適当に誤魔化しています。彼女は、夫が作ってくれたカードで好き放題に買い物をしています。

自分を莫迦だと思うのですが、退屈やいらいらにとりつかれると、ふらふらと街に出てしまいます。街には美しいものがたくさんあります。華やかな服や、可愛らしい靴、いい香りの化粧品。

見ているだけで楽しいはずなのに、なぜか、茜はそれを持っていないことが恥ずかしくなります。街を歩く女性は、みんな、わたしよりきれいで、わたしよりお洒落な服を着ていて、わたしより堂々としている。

それが幻覚だなんて、わたしにはどうしても思えない。だのに、どうして夫はわたしを選んだのだろう。

茜は、真紀夫に見初められて結婚しています。真紀夫は理解ある夫で、彼女は何不自由のない暮らしをしています。しかし、それでも彼女は、なぜか言い知れぬ不安を感じています。
・・・・・・・・・
さて、このあと茜は、ひょんなことから「合田接骨院」を訪ねることになります。そこで、まるで商売気はないのですが腕の立つ整体師・合田力と知り合います。合田は、身体があげる「悲鳴」を聞くことができるといいます。

接骨院には、江藤恵(めぐむ)と歩(あゆむ)という美人の姉妹がいます。茜と時を同じくして接骨院にやって来るのが、「オリジナル新社」という関西のローカル雑誌社で働く小松原という若い男性。彼は歩にひとめぼれし、姉の恵とは会ってすぐにホテルへ行きます。

小松原は最初何も知らなかったのですが、実は恵と歩は、人に言えない辛い病気を抱えています。歩は摂食障害。姉の恵はセックス依存症。歩は拒食と過食を繰り返さずにはいられないといい、恵は男と寝ることでしか自分の価値を確認できないといいます。

合田から二人の事情を聞いて、小松原は唖然となります。おれ、あいつらはカナリアやと思っている - 合田はそんなことを言います。

そして、茜。合田は茜と出逢ったはじめから、彼女もまた一羽のカナリアではないかと思っています。

この本を読んでみてください係数  85/100

◆近藤 史恵
1969年大阪府生まれ。
大阪芸術大学文芸学科卒業。

作品 「凍える島」「サクリファイス」「ねむりねずみ」「巴之丞鹿の子」「天使はモップを持って」他多数

関連記事

『夫の墓には入りません』(垣谷美雨)_書評という名の読書感想文

『夫の墓には入りません』垣谷 美雨 中公文庫 2019年1月25日初版 どうして悲し

記事を読む

『かわいい結婚』(山内マリコ)_書評という名の読書感想文

『かわいい結婚』山内 マリコ 講談社文庫 2017年6月15日第一刷 結婚して専業主婦となった29

記事を読む

『♯拡散忌望』(最東対地)_書評という名の読書感想文

『♯拡散忌望』最東 対地 角川ホラー文庫 2017年6月25日初版 ある高校の生徒達の噂。〈ドロ

記事を読む

『文庫版 オジいサン』(京極夏彦)_なにも起きない老後。でも、それがいい。

『文庫版 オジいサン』京極 夏彦 角川文庫 2019年12月25日初版 72歳の益

記事を読む

『カインの傲慢/刑事犬養隼人』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『カインの傲慢/刑事犬養隼人』中山 七里 角川文庫 2022年6月25日初版 命に

記事を読む

『グラジオラスの耳』(井上荒野)_書評という名の読書感想文

『グラジオラスの耳』井上 荒野 光文社文庫 2003年1月20日初版 グラジオラスの耳

記事を読む

『二度のお別れ』(黒川博行)_書評という名の読書感想文

『二度のお別れ』黒川 博行 創元推理文庫 2003年9月26日初版 銀行襲撃は壮大なスケールの

記事を読む

『高架線』(滝口悠生)_書評という名の読書感想文

『高架線』滝口 悠生 講談社 2017年9月27日第一刷 そうやって元のところに留まらないで、次々

記事を読む

『きのうの影踏み』(辻村深月)_書評という名の読書感想文

『きのうの影踏み』辻村 深月 角川文庫 2018年8月25日初版 雨が降る帰り道、後輩の女の子と

記事を読む

『砕かれた鍵』(逢坂剛)_書評という名の読書感想文

『砕かれた鍵』逢坂 剛 集英社 1992年6月25日第一刷 『百舌の叫ぶ夜』『幻の翼』に続くシリ

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『錠剤F』(井上荒野)_書評という名の読書感想文

『錠剤F』井上 荒野 集英社 2024年1月15日 第1刷発行

『絞め殺しの樹』(河﨑秋子)_書評という名の読書感想文

『絞め殺しの樹』 河﨑 秋子 小学館文庫 2024年4月10日 初版

『つまらない住宅地のすべての家』(津村記久子)_書評という名の読書感想文

『つまらない住宅地のすべての家』津村 記久子 双葉文庫 2024年4

『悪逆』(黒川博行)_書評という名の読書感想文

『悪逆』黒川 博行 朝日新聞出版 2023年10月30日 第1刷発行

『エンド・オブ・ライフ』(佐々涼子)_書評という名の読書感想文

『エンド・オブ・ライフ』佐々 涼子 集英社文庫 2024年4月25日

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑