『泳ぐのに、安全でも適切でもありません』(江國香織)_書評という名の読書感想文

『泳ぐのに、安全でも適切でもありません』江國 香織 集英社 2002年3月10日第一刷


泳ぐのに、安全でも適切でもありません (集英社文庫)

 

江國香織が気になります。

 

It’s not safe or suitable for swim.

江國香織がアメリカの田舎町を旅行しているときに見た、川べりにあった注意書きの立て看板の文句がタイトルになっています。

初版本の装丁は、白地の中の囲みに緑の樹木で区切られた歩道と車道が遠近で描かれ、英語表記のタイトルがピンク色で添えられた垢抜けたものになっています。

タイトルと装丁に惹かれてこの本を手に取った方が、当時たくさんおられたと思います。

江國香織が30歳代に書いた短編集で、第15回の山本周五郎賞を受賞している作品です。

残念ながら私はこの人の小説をほとんど読んでいません。「女性に絶大な人気を誇る恋愛小説のカリスマ」だという評判が逆に読む気を削いでいました。

40歳を過ぎてやっと買ったのがこの本なのですが、買った本人が言うのも何ですが、少なくとも40過ぎのおじさんが真っ先に読む小説ではなかったようです。

この小説を貶すつもりは全くありませんが、普通に考えると読みたいと思うのはやはり女性が圧倒的に多いのでしょう。

イメージとは違いかなり辛辣で明け透けな表現もあったりで、最初は少し戸惑い気味で読み始めた次第です。

 

この本は10の短編からなり、10人の「瞬間」を生きる女性が登場します。彼女たちは、他の誰でもない、自分だけが味わった恋愛観を語ります。

ここでは、他の誰の人生にも起こらなかったことだということが最も重要です。

「瞬間の集積が時間であり、時間の集積が人生であるならば、私はやっぱり瞬間を信じたい。SAFE でも SUITABLE でもない人生で、長期展望にどんな意味があるのでしょうか。」

あとがきで江國香織はこう書いています。

「蜜のような一瞬を確かに生きた」という実感は、消えることのない事実として彼女たちの生活と人生に刻まれます。

 

みなさんは、いかがですか? 私は...分かるのですが、それだけをことさら強調されてもなぁ、といった微妙な思いが残ります。

心情がストレート過ぎる分すぐには反応できず、少し時間をかけないと作者の真意を測り損ねそうで心配です。

瞬間を信じたいという気持ちに同意する一方で、長期展望にどんな意味があるのかと書いた江國香織は、もう少し読んでみる必要がありそうです。

 

この本を読んでみてください係数 75/100

 


泳ぐのに、安全でも適切でもありません (集英社文庫)

◆江國 香織

1964年東京都世田谷区生まれ。

目白学園女子短期大学国文学科卒業。アテネ・フランスを経てデラウエア大学に留学。

父親はエッセイストの江國滋。童話作家として出発、海外の絵本の翻訳も多い。詩人でもある。

作品 「きらきらひかる」「落下する夕方」「号泣する準備はできていた」「がらくた」「真昼なのに昏い部屋」「犬とハモニカ」他多数

◇ブログランキング

応援クリックしていただけると励みになります。
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ

関連記事

『影裏』(沼田真佑)_書評という名の読書感想文

『影裏』沼田 真佑 文藝春秋 2017年7月30日第一刷 影裏 第157回芥川賞受賞 北緯3

記事を読む

『あなたの不幸は蜜の味』(辻村深月ほか)_書評という名の読書感想文

『あなたの不幸は蜜の味』辻村深月ほか PHP文芸文庫 2019年7月19日第1版 あなたの不

記事を読む

『アズミ・ハルコは行方不明』(山内マリコ)_書評という名の読書感想文

『アズミ・ハルコは行方不明』山内 マリコ 幻冬舎文庫 2015年10月20日初版 アズミ・ハル

記事を読む

『往復書簡』(湊かなえ)_書評という名の読書感想文

『往復書簡』湊 かなえ 幻冬舎文庫 2012年8月5日初版 往復書簡 (幻冬舎文庫) 高校教

記事を読む

『夫の墓には入りません』(垣谷美雨)_書評という名の読書感想文

『夫の墓には入りません』垣谷 美雨 中公文庫 2019年1月25日初版 夫の墓には入りません

記事を読む

『Mの女』(浦賀和宏)_書評という名の読書感想文

『Mの女』浦賀 和宏 幻冬舎文庫 2017年10月10日初版 Mの女 (幻冬舎文庫) ミステ

記事を読む

『入らずの森』(宇佐美まこと)_書評という名の読書感想文

『入らずの森』宇佐美 まこと 祥伝社文庫 2016年12月31日第6刷 入らずの森 (祥伝社

記事を読む

『朝が来るまでそばにいる』(彩瀬まる)_書評という名の読書感想文

『朝が来るまでそばにいる』彩瀬 まる 新潮文庫 2019年9月1日発行 朝が来るまでそばにい

記事を読む

『おもかげ』(浅田次郎)_書評という名の読書感想文

『おもかげ』浅田 次郎 講談社文庫 2021年2月17日第4刷発行 おもかげ (講談社文庫)

記事を読む

『アレグリアとは仕事はできない』(津村記久子)_書評という名の読書感想文

『アレグリアとは仕事はできない』津村 記久子 ちくま文庫 2013年6月10日第一刷 アレグリ

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

『ビオレタ』(寺地はるな)_書評という名の読書感想文

『ビオレタ』寺地 はるな ポプラ文庫 2017年4月5日第1刷

『犯人は僕だけが知っている』(松村涼哉)_書評という名の読書感想文

『犯人は僕だけが知っている』松村 涼哉 メディアワークス文庫 2

『大人は泣かないと思っていた』(寺地はるな)_書評という名の読書感想文

『大人は泣かないと思っていた』寺地 はるな 集英社文庫 2021年4

『雪が降る』(藤原伊織)_書評という名の読書感想文

『雪が降る』藤原 伊織 角川文庫 2021年12月25日初版

『リリアン』(岸政彦)_書評という名の読書感想文

『リリアン』岸 政彦 新潮社 2021年2月25日発行 リリア

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑