『やぶへび 』(大沢在昌)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2026/02/19 『やぶへび 』(大沢在昌), 書評(や行)

『やぶへび 』大沢 在昌 講談社文庫 2015年1月15日第一刷

 

甲賀は女好きですが、女運には見放された男で - お嬢さん女子大出でモデルあがりの麻矢と結婚したものの、麻矢の正体は贅沢好きの尻軽で、”フロント” の金貸しに水揚げされていたことも知りませんでした。(ちなみに、その元パパの駿河は極道以上にタチの悪い男でした)

甲賀は元警察官、離婚して警察も辞めた今はその日暮らしの毎日を過ごしています。杜英淑に頼まれて偽装結婚した相手は李青珠(リ・チンジュ)という中国人で、吉林省長春からきた女でした。甲賀がそれを知ったのは、警察から呼び出された病院でのことでした。

青珠と病院で出会った日は、不運にもまた甲賀が泥沼へ巻き込まれて行く始まりの日でもありました。青珠は怪我をして警察に保護され、外国人登録証明書に記載された “夫” である甲賀の元へ連絡が入ります。怪我は軽傷でしたが、青珠は記憶を失くしていました。身元が判らない限り、青珠の面倒をみるのは甲賀しかいません。

仮にも “妻“ である青珠が何かの犯罪に関係していたら、偽装に加担した甲賀の立場も不味くなります。青珠の身元を調べ出した矢先、元同僚の伊賀と偶然に出会い、捜索中の男の写真を見せられたのですが、その写真は、明らかに 「死人を加工して」 写したものでした。

あろうことか、青珠は写真の男を知っていました。甲賀の疑念は膨らみます。青珠は何者なのか、なぜ偽装結婚までして日本へやって来たのか。その理由を知るために、英淑から聞き出したマンションへ行ってみると、そこにはもう一人の李青珠 - 偽者の青珠がいたのでした。

青珠が日本へ来た目的は、水商売や売春で金を稼ぐためではないようで、その手の女を多く見てきた甲賀には元警官の勘でそれがわかります。英語が堪能、更に功夫 (カンフー) に似た武術にも長けた青珠の正体は謎で、解明の糸口が見つかりません。

ж

周恵華という別人を青珠の替玉に仕立てて、偽装結婚を裏で進めたのが羊という男。羊は紅龍飯店社長・干の指示で動いています。一方、英淑に青珠の相手捜しを依頼したのが豊島旅業の如で、如と干は通じています。青珠が見た写真は、殺された如の姿でした。

青珠の身元を調べるのは、簡単なことではありません。英淑の店を訪ねると、いかがわしい四人組が現れて青珠を連れて行こうとします。青珠が働いていたという投資顧問会社の宗形と名乗る男が彼女を引取ると言うのですが、どうも嘘くさくて信用できません。

更に英淑が何者かに誘拐され、事は中国人だけでなく日本の暴力団まで関係していることがわかります。それも甲賀にとって最も忌まわしい人物の駿河と、駿河のバックにつく藤井組でした。中国人と駿河の組み合わせに、甲賀は八方塞がりになります。

(ここからはややネタバレになりますが) 青珠の偽装結婚の裏には、上海の最大勢力を率いる老大 (ラオダ) の存在がありました。老大の王先勇は既に引退し、今は息子の王新豹が上海の黒社会を牛耳っています。

青珠は王新豹の妹で、本当の名前は宋丹。宋丹が偽装結婚をしてまで日本の永住権を得ようとしたのは、危険な上海から逃れて日本で王先勇と二人で暮らすためでした。

展開はスピーディーで、読み始めたら止まりません。中国人同士の複雑な人間関係を理解するのは大変ですが、丁寧に読むと事件の背景が鮮明になって、なおのこと面白くなります。

李青珠という女性が、最初はあまりぱっとしない地味な人物のような書き方になっているのですが、読み進むにつれ、とても魅力的な女性へと変貌します。

かりそめの夫である甲賀に、青珠が遂に身を委ねるシーンがあります。細かな描写はないのですが、なぜか、妙に艶めかしく映像として残ります。得体が知れないと承知していながら、案の定、甲賀は青珠に惚れてしまうのでした。

※この小説は、講談社創業100周年記念として2010年に刊行された作品です。

この本を読んでみてください係数 85/100


◆大沢 在昌

1956年愛知県名古屋市生まれ。

慶應義塾大学法学部中退。文化学院創作コース中退。

作品 「感傷の街角」「深夜曲馬団」「新宿鮫 無間人形」「心では重すぎる」「パンドラ・アイランド」「狼花 新宿鮫IX」「海と月の迷路」他多数

◇ブログランキング

いつも応援クリックありがとうございます。
おかげさまでランキング上位が近づいてきました!嬉しい限りです!
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ

関連記事

『夜をぶっとばせ』(井上荒野)_書評という名の読書感想文

『夜をぶっとばせ』井上 荒野 朝日文庫 2016年5月30日第一刷 どうしたら夫と結婚せずにす

記事を読む

『夜明けの音が聞こえる』(大泉芽衣子)_書評という名の読書感想文

『夜明けの音が聞こえる』大泉 芽衣子 集英社 2002年1月10日第一刷 何気なく書棚を眺め

記事を読む

『ヤイトスエッド』(吉村萬壱)_書評という名の読書感想文

『ヤイトスエッド』吉村 萬壱 徳間文庫 2018年5月15日初刷 近所に憧れの老作家・坂下宙ぅ吉が

記事を読む

『夜の木の下で』(湯本香樹実)_書評という名の読書感想文

『夜の木の下で』湯本 香樹実 新潮文庫 2017年11月1日発行 話したかったことと、話せなかった

記事を読む

『夜に啼く鳥は』(千早茜)_書評という名の読書感想文

『夜に啼く鳥は』千早 茜 角川文庫 2019年5月25日初版 辛く哀しい記憶と共に続

記事を読む

『汚れた手をそこで拭かない』(芦沢央)_書評という名の読書感想文

『汚れた手をそこで拭かない』芦沢 央 文春文庫 2023年11月10日 第1刷 話題沸騰の

記事を読む

『45°ここだけの話』(長野まゆみ)_書評という名の読書感想文

『45° ここだけの話』長野 まゆみ 講談社文庫 2019年8月9日第1刷 カフ

記事を読む

『夢見る帝国図書館』(中島京子)_書評という名の読書感想文

『夢見る帝国図書館』中島 京子 文春文庫 2022年5月10日第1刷 「ねえ、どう

記事を読む

『夜葬』(最東対地)_書評という名の読書感想文

『夜葬』最東 対地 角川ホラー文庫 2016年10月25日初版 ある山間の寒村に伝わる風習。この村

記事を読む

『雪の鉄樹』(遠田潤子)_書評という名の読書感想文

『雪の鉄樹』遠田 潤子 光文社文庫 2016年4月20日初版 母は失踪。女の出入りが激しい「たらし

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『黒 石 (ヘイシ) 新宿鮫12』(大沢在昌)_書評という名の読書感想文

『黒 石 (ヘイシ) 新宿鮫12』大沢 在昌 光文社文庫 2026年

『母という呪縛 娘という牢獄』(齊藤彩)_書評という名の読書感想文

『母という呪縛 娘という牢獄』齊藤 彩 講談社文庫 2026年3月1

『令和元年の人生ゲーム』(麻布競馬場)_書評という名の読書感想文

『令和元年の人生ゲーム』麻布競馬場 文春文庫 2026年3月10日

『14歳までの犯罪』(畑野智美)_書評という名の読書感想文

『14歳までの犯罪』畑野 智美 角川文庫 2026年2月25日 初版

『熟柿』(佐藤正午)_書評という名の読書感想文

『熟柿』佐藤 正午 角川書店 2026年2月10日 9版発行

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑