『すべての男は消耗品である』(村上龍)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/14 『すべての男は消耗品である』(村上龍), 作家別(ま行), 書評(さ行), 村上龍

『すべての男は消耗品である』村上 龍 KKベストセラーズ 1987年8月1日初版

1987年といえば、村上龍が作家デビューして約10年、35歳の頃です。

私にとって村上龍はちょっと歳の離れた兄貴くらいの年齢で、当時はえらいイケイケの兄ちゃんやなぁと思っていた程度でした。

歳が近いのと、デビュー作の『限りなく透明に近いブルー』が自分の住む世界とはあまりにも別世界の話に思えて、長い間遠目から眺めるだけで読まずにいました。

そんなとき、この『すべての男は消耗品である』が出版されたのです。

私の年齢に近い=村上龍とほぼ同世代の、多くの男性がこの本のタイトルに惹きつけられ、思わず手に取ったはずです。何とも衝撃的な本でした。

瞬く間にベストセラーになり、その後長くシリーズ化されていることが不動の人気を何より証明しています。

本の内容については、美人で凄腕の評論家、今は亡き島森路子女史の言葉が端的です。
「村上龍は自分の信じたことを言う。自分で見たこと聞いたこと触ったこと感じたこと、ともかく自分の実感を信じてものを言う。
それが、周りから見て、どんなふうに見えるかなんて気にしていない。」

冒頭の章「かわいい女とかわいくない女」で、かわいい女が出来あがるためには父親の存在が重要だと説明するくだりで、
いきなり「ブスは論外だ。ブスにも素晴らしい女はいるが、内面の輝きが表層に表れるというのは、ひとつの転倒にすぎない。」とバッサリ言ってしまうわけです。
続いて、
「ブスの中にも社会的に素晴らしい女はいる。有用な女だ。だが、最近の女性雑誌がよく特集しているように、内面を磨けば顔形まで美しくなるというのは大嘘だ。」

世の男性は「そうだ!その通りなのだ」と、失礼ながらも、深く頷いてしまうわけです。

こんなにストレートに言っていいのかよ、とどこかで罪悪感めいた気持ちを抱きつつ、でもこれってホントのこと言ってるよなと感じ入ってしまうのです。

これはあくまでも一例です。村上龍は女性を貶めるために書いているのではなく、あくまで女性は強く、男性は使い捨ての消耗品であるということが言いたいのです。

ただその言い方が辛辣で、容赦がない分多くのバッシングも受けています。

●美醜、生まれ、育ち、運命、それらはすべて才能の一部だ
●セックスに必要なものは体力だ、愛じゃない
●若くて、きれいな女には絶対かなわない
●「美人は三日で飽きる」というのはブスの自殺を救うための嘘である
●農耕民族の男にホレる女はみんなクズだ
●小説家はOLに憧れている
●優秀なキャリアウーマンは知性を必要としない
●男の犯罪と芸術はすべて勃起をおさえるために発生する
●曖昧でない男女関係など、火星に行っても心中の途中でも、ありはしない

目次を拾い書きしてみました。どうです? これだけでも刺激的でしょ。こんな風に書いてるひと、村上龍以外に私は知りません。

1987年といえば、NTTが初めて携帯電話サービスを開始した年です。麻原彰晃がオウム真理教を設立したのもこの年です。
映画「マルサの女」が大ヒットし、6月には日経平均が25,000円を越えました。米国で岡本綾子がプロゴルフの賞金女王になり、巨人の江川は11月に引退を表明しています。
年の瀬が近づく11月29日には、金賢姫による大韓航空機爆破事件が発生しています。

書籍では、俵万智の『サラダ日記』、村上春樹の『ノルウェイの森』などがベストセラーになっています。

そして村上龍は、長編では『69 sixty nine』『愛と幻想のファシズム』、短編では『走れ!タカハシ』『ニューヨーク・シティ・マラソン』などの小説を発表しています。

同輩の皆さん、まだまだ腫れ物に触るように女性と接していた、若かりしあの頃を少しでも思い出してもらえたでしょうか。

この本を読んでみてください係数 90/100


◆村上 龍

1952年長崎県佐世保市生まれ。本名は村上龍之助。父は美術教師、母は数学教師だった。

武蔵野美術大学造形学部中退。

作品 「限りなく透明に近いブルー」「コインロッカー・ベイビーズ」「愛と幻想のファシズム」「五分後の世界」「インザ・ミソスープ」「希望の国のエクソダス」「半島を出よ」他多数

◇ブログランキング

応援クリックしていただけると励みになります。
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ

関連記事

『捨ててこそ空也』(梓澤要)_書評という名の読書感想文

『捨ててこそ空也』梓澤 要 新潮文庫 2017年12月1日発行 平安時代半ば、醍醐天皇の皇子ながら

記事を読む

『新宿鮫』(大沢在昌)_書評という名の読書感想文(その1)

『新宿鮫』(その1)大沢 在昌 光文社(カッパ・ノベルス) 1990年9月25日初版 『新宿

記事を読む

『信仰/Faith』(村田沙耶香)_書評という名の読書感想文

『信仰/Faith』村田 沙耶香 文藝春秋 2022年8月10日第3刷発行 なあ、俺

記事を読む

『生存者ゼロ』(安生正)_書評という名の読書感想文

『生存者ゼロ』安生 正 宝島社文庫 2014年2月20日第一刷 北海道根室半島沖に浮かぶ石油掘

記事を読む

『花の鎖』(湊かなえ)_書評という名の読書感想文

『花の鎖』湊 かなえ 文春文庫 2018年8月1日19刷 両親を亡くし仕事も失った矢先に祖母がガン

記事を読む

『過ぎ去りし王国の城』(宮部みゆき)_書評という名の読書感想文

『過ぎ去りし王国の城』宮部 みゆき 角川文庫 2018年6月25日初版 中学3年の尾垣真が拾った中

記事を読む

『命売ります』(三島由紀夫)_書評という名の読書感想文

『命売ります』三島 由紀夫 ちくま文庫 1998年2月24日第一刷 先日書店へ行って何気に文

記事を読む

『三の隣は五号室』(長嶋有)_あるアパートの一室のあるある物語

『三の隣は五号室』長嶋 有 中公文庫 2019年12月25日初版 傷心のOLがいた

記事を読む

『スモールワールズ』(一穂ミチ)_書評という名の読書感想文

『スモールワールズ』一穂 ミチ 講談社文庫 2023年10月13日 第1刷発行 2022年本

記事を読む

『その街の今は』(柴崎友香)_書評という名の読書感想文

『その街の今は』柴崎 友香 新潮社 2006年9月30日発行 ここが昔どんなんやったか、知りたいね

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『朱色の化身』(塩田武士)_書評という名の読書感想文

『朱色の化身』塩田 武士 講談社文庫 2024年2月15日第1刷発行

『あなたが殺したのは誰』(まさきとしか)_書評という名の読書感想文

『あなたが殺したのは誰』まさき としか 小学館文庫 2024年2月1

『ある行旅死亡人の物語』(共同通信大阪社会部 武田惇志 伊藤亜衣)_書評という名の読書感想文

『ある行旅死亡人の物語』共同通信大阪社会部 武田惇志 伊藤亜衣 毎日

『アンソーシャル ディスタンス』(金原ひとみ)_書評という名の読書感想文

『アンソーシャル ディスタンス』金原 ひとみ 新潮文庫 2024年2

『十七八より』(乗代雄介)_書評という名の読書感想文

『十七八より』乗代 雄介 講談社文庫 2022年1月14日 第1刷発

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑