『HEAVEN/萩原重化学工業連続殺人事件』(浦賀和宏)_書評という名の読書感想文

『HEAVEN/萩原重化学工業連続殺人事件』浦賀 和宏  幻冬舎文庫  2018年4月10日初版

ナンパした祥子を情事の最中に絞め殺してしまった19歳の零。だが警察が到着した時には死体は消えていた。そして祥子は、別の場所で、頭頂部を切断され、頭蓋骨の中の脳を持ち去られた無残な姿で見つかる。以来、同様の猟奇殺人が次々に発生する。脳のない死体の意味は? 全ての事件の鍵を握る萩原重化学工業とは? 怒涛の展開、超絶ミステリ! (幻冬舎文庫)

一と話すようになったのは、彼の兄の零のことを気にかけたからだ。あんな女たらしがどうなろうと - たとえ新理司に殺されようと - 知ったことではなかったが、有葉零は祥子に出会ってしまった。

祥子は心がない少女だった。怒りも、苦しみも、喜びも、悲しみも、祥子にはなかった。自己に対する思索はすべて感情から生み出されている。それをしない人間は、他人に対する思索もしなかった。祥子にとっては他人も、自分も、存在しないに等しいものだった。そこには、世界がなかった。(中略)

綾佳と祥子は、あらゆる意味で正反対の存在だった。無限とゼロのように、光と闇のように、善と悪のように、それ単体では決して定義し得ず、対象の存在があって初めて成り立つモノなのに、決して交わらない少女達だった。綾佳は他者と自分の区別がなかった - 祥子を除いては。祥子だけは綾佳の世界から抜け落ち、空白の虚無を形作っていた。

その祥子が新理司を殺すために、綾佳が身を潜める街にやってきた。そして事件は、始まったのだ。(本文/中ほどのあたり)

もうひとつ。

「脳」を失った死体が語る、密室の不可能犯罪!   双子の兄弟、零と一の前に現れた、不死身の少女・祥子と、何もかもを見通す謎の家政婦。彼らが信じていた世界は、事件に巻き込まれる内に音を立てて崩壊していき・・・・・・・。脳のない死体の意味とは!? 世界を俯瞰する謎の男女と、すべての事件の鍵を握る “萩原重化学工業” の正体とは!? 浦賀和宏の最高傑作ミステリが世界の常識を打ち破る。(「BOOK」データベースより)

これはSFか? ミステリーか? 正気の上の、話なのでしょうか。

「人間は全体で人間だろう。脳が人間の本体だとする考えがある。確かにそれはその通りかもしれない。しかし現実は、目や耳や鼻や皮膚感覚によって創り出されたものだ。身体と脳を切り離したら、現実はどちらにあるんだ? 身体の方にあるのか? 脳にあるのか? それとも身体と脳の中間部分の空間にあるのか? 身体から脳を取り出したら、自己は一体どこに存在するんだ? 」

大地は想像する。もし自分の頭の中に、脳など入っていなかったら。既に脳は摘出されて、どこか別の場所に運ばれていたら。
今、この瞬間に、自分を自分と思う自分は、一体どこに在るのだろう。(P400)

- と、そんなことが書いてあります。

この本を読んでみてください係数 80/100

◆浦賀 和宏
1978年神奈川県生まれ。

作品 「記憶の果て」「彼女は存在しない」「眠りの牢獄」「こわれもの」「ifの悲劇」「ファントムの夜明け」「緋い猫」他多数

関連記事

『真夜中のマーチ』(奥田英朗)_書評という名の読書感想文

『真夜中のマーチ』奥田 英朗 集英社文庫 2019年6月8日第12刷 自称青年実業

記事を読む

『花や咲く咲く』(あさのあつこ)_書評という名の読書感想文

『花や咲く咲く』あさの あつこ 実業之日本社文庫 2016年10月15日初版 昭和18年、初夏。小

記事を読む

『スペードの3』(朝井リョウ)_書評という名の読書感想文

『スペードの3』朝井 リョウ 講談社文庫 2017年4月14日第一刷 有名劇団のかつてのスター〈つ

記事を読む

『僕の神様』(芦沢央)_書評という名の読書感想文

『僕の神様』芦沢 央 角川文庫 2024年2月25日 初版発行 あなたは後悔するかもしれない

記事を読む

『人のセックスを笑うな』(山崎ナオコーラ)_書評という名の読書感想文

『人のセックスを笑うな』山崎 ナオコーラ 河出書房新社 2004年11月30日初版 彼女が2

記事を読む

『その話は今日はやめておきましょう』(井上荒野)_書評という名の読書感想文

『その話は今日はやめておきましょう』井上 荒野 毎日新聞出版 2018年5月25日発行 定年後の誤

記事を読む

『あなたならどうする』(井上荒野)_書評という名の読書感想文

『あなたならどうする』井上 荒野 文春文庫 2020年7月10日第1刷 病院で出会

記事を読む

『密やかな結晶 新装版』(小川洋子)_書評という名の読書感想文

『密やかな結晶 新装版』小川 洋子 講談社文庫 2020年12月15日第1刷 記憶

記事を読む

『本と鍵の季節』(米澤穂信)_書評という名の読書感想文

『本と鍵の季節』米澤 穂信 集英社 2018年12月20日第一刷 米澤穂信の新刊 『

記事を読む

『地雷グリコ』(青崎有吾)_書評という名の読書感想文 

『地雷グリコ』青崎 有吾 角川書店 2024年6月20日 8版発行 第24回 本格ミステリ大

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『ジウⅠ 警視庁特殊犯捜査係 SIT 』(誉田哲也)_書評という名の読書感想文

『ジウⅠ 警視庁特殊犯捜査係 SIT 』誉田 哲也 中公文庫 202

『血腐れ』(矢樹純)_書評という名の読書感想文

『血腐れ』矢樹 純 新潮文庫 2024年11月1日 発行 戦慄

『チェレンコフの眠り』(一條次郎)_書評という名の読書感想文

『チェレンコフの眠り』一條 次郎 新潮文庫 2024年11月1日 発

『ハング 〈ジウ〉サーガ5 』(誉田哲也)_書評という名の読書感想文

『ハング 〈ジウ〉サーガ5 』誉田 哲也 中公文庫 2024年10月

『Phantom/ファントム』(羽田圭介)_書評という名の読書感想文 

『Phantom/ファントム』羽田 圭介 文春文庫 2024年9月1

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑