『道徳の時間』(呉勝浩)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/11 『道徳の時間』(呉勝浩), 作家別(か行), 呉勝浩, 書評(た行)

『道徳の時間』呉 勝浩 講談社文庫 2017年8月9日第一刷

道徳の時間を始めます。殺したのはだれ? - 有名陶芸家の死亡現場で、殺人をほのめかす落書きが見つかる。同じ頃、VJ(ビデオジャーナリスト)の伏見にかつて町の小学校で起きた殺人事件の映画撮影のオファーが。伏見はふたつの事件の奇妙なリンクに搦め捕られていく。選考会も紛糾した江戸川乱歩賞受賞作を完全リニューアル。(講談社文庫)

物語の舞台は、関西にあるT県鳴川市。2001年9月9日、鳴川第二小学校の講堂で、小学5、6年生を含む300人を前に講演していた正木昌太郎が、向晴人に刺殺された。正木は鳴二小の元教師でカリスマ的な教育者。今回の講演は、正木の教え子で、その教育理念を信奉する宮本由紀夫が企画した。

犯人の向も正木の教え子で、宮本の同級生。正木を刺した向を真っ先に取り押さえたのは、宮本だった。向は現行犯で逮捕されるが、裁判で懲役15年の判決が出るまで完全黙秘を貫く。ただ判決前に「これは道徳の問題なのです」と語った。これが鳴川事件である。(解説より抜粋)

13年後 - 同じ鳴川市において。

フリーのビデオジャーナリスト・伏見祐大は、以前手がけた仕事で失敗し、失意のうちに無為な日々を送っています。住み慣れた東京を離れ、妻の朋子のたつての希望で、彼女の故郷の鳴川市へと住居を変えています。二人には友希という小学5年生の息子がいます。

ある日、伏見のもとに思わぬ依頼が舞い込んできます。昔の仕事仲間の田辺から、「鳴川事件」のドキュメンタリー映画を制作する女性ディレクター、越智冬菜の下でカメラを担当してみないかという誘いで、

聞くと、彼女は何年もかけて周到な準備をしているといいます。独力でスポンサーを集め、正木が刺される瞬間を映したものの行方不明になっていたビデオテープを手に入れ、拘留中の向が仮釈放されるに合わせ、話を聞く手はずまで整えているといいます。

衆人環境の中で起こったこの殺人事件は、(向が残した謎の言葉はあるものの)既に全ては確定し、もはや過去のものとなっています。新たな事実など見つかりそうもないこの単純な事件を、越智はエンターテインメント映画にするといいます。スポンサーからは既に必要な資金を受け取っているといいます。

伏見は、最初このオファーを断ろうと考えます。- 今時、ドキュメント映画などまともな商売にならないし、おまけに知名度ゼロの素人監督でインディペンデントとくれば、どう考えても採算が合わない - 越智に対し、伏見は何かしら正体の知れないものの気配を感じ取ります。

と、そんな折、伏見の周辺で、過去に起こった「鳴川事件」との関連を思わせるような新たな事件が発生します。

小学校で飼っていた兎が盗まれ、段ボール箱に入れて道路上に放置され車に轢かれたり、幼い女の子が強力な接着剤が塗られた鉄棒を摑んで手が離れなくなるなど、悪質ないたずらが続けざまに発生します。そして現場には、

生物の時間を始めます
体育の時間を始めます

と、メッセージが残されます。

その渦中、今度は鳴川市の名家、青柳家出身の陶芸家・青柳南房が自宅の居間で自殺しているのがわかります。ところが、隣の仏間を見ると、壁に

道徳の時間を始めます。殺したのはだれ?

と、メッセージがあります。当初南房は自殺したものとばかり思われていたのが、俄然「犯人捜し」へと思惑を変えてゆきます。そしてそこに伏見は、微かに、息子・友希の関与を疑うようになります。

この本を読んでみてください係数 85/100

◆呉 勝浩
1981年青森県生まれ。
大阪芸術大学映像学科卒業。

作品 「ロスト」「蜃気楼の犬」「白い衝動」「ライオン・ブルー」など

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