『崖の館』(佐々木丸美)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/11 『崖の館』(佐々木丸美), 佐々木丸美, 作家別(さ行), 書評(か行)

『崖の館』佐々木 丸美 創元推理文庫 2006年12月22日初版

哀しい伝説を秘めた百人浜の断崖に聳える白い洋館。そこに住まう資産家のおばのもとに、高校生の涼子は五人のいとこたちとともに、いつものように冬休みを過ごしに訪れた。しかし到着した当日に起きた絵画消失事件が、皆の間に暗い影を落とす。理屈屋の哲文は、二年前に崖から転落したおばの愛娘、千波の死に関連しているのではと推測する。彼女は生前、姿の見えない悪意に脅かされていた。聡明で慈悲深く、美しかった少女の身に何が起きたのか? 密室からの人間消失、新たな転落事故・・・・・・・雪に閉ざされた館では更に凶事が続く。疑心暗鬼に囚われながらも、いとこたちは知恵を集めて犯人探しに乗り出すが。〈館〉三部作第一弾。(創元推理文庫)

読んだ私が言うのも変ですが、なぜ (私は) この人の本を手に取ってしまうのか。その「理由」がよくわかりません。というか、そもそも皆さんは「佐々木丸美」という作家をご存じなのでしょうか?

解説の若竹七海氏いわく - わたしが『崖の館』で佐々木丸美作品に出会ってからかれこれ三十年近くになるが、「わたし、佐々木丸美が好きなんです! 」 と自分から言い出したひとには、これまでひとりしか出会ったことがない - といいます。

〈佐々木丸美を読んだことのあるひと〉 なら数人知っているが、彼らとだって、佐々木丸美について語り合ったことはなかった - と続き、以下のように結論しています。

ひとつには佐々木丸美が1975年にテビューして約10年間に17作品を発表後、沈黙してしまった、という事情があるからだろう。(中略) だが、それ以上に、佐々木丸美は語るのがむつかしい作家なのである。

彼女の作品が嫌いなわけではない。妙に惹きつけられる。とても気になる。だから読んでしまう。でも大好きとまでは言い切れない。どう評価していいのかわからない。個人的な読書経験の中ですら位置づけができない。

そう!! その通りなのです。(若竹さん、よくぞ言ってくれました! という感じ)

この人(佐々木丸美)の書くミステリーは、少なくとも「今風」ではありません。昔、夢中になって読んだ推理作家のような、どこかしら懐かしい空気が漂っています。

現実にはありそうもない崖の上に建つ白い洋館。親族しかいない中での、親族による連続殺人。鍵のかかった人のいない部屋から、突然消えてなくなった絵画。謎めいた絵画の消失は、次に起こる不審死や、新たな転落事故への布石となります。

綿密に仕組まれた密室の謎を解くのが何よりの好物だというあなたになら、お勧めの一冊だと思います。

しかし、作中で交わされる絵画にまつわる小難しい議論、哲学めいた会話や文学論などは七面倒くさくて読む気にならないというのならやめた方がいいと思います。(ついでに言うと、語り手である涼子の言動がやや少女趣味に過ぎ、甘ったるく感じるかもしれません)

強いて読めとは言いません。読むかどうかはあなた次第、ということにしておきたいと思います。

この本を読んでみてください係数 80/100

◆佐々木 丸美
1949年北海道当別市生まれ。2005年没、享年56歳。
北海学園大学法学部中退。

作品 「雪の断章」「忘れな草」「花嫁人形」「風花の里」「水に描かれた館」「夢館」「恋愛今昔物語」「榛家の伝説」他

関連記事

『黒冷水』(羽田圭介)_書評という名の読書感想文

『黒冷水』羽田 圭介 河出文庫 2005年11月20日初版 兄の部屋を偏執的にアサる弟と、罠(

記事を読む

『カラヴィンカ』(遠田潤子)_書評という名の読書感想文

『カラヴィンカ』遠田 潤子 角川文庫 2017年10月25日初版 売れないギタリストの多聞は、音楽

記事を読む

『彼女は頭が悪いから』(姫野カオルコ)_書評という名の読書感想文

『彼女は頭が悪いから』姫野 カオルコ 文藝春秋 2018年7月20日第一刷 (読んだ私が言うのも

記事を読む

『格闘する者に◯(まる)』三浦しをん_書評という名の読書感想文

『格闘する者に◯(まる)』 三浦 しをん 新潮文庫 2005年3月1日発行 この人の本が店頭に並

記事を読む

『孤虫症』(真梨幸子)_書評という名の読書感想文

『孤虫症』真梨 幸子 講談社文庫 2008年10月15日第一刷 真梨幸子のデビュー作。このデビュ

記事を読む

『アンダーリポート/ブルー』(佐藤正午)_書評という名の読書感想文

『アンダーリポート/ブルー』佐藤 正午 小学館文庫 2015年9月13日初版 15年前、ある地方

記事を読む

『けむたい後輩』(柚木麻子)_書評という名の読書感想文

『けむたい後輩』柚木 麻子 幻冬舎文庫 2014年12月5日初版 14歳で作家デビューした過去

記事を読む

『孤蝶の城 』(桜木紫乃)_書評という名の読書感想文

『孤蝶の城 』桜木 紫乃 新潮文庫 2025年4月1日 発行 夜のクラブ、芸能界 - スポッ

記事を読む

『銀河鉄道の父』(門井慶喜)_書評という名の読書感想文

『銀河鉄道の父』門井 慶喜 講談社 2017年9月12日第一刷 第158回直木賞受賞作。 明治2

記事を読む

『顔に降りかかる雨/新装版』(桐野夏生)_書評という名の読書感想文

『顔に降りかかる雨/新装版』桐野 夏生 講談社文庫 2017年6月15日第一刷 親友の耀子が、曰く

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『おまえレベルの話はしてない』(芦沢央)_書評という名の読書感想文

『おまえレベルの話はしてない』芦沢 央 河出書房新社 2025年9月

『絶縁病棟』(垣谷美雨)_書評という名の読書感想文

『絶縁病棟』垣谷 美雨 小学館文庫 2025年10月11日 初版第1

『木挽町のあだ討ち』(永井紗耶子)_書評という名の読書感想文

『木挽町のあだ討ち』永井 紗耶子 新潮文庫 2025年10月1日 発

『帰れない探偵』(柴崎友香)_書評という名の読書感想文

『帰れない探偵』柴崎 友香 講談社 2025年8月26日 第4刷発行

『野火の夜/木部美智子シリーズ』(望月諒子)_書評という名の読書感想文

『野火の夜/木部美智子シリーズ』望月 諒子 新潮文庫 2025年10

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑