『崖の館』(佐々木丸美)_書評という名の読書感想文

『崖の館』佐々木 丸美 創元推理文庫 2006年12月22日初版


崖の館 (創元推理文庫)

哀しい伝説を秘めた百人浜の断崖に聳える白い洋館。そこに住まう資産家のおばのもとに、高校生の涼子は五人のいとこたちとともに、いつものように冬休みを過ごしに訪れた。しかし到着した当日に起きた絵画消失事件が、皆の間に暗い影を落とす。理屈屋の哲文は、二年前に崖から転落したおばの愛娘、千波の死に関連しているのではと推測する。彼女は生前、姿の見えない悪意に脅かされていた。聡明で慈悲深く、美しかった少女の身に何が起きたのか? 密室からの人間消失、新たな転落事故・・・・・・・雪に閉ざされた館では更に凶事が続く。疑心暗鬼に囚われながらも、いとこたちは知恵を集めて犯人探しに乗り出すが。〈館〉三部作第一弾。(創元推理文庫)

読んだ私が言うのも変ですが、なぜ (私は) この人の本を手に取ってしまうのか。その「理由」がよくわかりません。というか、そもそも皆さんは「佐々木丸美」という作家をご存じなのでしょうか?

解説の若竹七海氏いわく - わたしが『崖の館』で佐々木丸美作品に出会ってからかれこれ三十年近くになるが、「わたし、佐々木丸美が好きなんです! 」 と自分から言い出したひとには、これまでひとりしか出会ったことがない - といいます。

〈佐々木丸美を読んだことのあるひと〉 なら数人知っているが、彼らとだって、佐々木丸美について語り合ったことはなかった - と続き、以下のように結論しています。

ひとつには佐々木丸美が1975年にテビューして約10年間に17作品を発表後、沈黙してしまった、という事情があるからだろう。(中略) だが、それ以上に、佐々木丸美は語るのがむつかしい作家なのである。

彼女の作品が嫌いなわけではない。妙に惹きつけられる。とても気になる。だから読んでしまう。でも大好きとまでは言い切れない。どう評価していいのかわからない。個人的な読書経験の中ですら位置づけができない。

そう!! その通りなのです。(若竹さん、よくぞ言ってくれました! という感じ)

この人(佐々木丸美)の書くミステリーは、少なくとも「今風」ではありません。昔、夢中になって読んだ推理作家のような、どこかしら懐かしい空気が漂っています。

現実にはありそうもない崖の上に建つ白い洋館。親族しかいない中での、親族による連続殺人。鍵のかかった人のいない部屋から、突然消えてなくなった絵画。謎めいた絵画の消失は、次に起こる不審死や、新たな転落事故への布石となります。

綿密に仕組まれた密室の謎を解くのが何よりの好物だというあなたになら、お勧めの一冊だと思います。

しかし、作中で交わされる絵画にまつわる小難しい議論、哲学めいた会話や文学論などは七面倒くさくて読む気にならないというのならやめた方がいいと思います。(ついでに言うと、語り手である涼子の言動がやや少女趣味に過ぎ、甘ったるく感じるかもしれません)

強いて読めとは言いません。読むかどうかはあなた次第、ということにしておきたいと思います。

 

この本を読んでみてください係数 80/100


崖の館 (創元推理文庫)

◆佐々木 丸美
1949年北海道当別市生まれ。2005年没、享年56歳。
北海学園大学法学部中退。

作品 「雪の断章」「忘れな草」「花嫁人形」「風花の里」「水に描かれた館」「夢館」「恋愛今昔物語」「榛家の伝説」他

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