『送り火』(高橋弘希)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/10 『送り火』(高橋弘希), 作家別(た行), 書評(あ行), 高橋弘希

『送り火』高橋 弘希 文藝春秋 2018年7月25日第一刷

春休み、東京から山間の町に引っ越した中学3年生の少年・歩。新しい中学校は、クラスの人数も少なく、来年には統合されてしまうのだ。クラスの中心にいる晃は、花札を使って物事を決め、いつも負けてコーラを買ってくるのは稔の役割だ。転校を繰り返した歩は、この土地でも、場所に馴染み、学級に溶け込み、小さな集団に属することができた、と信じていた。

夏休み、歩は家族でねぶた祭りを見に行った。晃からは、河へ火を流す地元の習わしにも誘われる。「河へ火を流す、急流の中を、集落の若衆が三艘の葦船を引いていく。葦船の帆柱には、火が灯されている」   しかし、晃との約束の場所にいたのは、数人のクラスメートと、見知らぬ作業服の男だった。やがて始まる、上級生からの伝統といういじめの遊戯。

歩にはもう、目の前の光景が暴力にも見えない。黄色い眩暈の中で、ただよく分からない人間たちが蠢き、よく分からない遊戯に熱狂し、辺りが血液で汚れていく。豊かな自然の中で、すくすくと成長していくはずだった少年たちは、暴力の果てに何を見たのか - (文藝春秋BOOKS 「特設サイト」 からの抜粋)

第159回 芥川賞受賞作

『指の骨』(新潮文庫 2017.8.1発行)を読んで、ちょうど1年になります。あの時は本当に驚きました。

まさか30歳の半ばにもなっていなかったであろう若者が、何があって「太平洋戦争のさなか、南方戦線で負傷した一等兵」の話なんかを書いたのか。書くことができたのだろうかと。内容もさることながら、その理由が知りたいと思いました。

『送り火』を読んでわかったことがあります。『指の骨』という小説は(一から十まで)戦争の話ではありますが、あながち彼はそれが書きたいわけではなかったのだろうと。書きたいことは別にあり、拘ったのは、「暴力」に纏わる “狂気” ではなかったのかと。

この小説(『送り火』)では、多くのページが、東北の過疎地にある廃校間近の中学校の、6人しかいない3年生男子の、常にリーダー的存在である晃という少年の、

(晃に対し) ほとんど無抵抗なまでに従順な稔という少年に向けた、一方的な「確執」が描き出されています。

東京からの転校生・歩は、ほどなくして5人の仲間となります。それぞれの個性を見極めながら、特に晃と稔には目を配りつつ、適度な距離を置き、しかしそれには気付かれぬようふるまいながら、徐々に親しくなっていきます。

歩にすればそれは案外たやすいことで、繰り返ししてきた(転校の)経験上、それはそうあるものとして、相応に “自信” があり、”確信” していたことでもありました。

少なくとも、歩はそう思いつつ5人の仲間と付き合いをしていました。ところが、歩だけがそう思っていただけで、実はそうではなかったことがわかってきます。

津軽の僻地の極端に生徒数の少ない中学校にいて、歩は、したことのない “遊び” を経験します。遊びというよりそれはもはや “いじめ” で、あるようでないルール、仕切り役は常に晃で、負けるのは決まって稔でした。負けても稔は何ひとつ文句を言いません。

まるで負けるのが自分の役割だとでも言うように、甘んじて受け入れ、人数分のコーラを買いに行かされ、鉄鋼で頭を割られ、頸を絞められて死にそうになっても、稔は晃を責めません。晃の思惑を知ってか知らでか、それでも稔は晃から離れようとはしません。

およそ無抵抗な稔に、晃は、見境のない “罰” を与えます。往々にしてそれは理不尽な “暴力” なのですが、仲間は誰もそれを止めようとはしません。歩は、秘かに自分が難を逃れたことに安堵しつつ、(仲間と同様) ただされるがままの稔を見つめています。

自分はまた転校し、やがて他所へ行く - そんな思いでいる歩は、やがてそれを見透かされ、”狂気” の場面に晒されることになります。

この本を読んでみてください係数  85/100

◆高橋 弘希
1979年青森県十和田市生まれ。
文教大学文学部卒業。

作品 「指の骨」「朝顔の日」「スイミングスクール」「日曜日の人々」など

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