『白ゆき紅ばら』(寺地はるな)_書評という名の読書感想文
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『白ゆき紅ばら』(寺地はるな), 作家別(た行), 寺地はるな, 書評(さ行)
『白ゆき紅ばら』寺地 はるな 光文社文庫 2026年4月26日 初版第1刷発行
良い子は天国へ行く。悪い子はどこへでも行ける。不条理の先に見出した一筋の光

善意の顔をした歪な愛と理想と正しさに縛られて、彼女たちはどう生きるのか。
行き場のない母子を守る 「のばらのいえ」。〈かわいそうな子どもを救う〉 という理想を掲げ、ある夫婦が運営するその家で暮らす祐希は、未来のない現実から高校卒業と同時に逃げ出した。しらゆきちゃん、べにばなちゃんと呼ばれ、幼少のころから一心同体だった紘果を置いてきたことをずっと後悔していた祐希は、十年後、紘果を迎えに行くことを決意するが - 。(光文社文庫)
気持ちのいい話ではありません。子は親を選べない - 親に見放され、救ってくれた人には虐げられたとしたら・・・・・・・洗脳され、脅迫を受け、それでも祐希がそこに留まったのは、そうする他に彼女を救う手立てがなかったからでした。
『白ゆき紅ばら』 は、寺地作品の中でも異色の作風であると思う。冒頭から、不穏な空気が作品世界を覆っている。それまでの作品とは何かが違う、ある種の覚悟のようなものを感じて居住まいを正してしまう。タイトルと同名のグリム童話は、多くの童話が現代の価値観で読むとそうであるように、どこか唐突で奇妙に暴力的な印象があるものだが、モチーフに使われたこの童話と同じように、一見穏やかな日常の中に普通の顔をして入り込んでくる暴力が、心をぞわっとさせる。
主人公の祐希は幼い頃から暴力に囲まれて暮らしているが、この暴力は、殴ったり蹴ったりだとか、あるいは直接的な罵倒などではなく、あくまで 「善意」 の顔をして彼女の自由と気力をじわじわと奪っていく力なのが、読み進めていくうちに分かっていくのが恐ろしい。
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祐希をケア要員として使う志道と実奈子も、積極的に悪を為そうとして祐希を苦しめているわけではない。大学時代にボランティアサークルを通じて知り合い結婚した二人は、当初は遠縁の子どもである幼い祐希を実子のように育てることに注力していたが、その後 『のばらのいえ』 というDV等の事情で行き場をなくした母子のシェルター的な場所を運営しはじめる。
この 『のばらのいえ』 が始まるきっかけの一つとして、実奈子が書いていたブログがあるのが、時代を感じさせるアイテムとして上手い。猫を杓子もブログをやり、そこから何人もスターが出現し、そしていつの間にか消えていった時代がたしかにあった。作中で実奈子が綴っていたような、事情のある子育てや福祉的な内容のブログも何本も書籍化されて書店に並んでいた。
それは、今思えば大きな文学の賞を獲ったとか、有名人か芸能などの 「なにものか」 でなければ本など出せなかった時代が変わり、一般人が自分の言葉で世界に打って出ることが可能になった時代の幕開けだった気がする。同時に、現在のSNSの過熱にも通じる、ごく普通の人間が自らの承認欲求を手に余るほどに育ててしまう時代の始まりでもあった。(解説より/王谷晶)
※これまで読んだ著者の小説とは少し色合いが違うのではないかという気がしていたのですが、解説で王谷晶氏が同様のことを述べられており、ちょっと安心しました。まんざら間違った感想ではなかったんだと。思うと、えらく “難しい“ ことが書いてあります。
この本を読んでみてください係数 85/100

◆寺地 はるな
1977年佐賀県唐津市生まれ。大阪府在住。
高校卒業後、就職、結婚。35歳から小説を書き始める。
作品 「ビオレタ」「夜が暗いとはかぎらない」「大人は泣かないと思っていた」「正しい愛と理想の息子」「わたしの良い子」「水を縫う」「どうしてわたしはあの子じゃないの」他多数
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