『十二人の死にたい子どもたち』(冲方丁)_書評という名の読書感想文

『十二人の死にたい子どもたち』冲方 丁 文春文庫 2018年10月10日第一刷

廃病院に集結した子どもたちの前に現れたのは--?

廃業した病院にやってくる子どもたち。目的はみんなで集団自殺すること。しかし、十二人が集まった部屋のベッドにはすでに一人の少年が。彼は一体誰なのか、この中の誰かが彼を殺したのではないか、こんな状況のまま計画を実行してもいいのか・・・・・・・。

性格も価値観も死にたい理由もそれぞれ違う、初対面の十二人の少年少女たちが、不測の事態を前に、議論し、互いを観察し、状況から謎を推理する。初めて人とぶつかり、対話していくなかで彼らが出す結論とは。そして、この集いの本当の目的とは - 。(文藝春秋BOOKS)

(第156回直木賞候補作)

物語の舞台は、かつては産婦人科、小児科、内科の総合クリニックで、今は廃業している建物だ。そこに、一人、また一人、と子どもたちがやってくる。あらかじめ決められた手順 (ある場所に置かれている箱に入った数字を、来た順に取っていく) を踏んだ彼らが目指す場所は、地階の多目的ルーム。そこには、彼ら12人が 「安楽死」 するための準備が整っていた。が、ここで予想もしなかったことが起こる。準備されていた12のベッドのうち、この集いの 「管理者」 であり、招集者でもあるサトシのための1番のベッドに、身元不明の少年が既に横たわっていたのである。(解説より抜粋)

“安楽死” するために集まった12人とは別に、もう一人いる身元不明の少年 - 彼は一体誰なのか? なぜ、ここにいるのか? 微動だにしないその少年は、12人に先駆けて、既に “ことを為した” ように見えます。

思いもしない出来事は、秘密裏に計画され、厳密な審査を経て選ばれてきたはずの彼らに、大きな疑心暗鬼を生むことになります。それは集いの主催者・サトシにしても同様で、その後延々と続く議論を、12人の中の一人・シンジロウが仕切ることになります。

集いには、絶対的な一つの “原則” があります。それは、安楽死は全員合意の上で決行されるべし、ということです。何かしら疑問がある場合は時間をかけて議論を尽くし、その際辞退する者は拒まず、残った者で採決を取り、結果全員一致ではじめて “実行” となります。

ところが、主に身元不明の少年についての議論が展開されるのですが、なかなかに “全員一致” に至りません。「12人の中の誰かが少年を殺したのではないか」 という話になり、彼が (地階へと) 運び込まれた経緯を調べるうち、誰かが嘘を付いてるのがわかります。

※「あらかじめ決められた手順」 に従って 「数字」 を取った順番ごとに、12人の登場人物 (男女各6人の少年少女) を紹介しましょう。

1. サトシ
2. ケンイチ
3. ミツエ
4. リョウコ
5. シンジロウ
6. メイコ
7. アンリ
8. タカヒロ
9. ノブオ
10.セイゴ
11.マイ
12.ユキ

但し、これはあくまで 「数字を取った順番」 でしかありません。これとは別に、シンジロウは各々の申告に基づいて、廃病院に 「到着」 した順番、建物内に 「入館」 した順番、地階の多目的ルームに 「入室」 した順番を調べ上げていきます。そしてそこにある「矛盾」 に気付きます。

(一つ難点を挙げれば、登場する人物が多く、最初話について行くのが大変かもしれません。でも大丈夫。慌てず丁寧に読むと、そのうち段々と、12人の少年少女それぞれの際立った個性が浮かび上がってきます)

議論の果てに彼らが行き着いた結論とはどのようなものだったのでしょう。そもそも、12人もの少年少女たちが抱えた、”死にたい” と願う理由は何なのか? 他にいたもう一人の身元不明の少年の正体とは? 彼は本当に死んでいるのでしょうか ・・・・・・・

この本を読んでみてください係数 80/100

◆冲方 丁
1977年岐阜県各務原市生まれ。
早稲田大学第一文学部中退。

作品 「黒い季節」「マルドゥック・スクランブル」「天地明察」「光圀伝」他多数

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