『青が破れる』(町屋良平)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/11 『青が破れる』(町屋良平), 作家別(ま行), 書評(あ行), 町屋良平

『青が破れる』町屋 良平 河出書房新社 2016年11月30日初版

この冬、彼女が死んで、友達が死んで、友達の彼女が死んだ。ボクサーになりたいが、なれない青年・秋吉。夏澄との不倫恋愛を重ねながら、ボクシングジムでは才能あるボクサー・梅生とのスパーリングを重ねる日々。ある日、友人のハルオに連れられハルオの恋人・とう子の見舞いへ行く。ハルオに言われその後はひとりでとう子のもとを訪ねることになるが・・・・・・・。
清新にして感情的な新たなる文体。21世紀のボクシング小説にして、現代を象る青春小説である第53回文藝賞受賞の表題作「青が破れる」に加え、書き下ろし短篇 「脱皮ボーイ」 と 「読書」 を収録。(アマゾン商品説明より抜粋)

秋吉  ボクサーになりたい主人公。でも才能なし。
梅生  秋吉のジムの同僚。かなり才能あり。
ハルオ 秋吉の親友。たまに唐突に消える。
とう子 ハルオの恋人。余命短し。美人。
夏澄  秋吉の恋人。夫・子あり。つまり不倫。

他に、夏澄の息子で、9歳になる 「陽」 という名の少年がいます。秋吉は 「シューキチ」 と読みます。

わずか112枚の小説で3人の身近な者たちが死ぬという暴挙を事もなげにやった。自然に、そしてリアルに。その物語の破れ目から、茫洋とした未知な感情の景色が見えてきた本作を推す。(藤沢周)

小説が読む人を動かすのは、技術や知識ではなく書く人がこの現実に対して持っている違和感からくる熱意や孤独だ。この小説には書くという熱意があるから伝わった。私は作者の孤独な時間に共感した。(保坂和志)

この小説が 「あらすじを追うというよりも別のなにかを語ろうとしている」 そんな作品であるというのがわかります。秋吉に比して、登場する人物らは概して多くを語りません。それでいてわかれと、わかるはずだと声には出さずに。

そして、町田康の文章。

人の抱える切なさ、遣る瀬なさ、は定型化され詩になり、歌になる。本作ではそれが小説でしか描きえないやり方で描かれている。特に結末の近く、神の名が呼ばれるところの前後の独白は、もはやすべての人が心に抱えている、なんと呼んだらよいかわからない感情に迫っていて素晴らしい。

どうです? 読みたいのは山々だけど、読むとかならず深間に嵌まる。秋吉の、ハルオの、とう子の、夏澄の言動について行けずに、右往左往することになります。

ふたりはほぼ同時期に死んだ。

ハルオは酩酊しているところを、トラックに轢かれて死んだ。警察では事故と認定されたものの、自殺だったのかもしれない。すくなくとも、自暴自棄であったことはたしかだった。とう子さんは数週間後、ながい昏睡の末亡くなった。ハルオの死はしらずに死んだ。

梅生とスパーをやっても、勝てるきがしなかった。次戦を控えた梅生は、もう以前の梅生ではない。そこにあるのは純然たる技術で、純然たる意志で、おれの霊感とあそんでいるよゆうなんてないみたいだった。あくまでも機能的に、毎回ボコボコにされる。

「とうとう、おれとお前だけになってしまった」
梅生は、ボロボロと泣き、「かんがえないようにしている」 といった。

「考えないようにしているのに」
「ごめんな、でも、パンチでぜんぶわかるから。コミュニケーションを削いだお前のパンチは、すごいぞ。きっと勝てる。もうおれをみてないんだな」
「なんだ、秋吉さん、スピリチュアルくそボクサー志望っすね! 」

梅生は泣き笑いした。

この本を読んでみてください係数 80/100

◆町屋 良平
1983年東京都生まれ。

作品 2016年、「青が破れる」で第53回文藝賞を受賞。

関連記事

『異類婚姻譚』(本谷有希子)_書評という名の読書感想文

『異類婚姻譚』本谷 有希子 講談社 2016年1月20日初版 子供もなく職にも就かず、安楽な結

記事を読む

『逢魔が時に会いましょう』(荻原浩)_書評という名の読書感想文

『逢魔が時に会いましょう』荻原 浩 集英社文庫 2018年11月7日第2刷 大学4

記事を読む

『王国』(中村文則)_書評という名の読書感想文

『王国』中村 文則 河出文庫 2015年4月20日初版 児童養護施設育ちのユリカ。フルネーム

記事を読む

『信仰/Faith』(村田沙耶香)_書評という名の読書感想文

『信仰/Faith』村田 沙耶香 文藝春秋 2022年8月10日第3刷発行 なあ、俺

記事を読む

『太陽のパスタ、豆のスープ』(宮下奈都)_書評という名の読書感想文

『太陽のパスタ、豆のスープ』宮下 奈都 集英社文庫 2013年1月25日第一刷 結婚式直前に突然婚

記事を読む

『夫の墓には入りません』(垣谷美雨)_書評という名の読書感想文

『夫の墓には入りません』垣谷 美雨 中公文庫 2019年1月25日初版 どうして悲し

記事を読む

『命売ります』(三島由紀夫)_書評という名の読書感想文

『命売ります』三島 由紀夫 ちくま文庫 1998年2月24日第一刷 先日書店へ行って何気に文

記事を読む

『カウントダウン』(真梨幸子)_書評という名の読書感想文

『カウントダウン』真梨 幸子 宝島社文庫 2020年6月18日第1刷 半年後までに

記事を読む

『丸の内魔法少女ミラクリーナ』(村田沙耶香)_書評という名の読書感想文

『丸の内魔法少女ミラクリーナ』村田 沙耶香 角川文庫 2023年2月25日初版発行

記事を読む

『青い鳥』(重松清)_書評という名の読書感想文

『青い鳥』重松 清 新潮文庫 2021年6月15日22刷 先生が選ぶ最泣の一冊 1

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『海神 (わだつみ)』(染井為人)_書評という名の読書感想文

『海神 (わだつみ)』染井 為人 光文社文庫 2024年2月20日

『百年と一日』(柴崎友香)_書評という名の読書感想文

『百年と一日』柴崎 友香 ちくま文庫 2024年3月10日 第1刷発

『燕は戻ってこない』(桐野夏生)_書評という名の読書感想文

『燕は戻ってこない』桐野 夏生 集英社文庫 2024年3月25日 第

『羊は安らかに草を食み』(宇佐美まこと)_書評という名の読書感想文

『羊は安らかに草を食み』宇佐美 まこと 祥伝社文庫 2024年3月2

『逆転美人』(藤崎翔)_書評という名の読書感想文

『逆転美人』藤崎 翔 双葉文庫 2024年2月13日第15刷 発行

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑