『満願』(米澤穂信)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/14 『満願』(米澤穂信), 作家別(や行), 書評(ま行), 米澤穂信

『満願』米澤 穂信 新潮社 2014年3月20日発行

米澤穂信の『満願』をようやく読みました。なんせ評判がすごいものですから気にはなっていたのですが、ミステリーランキングの国内編3冠獲得ですか。これは大したものです。これを読まずに今年のミステリは語れないと言われれば、もう読むしかありません。
・・・・・・・・・・
この本には、表題作「満願」をはじめ6つの短編が収められています。

「夜警」
ある事件で、新任の川藤巡査は犯人の短刀によって命を奪われます。犯人も川藤の銃弾が命中して死亡します。警察は、川藤の拳銃使用は適正だったという見解を示します。
川藤の生前、交番長の柳岡は川藤が警官には不向きな男だと感じており、川藤の言動を注視していました。

「死人宿」
佐和子が仕事で悩んでいた時、彼女を十分理解しようとしなかったことを私は後悔しています。佐和子は大学職員を辞めた後、栃木の八溝の山深い温泉宿の仲居になっていました。
その温泉宿は「死人宿」と噂され、毎年自殺者が出ることで有名な宿でした。
「柘榴」
さおりの夫・佐原成海は異性を惹き付ける不思議な魅力の持ちですが、如何せん生活能力がありません。夕子と月子、二人の娘がいるものの、さおりは佐原との離婚を決意します。
放棄すると思っていた親権について、佐原は予想に反して二人の娘を引取ると言います。

「万灯」
井桁商事の伊丹は、バングラデシュで天然ガス資源の開発に従事しています。しかし、インフラは未整備、政情も定まらない中で仕事は思うように捗りません。事業を円滑に進めるには、開発予定地への途中にどうしても物資の集積拠点を設置する必要がありました。

「関守」
伊豆半島の天城連山を越える道「桂谷峠」は、小田原から車で三時間、曲がりくねった山道をひたすら辿った先にありました。ライターの俺は、都市伝説の原稿を依頼されて桂谷峠まで来ています。俺はさびれたドライブインで、店主の老婆に何気に取材を始めます。

「満願」
藤井が初めて鵜川妙子と出会ったのは、先輩から紹介された下宿先の玄関でした。鵜川家は夫婦二人、藤井は二階で、弁護士を目指して司法試験の勉強に明け暮れます。
鵜川妙子が貸金業を営む矢場英司を殺害したのは、昭和52年9月のことでした。
調布警察署の面会室で4年ぶりに妙子と再会した藤井は、妙子の弁護人となります。

どこかに書いてましたが、まさしく王道ですね。久々にミステリーに浸りました。
題材が豊富で、同じような話が一切なくて、トリックというかオチがどれも鮮やかです。
こんな短編なら、いくらでも読んでいたい、そう思いました。

好みはあるでしょうが、私のオススメは「万灯」と「関守」ですかね。
どちらか選べと言われたら、、、「関守」、いやそれより「柘榴」の艶っぽさが捨てがたいな。。。
「夜警」の柳岡の硬質な感じはいいよなぁ、と思いは千々に乱れるのです。

この本を読んでみてください係数 90/100


◆米澤 穂信

1978年岐阜県生まれ。

金沢大学文学部卒業。

作品「氷菓」「心あたりのある者は」「インシテミル」「追想五断章」「折れた竜骨」他多数

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