『カルマ真仙教事件(中)』(濱嘉之)_書評という名の読書感想文
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『カルマ真仙教事件(中)』(濱嘉之), 作家別(は行), 書評(か行), 濱嘉之
『カルマ真仙教事件(中)』濱 嘉之 講談社文庫 2017年8月9日第一刷
上巻(17.6.15発行)は、第一章「端緒」に始まり、第四章「松林サリン事件」(松本サリン事件のこと)で終わります。ここでは、いよいよ「地下鉄サリン事件」が勃発し、教団施設に対する「強制捜査」を間に挟んで、話は「長官狙撃事件」へと進んで行きます。
(第一章 地下鉄の悪夢より)
1995年3月17日、遂に警察は「世田谷公証役場事務長拉致監禁容疑」で、カルマ真仙教教団全施設に対し強制捜査に入ることを決定します。実施日は5日後の3月22日。動員予定は警視庁捜査第一課から660名、機動隊から1,000名と知らされます。
3月19日。練馬区陸上自衛隊朝霞駐屯地において指揮官クラスによる防毒マスクと防護服の着脱訓練が行われ、21日に全ての捜査員が同様の訓練を行うことが決まります。その頃、警視庁本部6階刑事部長室では、捜査人員配置の最終確認が急ピッチで行われています。
結果、今回の捜査差押の発端となった拉致事件の拠点と目される、第6、第7サティアンには刑事部が踏み込むことが決まります。それに対し、公安部が踏み込むのは第1サティアンだと思われたのですが、まだその連絡はありません。
全ては極秘裏のうちに進められ、万端整い、翌20日午前中には最終的な配置計画が正式に発表なる、そんな手はずだったのですが・・・・・・・
明けて、1995年3月20日月曜日。鷹田は朝から慌ただしくしています。
2日前、カルマ真仙教被害対策弁護団の主任弁護士から、警察庁長官と検事総長宛てに、暴走する教団の危険な状況をつぶさに伝える文書が届いていました。そこには「カルマ真仙教が本当にサリンを撒く可能性がある」と書いてあります。鷹田はこの文章を書いた人物に面会を求めるつもりで早朝から自宅で準備をしていたのでした。
午前8時15分。家の電話が鳴ります。「正一郎か」- 久しぶりに聞く父・正造の声がいやに動揺しているのがわかります。正造は銀座の数寄屋橋交番前の公衆電話からかけているらしく、朝から霞が関に用があり丸の内線で向かう途中で車内で緊急アナウンスがあり、それで電車が停止したのだといいます。
「霞が関が大変なことになっているぞ」「銀座駅構内で騒いでいる人がいた。地下鉄で毒ガスが撒かれたらしいんだよ! 」と告げます。- 事件発生から5分後。鷹田にとり、これが「地下鉄サリン事件」の第一報となります。後々明らかになっていくのですが、
犯行は、東京を網の目のように走る5つの地下鉄車内で行われ、サリンはほぼ同時刻に散布された。午前8時過ぎ、最初の報告は千代田線からだった。電車内で乗客数人が相次いで倒れたとの一報が入ってから、続々被害者の連絡が入った。
駅員によって危険物が排除された後、この電車は霞が関駅を発車する。しかし車内で被害者が増え、次の国会議事堂前駅で停止した。乗客のほか、駆けつけた駅員数名が被害を受け、そのうち2人が死亡、200人を超える重症者が出た。
次は丸の内線、上下線共が被害に遭います。中野坂上駅で乗客から通報を受けた駅員が重症者を搬出、危険物を回収した後、列車は終点まで運行を継続。1人が死亡、350人以上が重症となります。
もうひとつは本郷三丁目駅で駅員によって危険物が処理されます。その後しばらく列車は運行され、国会議事堂前駅で停止するも、200人を超える重症者が出ます。
日比谷線では1人が死亡、530人以上の重症者が出ます。さらに逆方向の日比谷線では、小伝馬町駅で乗客が車内からホームに危険物を蹴り出し、しばらくの間放置されていために被害は甚大なものになります。7人が死亡、重症者は2,500人に迫ります。
8時10分には、複数の地下鉄駅が人であふれ返りパニックが起きた。8時35分、日比谷線は全列車の運転を見合わせ、列車内や駅構内の乗客を避難させた。千代田線、丸の内線では不審物や刺激臭の通報のみだったため、被害発生の確認が遅れ、9時27分になり営団地下鉄すべての路線で運転見合わせとなった。
9時半過ぎになり、ようやく被害は「サリン」という化学物質が原因であるとの通達がなされ、地下鉄全線全駅での状況確認が終わると時刻は11時近くに。負傷者総数は、ゆうに6,000人を超えるまでになっています。
カルマ真仙教教団施設に対する強制捜査が二日後に迫った朝だった。都内地下鉄車内で毒ガスが撒かれたとの一報に、公安部鷹田は愕然とした。どこから情報が漏れたのか。公安は、防げなかった - 。多数の被害者を出した駅で惨状を目の当たりにした鷹田は嗚咽し、固く雪辱を誓うが。怒濤の警察小説! 【下巻へ続く】(講談社文庫)
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◆濱 嘉之
1957年福岡県生まれ。
中央大学法学部法律学科卒業。その後、警視庁入庁。2004年、退職。
作品 「警視庁情報官」シリーズ、「オメガ」シリーズ、「ヒトイチ 警視庁人事一課監察係」シリーズ、「鬼手 世田谷駐在刑事・小林健」他
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