『円卓』(西加奈子)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2015/07/15 『円卓』(西加奈子), 作家別(な行), 書評(あ行), 西加奈子

『円卓』西 加奈子 文春文庫 2013年10月10日第一刷


円卓 (文春文庫)

 

直木賞の『サラバ!』を読む前に、一冊別の小説を買いました。今まで名前すらよく知らなかった人なので、とりあえずエクササイズに読もうと思いまして。解説は、津村記久子さん。いい人選ぶなぁ。
・・・・・・・・・・
・・・、面白い。小学3年生の、ちっちゃな女の子の話なのに、チョー面白いわ、これ。

この人えらくインターナショナルな人だと思っていたけど、ただの(?!)関西バリバリのお姉さまなんですね。この本を読むと、もう根っから大阪の人だということがよく分かります。関西を知らない人が関西をさも知っているような、生半可な関西弁ではありません。これは地元出身の生粋の関西人が書いた、痛快で笑える、おまけに感動までしてしまう小説です。

「こっこ」こと渦原琴子は、両親と祖父母、そして三つ子の姉の8人家族。彼らは公団住宅の3階、3LDKで暮らしています。傑作なのは、渦原家のテーブル。潰れた駅前の中華料理屋から貰ってきた円卓は、居間の大半を占拠する深紅の大テーブルでした。渦原家の食事は賑やかで、テーブルの回転を有効活用しながら進みます。

こっこは、まことに「こまっしゃくれた」小学3年生です。「こまっしゃくれた」って分かりますよね。大人びて生意気だ、という意味です。これ関西だけの言い方じゃなくて、全国共通ですよね。とにかくこっこは、関西を代表するような「ませた」小学生なのです。

彼女は一冊のジャポニカのノートを持っています。表紙には『だれおもあけることならぬ』の文字、1ページ目には『こどく』と書いてあります。8歳のこっこが憧れるもの、好きな言葉は「孤独」なのです。なんとませた小娘なこと。

「ものもらい」のせいで眼帯をした香田めぐみに、こっこは激しく憧れます。大人びためぐみには元々憧れていたのですが、彼女が聞いたことのない病気になって、見たことのない「がんたい」をしているのを見ると、彼女はもう居ても立ってもいられません。何としても同じものを手に入れたいこっこは、仮病を装って保健室へ向かうのでした。

三つ子の姉は理子、眞子、そして朋美。りこ、まこ、ときて、どうしてともみ?両親に訊ねると、返事は「かいらしやろー」と笑うだけです。三つ子と母、そしてこっこもみんなとても美人ですが、渦原家は至って「普通」で目立っているわけではありません。

公団住宅で8人家族が暮らす生活は、決して楽なものではありません。父・寛太は便利屋で、一家の大黒柱ですが、こっこ曰く「ハンサムで阿呆やからモテた」だけの男です。母親の詩織、祖母の紙子と祖父の石太。みんなが性格の半分は天然ボケのような、これまた関西を代表するような緩い家族です。こっこは、家族のみんなから愛されています。
・・・・・・・・・・
こっこの同級生の話。学級委員の朴圭史君は、在日韓国人で韓国名はパク・ギュサ。こっこは、彼を3年2組の良心と呼んでいます。ある日、朴君は持病の不整脈を起こします。
ぽっさんは、同じ公団住宅の隣の棟に住んでいます。頭がいいぽっさんは、吃音者でした。

こっこの感性では、死ぬほど苦しそうな朴君の不整脈も、めぐみさんの「ものもらい」と同じです。誰もが知らない、みんなに注目される、そして一人「こどく」になれる特別なものに一心に憧れてしまうのです。ぽっさんの吃音さえ、こっこには「格好ええ」のです。

母親から妹か弟が生まれると聞かされて家族は大喜びするのですが、こっこだけは素直に喜べません。みんなが手放しで喜ぶことに気色悪さを感じ、逆に憐れみを欲しがるこっこです。こっこが、和やかで悲愴感の欠片もない家族の希少さに気付くまでには、あともう少し時間が必要です。
・・・・・・・・・・
気持ちを持て余すこっこは、ぽっさんに自分の思いをぶつけます。そこには祖父の石太もいます。こっこの理屈に一歩も引けを取らないぽっさんは、つっかえながらも、丁寧にこっこを説きくだいていきます。ぽっさんは頭がいいのです。そして、頼もしい。

石太は辛抱強く二人の話を聞きながら、時おり持参した日常英会話辞典を広げます。二人の会話から拾い出した単語の意味を呟くのですが、これがまことに芸術的でタイムリー。石太じいさんは、決して二人の会話に横槍を入れるような愚行はしない人なのです。

ぽっさんは、こっこは可哀想にと思われたことがない、と言います。だから、可哀想と思われる人間の気持ちが分からないと言い、本人が嫌がることは真似しない方がいいのだと続けますが、こっこには「恰好ええ」ことを「真似するな」という理由、真似してもいいものと真似てはならないものの区分が分かりません。二人は、難題に立ち向かっています。

二人の様子に、頭のいい子供は素晴らしい、と、石太は思うのでした。

 

この本を読んでみてください係数 90/100


円卓 (文春文庫)

◆西 加奈子
1977年イラン、テヘラン生まれ。エジプト、大阪府堺市育ち。
関西大学法学部卒業。

作品 「あおい」「さくら」「通天閣」「ふくわらい」「サラバ!」他多数

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