『水車小屋のネネ』 (津村記久子)_書評という名の読書感想文
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『水車小屋のネネ』(津村記久子), 作家別(た行), 書評(さ行), 津村記久子
『水車小屋のネネ』 津村 記久子 毎日文庫 2026年4月25日 発行
「誰かに親切にしなきゃ、人生は長くて退屈なものですよ」 助け合い、支え合う人々の40年を描く希望と再生の物語

水車は回りネネは歌う。18歳と8歳の姉妹がたどり着いた町で出会ったしゃべる鳥 〈ネネ〉。ネネに見守られながら、変転してゆくいくつもの人生 - 自分はおそらく、これまでに出会ったあらゆる人々の良心でできあがっている
「家出ようと思うんだけど、一緒に来る? 」 身勝手な母親から逃れ、山間の町で暮らし始めた18歳の理佐と8歳の律。姉妹を見守る蕎麦屋の浪子さん、絵描きの杉子さん、そしてしゃべる鳥 「ネネ」。ネネのいる水車小屋で働く青年・聡、水車小屋に現れた中学生・研司・・・・・・・人々が織りなす40年にわたる愛おしい物語。第59回谷崎潤一郎賞受賞、2024年本屋大賞第2位など、読書界の話題をさらった感動作! (毎日文庫)
ほんの少しの気遣いや思いやり。ただしたいからする親切の、なんと潔いことか。踏み込み過ぎず、適度な距離を保ちつつ暮らす人と人の関係は、(まるで本の表紙の絵のように) 緩く穏やかな空気に満ち満ちています。
読んでいる間、何度も泣きました。二人の姉妹の辛い境遇に、ではなくて。涙したのは、二人が行き着いた先で出会ったすべての人の “親切“ にでした。誰が、というわけではありません。姉妹が都度関わる全部の人が、その人なりに親切だったということです。
その親切を、二人は受けた分だけ相手に返そうとします。何気に、さりげなく。二人には、それができたのでした。そして、あともう一人 (一羽)。ネネの存在を忘れてはなりません。ヨウムのネネは、おそらく、人の心がわかります。自分は 「人」 だと、思っています。
色とりどりのあたたかさに包まれた風景と登場人物の絵、優しい手触り。この表紙そのままの世界が物語には広がる。主人公の人生に40年の歳月が流れる、津村さんが手がけた最も長い小説だ。
18歳の理佐、8歳の律の姉妹は身勝手な親のもとを飛び出し、2人で生きることに決めた。出会う大人たちに助けられ、自立していく。彼女たちの真ん中にあるのがそば屋の水車小屋であり、そこにいるネネ。しゃべる鳥ヨウムだった。
理佐が働くそば屋の店主夫婦、近所の画家、律の担任の先生。みんな姉妹の事情にずかずか踏み込まず、そっと支える。
「ある人に出会って救われたといった丸抱えする人間関係には疎外感を感じるんです。複数の普通の大人がいて、みんなができる範囲で、無理せず、ちょっとずつ親切にする。『気ぃつけて暮らしや』 と2人を適度にほったらかし、適度に親切にする感じです」。津村さんはそう語る。距離を保った優しさがじんわり。考えれば、ささやかな親切をいくつも受け取って、人は生きているのだろう。
姉妹は母親から十分な愛情を与えられない。「親の愛情がなくて、その人の人生は損なわれるかもしれないけれど、それがすべてではないと言いたかった」。厳しい状況で暮らし始めた律だったが、まわりの大人からの親切を受けとめ、この人生でよかったと肯定していく。それが物語の主旋律となる。
その舞台がそば粉をひく水車小屋。臼の番をしているネネの性格がふるっている。クイズを出すのが好きで、ラジオもビートルズも聞くし、いつもマイペースだ。理佐は水車小屋で得意の裁縫をし、律は友だちを連れてくる。ひとり親家庭で事情を抱える14歳の研司もやってくる。「自宅でも学校でも職場でもないサードプレース、逃げ場ですね」(「好書好日」 2023.06.16 より抜粋)
※物語は1981年に始まり、10年刻みに2021年まで続きます。長い長い、市井の人々とネネの人生が綴られています。ヨウムは長生きで、鳥によっては50年くらい生きるそうです。
この本を読んでみてください係数 85/100

◆津村 記久子
1978年大阪府大阪市生まれ。
大谷大学文学部国際文化学科卒業。
作品 「まともな家の子供はいない」「君は永遠にそいつらより若い」「ポトスライムの舟」「ミュージック・ブレス・ユー!! 」「とにかくうちに帰ります」「浮幽霊ブラジル」「ディス・イズ・ザ・デイ」他多数
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