『連続殺人鬼カエル男』(中山七里)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/10 『連続殺人鬼カエル男』(中山七里), 中山七里, 作家別(な行), 書評(ら行)

『連続殺人鬼カエル男』中山 七里 宝島社 2011年2月18日第一刷

マンションの13階からぶら下げられた女性の全裸死体。口蓋をフックにひっかけられ、口からは無数の蛆が溢れ出て蠢いている。傍らには、子供が書いたような稚拙な文字によるメモが添えられていた。

きょう、かえるをつかまえたよ。
はこのなかにいれていろいろあそ
んだけど、だんだんあきてきた。
おもいついた。みのむしのかっこ
うにしてみよう。くちからはりを
つけてたかいたかいところにつる
してみよう。

そんな文言で綴られた犯行声明は、その後、第二、第三の死体現場にも残され、舞台となる埼玉県飯能市は市民を巻き込んで大パニックに陥る。捜査本部は精神医学界の重鎮の意見を参考にしつつ、精力的に捜査を進めるが、「カエル男」は警察をまるで嘲笑うかのように凄惨な犯行を繰り返し・・・・・・・

殺されたのは、若い女性と、次に老人、そして少年 - 荒尾礼子指宿仙吉有働真人 - 果たして三人に共通するものとは? どんな怨みがあって(あるいは目的もなく無差別に)あんなにまで惨い殺し方をしたのだろうか・・・・・・・

それがわからない。

カエル男は徹底した平等主義者だ。カエル男には性別も年齢も職業も関係ない。年収も血液型も趣味嗜好も意味を失う。意味を持つのは名前という記号だけだ。それだけがカエル男の興味を引く。その前では全ての人間が個性を剥奪され、ただの記号と成り果てる。そして順番に並べられて捕食者の牙を待つだけの存在となる。

飯能市の市民はその平等主義に戦慄した。殺人事件が起きる度、人は好奇心を抱いてニュースに見入るが、それは自分とは遠く離れた場所で繰り広げられるドラマだからだ。殺す人間には殺すだけの理由があり、殺される人間には殺されるだけの理由がある。(P185)

ところが。

ところがである。 漸くにして事件の全容を解明したかに思えたものが、実は、そうではなかったことが判明する。

事件は単に「カエル男」に止まらず、さらなる「悪意」を伴って、また次の「悪意」へと連なっていく。

この本を読んでみてください係数 85/100

◆中山 七里
1961年岐阜県生まれ。
花園大学文学部国文科卒業。

作品 「切り裂きジャックの告白」「贖罪の奏鳴曲」「追憶の夜想曲」「七色の毒」「さよならドビュッシー」「いつまでもショパン」「ヒポクラテスの誓い」他多数

関連記事

『痺れる』(沼田まほかる)_書評という名の読書感想文

『痺れる』沼田 まほかる 光文社文庫 2012年8月20日第一刷 12年前、敬愛していた姑(は

記事を読む

『リバー』(奥田英朗)_書評という名の読書感想文

『リバー』奥田 英朗 集英社 2022年9月30日第1刷発行 同一犯か? 模倣犯か

記事を読む

『李歐』(高村薫)_書評という名の読書感想文

『李歐』高村 薫 講談社文庫 1999年2月15日第一刷 その事件は、『大阪で暴力団抗争5人

記事を読む

『老老戦記』(清水義範)_書評という名の読書感想文

『老老戦記』清水 義範 新潮文庫 2017年9月1日発行 グループホームの老人たちがクイズ大会に参

記事を読む

『私は存在が空気』(中田永一)_書評という名の読書感想文

『私は存在が空気』中田 永一 祥伝社文庫 2018年12月20日初版 ある理由から

記事を読む

『舞台』(西加奈子)_書評という名の読書感想文

『舞台』西 加奈子 講談社文庫 2017年1月13日第一刷 太宰治『人間失格』を愛する29歳の葉太

記事を読む

『眺望絶佳』(中島京子)_書評という名の読書感想文

『眺望絶佳』中島 京子 角川文庫 2015年1月25日初版 藤野可織が書いている解説に、とて

記事を読む

『七色の毒』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『七色の毒』中山 七里 角川文庫 2015年1月25日初版 岐阜県出身の作家で、ペンネームが

記事を読む

『闘う君の唄を』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『闘う君の唄を』中山 七里 朝日文庫 2018年8月30日第一刷 新任の教諭として、埼玉県秩父郡の

記事を読む

『毒島刑事最後の事件』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『毒島刑事最後の事件』中山 七里 幻冬舎文庫 2022年10月10日初版発行 大人

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『海神 (わだつみ)』(染井為人)_書評という名の読書感想文

『海神 (わだつみ)』染井 為人 光文社文庫 2024年2月20日

『百年と一日』(柴崎友香)_書評という名の読書感想文

『百年と一日』柴崎 友香 ちくま文庫 2024年3月10日 第1刷発

『燕は戻ってこない』(桐野夏生)_書評という名の読書感想文

『燕は戻ってこない』桐野 夏生 集英社文庫 2024年3月25日 第

『羊は安らかに草を食み』(宇佐美まこと)_書評という名の読書感想文

『羊は安らかに草を食み』宇佐美 まこと 祥伝社文庫 2024年3月2

『逆転美人』(藤崎翔)_書評という名の読書感想文

『逆転美人』藤崎 翔 双葉文庫 2024年2月13日第15刷 発行

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑