『きのうの影踏み』(辻村深月)_書評という名の読書感想文
公開日:
:
最終更新日:2024/01/10
『きのうの影踏み』(辻村深月), 作家別(た行), 書評(か行), 辻村深月
『きのうの影踏み』辻村 深月 角川文庫 2018年8月25日初版
雨が降る帰り道、後輩の女の子と歩いていて、傘を差した女性とすれ違う。もう遅い時間で、駅まで急いでいたから、普段だったらまず気に留めなかった。
ビニール傘を差した女性の顔を覗きこむ。
透明なビニール傘越しに見る彼女の顔の - 下半分が、なかった。
いつか、真っ黒い、焼け爛れた車を見た時のことを思い出す。下半分がむき出しになって、暗い腐臭のようなものを感じたあの車。あれと、似ていると思った。顎がない状態、と言えばいいのだろうか。鼻の下から先が誰かにむしりとられたように真っ赤な穴になっている。その下から、ほっそりとした首が何ということもなく続いていた。ともかくそれは 「ない」 としか言いようのない状態だった。(後略)
横を歩く後輩の女の子から、「どうしたんですか」 と聞かれ、オレは咄嗟に 「今の見た? 」 と聞いた。彼女は怪訝そうな顔をする。その表情で、彼女は何も気づかなかったのだと悟った。彼女もまた、後ろを振り返る。女性の姿はもう見えなくなっていた。
「確かに、こんな時間にどうしたんだろうって気にはなりましたけど」
「いや、今の女の人、顔が・・・・・・・」
「え? 」
おかしなヤツと思われるかもしれない。一瞬言葉を出すのを怯んだ隙をつくように、彼女が
「いや、子どもですよね」 と言う。
※13あるうちの5つ目の話 「スィッチ」からの一場面。こんな話(ばかり)が書いてあります。
小学生のころにはやった嫌いな人を消せるおまじない、電車の中であの女の子に出会ってから次々と奇妙な現象が始まり・・・・・・・。虫だと思って殺したら虫ではなかった!? 幼い息子が繰り返し口にする謎のことば「だまだまマーク」って? 横断歩道で事故が続くのはそこにいる女の子の霊が原因? 日常に忍び寄る少しの違和感や背筋の凍る恐怖譚から、温かさが残る救済の物語まで、著者の “怖くて好きなもの” を詰め込んだ多彩な魂の怪異集。(角川文庫)
怖いですよぉ~、一人きりでは決して読まないでください。
この本を読んでみてください係数 85/100
◆辻村 深月
1980年山梨県笛吹市生まれ。
千葉大学教育学部卒業。
作品 「冷たい校舎の時は止まる」「凍りのくじら」「ぼくのメジャースプーン」「太陽の坐る場所」「鍵のない夢を見る」「ツナグ」「ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。」「かがみの孤城」他多数
関連記事
-
『検事の本懐』(柚月裕子)_書評という名の読書感想文
『検事の本懐』柚月 裕子 角川文庫 2018年9月5日3刷 ガレージや車が燃やされ
-
『夜蜘蛛』(田中慎弥)_書評という名の読書感想文
『夜蜘蛛』田中 慎弥 文春文庫 2015年4月15日第一刷 芥川賞を受賞した『共喰い』に続く作品
-
『私のことならほっといて』(田中兆子)_書評という名の読書感想文
『私のことならほっといて』田中 兆子 新潮社 2019年6月20日発行 彼女たちは
-
『くっすん大黒』(町田康)_書評という名の読書感想文
『くっすん大黒』町田 康 文春文庫 2002年5月10日第一刷 三年前、ふと働くのが嫌になって仕事
-
『作家的覚書』(高村薫)_書評という名の読書感想文
『作家的覚書』高村 薫 岩波新書 2017年4月20日第一刷 「図書」誌上での好評連載を中心に編む
-
『この話、続けてもいいですか。』(西加奈子)_書評という名の読書感想文
『この話、続けてもいいですか。』西 加奈子 ちくま文庫 2011年11月10日第一刷 先日たまた
-
『アレグリアとは仕事はできない』(津村記久子)_書評という名の読書感想文
『アレグリアとは仕事はできない』津村 記久子 ちくま文庫 2013年6月10日第一刷 万物には魂
-
『レディ・ジョーカー』(高村薫)_書評という名の読書感想文
『レディ・ジョーカー』(上・下)高村 薫 毎日新聞社 1997年12月5日発行 言わずと知れた、
-
『うさぎパン』(瀧羽麻子)_書評という名の読書感想文
『うさぎパン』瀧羽 麻子 幻冬舎文庫 2011年2月10日初版 まずは、ざっとしたあらすじを。
-
『銀河鉄道の父』(門井慶喜)_書評という名の読書感想文
『銀河鉄道の父』門井 慶喜 講談社 2017年9月12日第一刷 第158回直木賞受賞作。 明治2