『♯拡散忌望』(最東対地)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/11 『♯拡散忌望』(最東対地), 作家別(さ行), 書評(か行), 最東対地

『♯拡散忌望』最東 対地 角川ホラー文庫 2017年6月25日初版

ある高校の生徒達の噂。〈ドロリンチョ@MW779〉 このアカウントからのツイートには要注意。晒された人は、頭の中身がどろどろに溶けて噴き出すんだって - 。その噂は本当だった! 晒された者はメッセージを拡散せよ。失敗した先に待つのはおぞましいペナルティ。生徒達は呪いを回避しようとあがく。そしてたどり着いた驚くべき真相とは!? 底なしの闇に引きずり込まれる、読後感の悪さに要注意! でも最後まで読まずにいられない!! (角川ホラー文庫)

事の発端は、ある女生徒へのいじめ。それが為に彼女は自殺を図ります。未遂で済んだものの意識は戻らず、以後長い間病院にいてその状態が続いています。

その子の名前は、百田誉。誉は女優の娘で、母親の桃田和貴子(桃田は芸名)は、30代で誉を身ごもり結婚。誉が3歳になる頃に離婚し、その後シングルマザーとして娘を育てつつテレビの仕事をこなし、やがてお茶の間の顔となります。

人気女優の娘として育った誉は、7歳にしてCMデビュー。大手菓子メーカー・ふたばの看板商品、【ドロリンチョチョコ】新作のイチゴ味のテレビCMに抜擢されます。これが大ブレークし、誉は一躍人気子役タレントの仲間入りを果たします。

ところが中学校進学を控えた頃、誉は芸能界での自分と本当の自分、その気持ちのギャップに堪えられず、引退。彼女は彼女が望んだ通り普通の女子中学生となり、その後、真浦西高校へと進学します。

誉は元来大人しく、かつて芸能界に身を置いていたとは思えないほど引っ込み思案で、控え目な性格。彼女が「あのCMの少女」だとは誰も気付きません。ところが、ある時ひょんなことから、誉がふたばのCMで一世を風靡した元子役であるのがわかります。

と同時に、クラスでは誉に対するいじめが始まります。主導者は同じクラスにいるまりやという女生徒。彼女は、(かつての誉がそうだったように)芸能プロダクションに所属しており、しかし、(誉とはまるで違って)稀にしか声がかからないという状態でした。

当時、まりやは世間的には全く注目されない存在で、人気絶頂の時期に芸能界を去り、何食わぬ顔で普通の女子高生をしている誉のことが許せなかったのでしょう。ほどなくして、まりやを中心とする「誉いじめ」は、クラスの他の生徒へも波及してゆきます。

加担しないものは見て見ぬ振りを強いられ、少しでも誉を庇おうものなら同じ目に遭わされます。誉が孤立するのは時間の問題で、陰湿ないじめは際限なくエスカレートしてゆきます。1-D(1年D組)に居場所がなくなった誉が自殺を試みたのが2月。遺書はありません。誉は自殺に失敗し、その後学校を辞めてしまうことになります。

※以上を踏まえ、物語はこんな場面から始まってゆきます。

カラオケボックスの一室に男女7人がいます。彼らは真浦西高に通う高校生です。中の一人が、「2週間前にこのメンバーで行った廃ホテルでの肝試し、そこで撮った写真に妙なものが写り込んでいる」と言い出します。

話を切り出したのは三浦爽輔。横で熟睡しているのが国村透琉。他に、浪川澄人、菊池あきな、中越るい、鳥居千草、二ノ宮尚という面々がいます。あきなと尚は2年生。あとの5人は3年生です。尚を除く6人は以前からの仲間で、尚は転校生、あきなに誘われてここにいます。

写真を見るうち、あきなの気分が悪くなり、尚とあきな、浪川の3人は途中で店を出ます。そのあとのことです。店に残った4人のスマホが、ほぼ同時に鳴り出します。

《 ドロリンチョ@MW779   ひ」おs6.smq@あv7ひyw@g。つ 》

見ると、意味不明の文字列。そこに画像が一枚添付されてあります。

その画像は集合写真に写った制服姿の透琉で、その時、今度は和久井まりやから透琉の携帯に電話が入ります。透琉の写真を貼り付けた謎めいたツィートに対し、そこにいる面々はもとよりまりやまでもが、何かしら不穏な気配を感じています。

寝起きの透琉に代わり千草とまりやが会話している、まさにその時。皆が、透琉の様子がおかしいのに気付きます。

透琉は、まるで間抜けな調子の歌声で、白目を剥き、首を傾げたままぶるぶると震えながら、かつて誉が歌って人気を博した、ドロリンチョチョコのCMソングを歌っています。

この本を読んでみてください係数 80/100

◆最東 対地
1980年大阪府交野市生まれ。大阪府在住。

作品 「夜葬」(第23回日本ホラー小説大賞・読者賞受賞)に続く第二作。

関連記事

『ラブレス』(桜木紫乃)_書評という名の感想文

『ラブレス』 桜木 紫乃  新潮文庫 2013年12月1日発行 桜木紫乃は 『ホテルローヤル』

記事を読む

『検事の本懐』(柚月裕子)_書評という名の読書感想文

『検事の本懐』柚月 裕子 角川文庫 2018年9月5日3刷 ガレージや車が燃やされ

記事を読む

『また、桜の国で』(須賀しのぶ)_これが現役高校生が選んだ直木賞だ!

『また、桜の国で』須賀 しのぶ 祥伝社文庫 2019年12月20日初版 1938年

記事を読む

『月の満ち欠け』(佐藤正午)_書評という名の読書感想文

『月の満ち欠け』佐藤 正午 岩波書店 2017年4月5日第一刷 生きているうちに読むことができて

記事を読む

『ワン・モア』(桜木紫乃)_書評という名の読書感想文

『ワン・モア』桜木 紫乃 角川書店 2011年11月30日初版 近々文庫が出るらしい。いや、もう

記事を読む

『虚談』(京極夏彦)_この現実はすべて虚構だ/書評という名の読書感想文

『虚談』京極 夏彦 角川文庫 2021年10月25日初版 *表紙の画をよく見てくださ

記事を読む

『身分帳』(佐木隆三)_書評という名の読書感想文

『身分帳』佐木 隆三 講談社文庫 2020年7月15日第1刷 人生の大半を獄中で過

記事を読む

『枯れ蔵』(永井するみ)_書評という名の読書感想文

『枯れ蔵』永井 するみ 新潮社 1997年1月20日発行 富山の有機米農家の水田に、T型トビイロウ

記事を読む

『傲慢と善良』(辻村深月)_書評という名の読書感想文

『傲慢と善良』辻村 深月 朝日新聞出版 2019年3月30日第1刷 婚約者が忽然と

記事を読む

『刑罰0号』(西條奈加)_書評という名の読書感想文

『刑罰0号』西條 奈加 徳間文庫 2020年2月15日初刷 祝 直木賞受賞!

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『八月の母』(早見和真)_書評という名の読書感想文

『八月の母』早見 和真 角川文庫 2025年6月25日 初版発行

『おまえレベルの話はしてない』(芦沢央)_書評という名の読書感想文

『おまえレベルの話はしてない』芦沢 央 河出書房新社 2025年9月

『絶縁病棟』(垣谷美雨)_書評という名の読書感想文

『絶縁病棟』垣谷 美雨 小学館文庫 2025年10月11日 初版第1

『木挽町のあだ討ち』(永井紗耶子)_書評という名の読書感想文

『木挽町のあだ討ち』永井 紗耶子 新潮文庫 2025年10月1日 発

『帰れない探偵』(柴崎友香)_書評という名の読書感想文

『帰れない探偵』柴崎 友香 講談社 2025年8月26日 第4刷発行

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑