『東京零年』(赤川次郎)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/10 『東京零年』(赤川次郎), 作家別(あ行), 書評(た行), 赤川次郎

『東京零年』赤川 次郎 集英社文庫 2018年10月25日第一刷

殺されたはずの男が生きていた - 。
電車のホームから落ちた生田目健司を救った永沢亜紀。
二人が出会ったとき、運命の歯車が大きく動き始める。

赤川次郎さんの最新作 『東京零年』 は、総ページ数500超えの社会派サスペンス大作です。「すばる」 で約二年半に渡り連載されました。閉塞感漂う現代に、切実な問題提起を込めて放つ力作です。近未来の日本を舞台に、暴走する権力と、それに抗う二人の若者を描くことで、赤川さんが読者に伝えたかった想いとは - 。

〈内容紹介〉
脳出血で倒れ介護施設に入所している永沢浩介が、TV番組に一瞬だけ映った男を見て発作を起こした。呼び出された娘の亜紀は、たどたどしく喋る父の口から衝撃の一言を聞く。
「ゆあさ」- それは昔殺されたはずの男・湯浅道男のことだった。元検察官の父・重治が湯浅の死に関与していた事を知った健司は、真相を解明すべく亜紀とともに動き出す。
時は遡り数年前、エリート検察官の重治、反権力ジャーナリストの浩介、その補佐を務める湯浅。圧倒的な権力を武器に時代から人を消した男と消された男がいた - 。(2015/8 集英社 文芸単行本公式サイトより)

第50回吉川英治文学賞受賞作品

いつになく硬派な感じに、期待しました。途中まではよかったのです。

ところが、次第次第に上手く消化できずに、落ち着かなくなってきます。腑に落ちないところがあるのに気付きます。

例えば、

最初紙面の多くをとって登場する、元刑事の喜多村という人物。この物語における彼の 「重要度」 がわかりません。死んだはずの湯浅を発見したまではいいのですが、その後の彼がどうなったのか。事件と関わり、彼はどんな感慨を持ったのか。知りたいと思う、そこが書かれてはいません。

生田目重治の妻・弥生と永沢浩介の妻・直美とは実は旧知の仲 - という設定に、どんな意味があるのでしょう。ほとんど交わる機会のない二人を、なぜこんな関係にしたのか。その意図がわかりません。

工藤という若い刑事が登場します。彼が刑事を辞めた理由が釈然としません。あまりに唐突にすぎ、書いてある内容だけでは正しく理解できないのではないかと。工藤が亜紀に恋をした - 例えばそうならそうと、もしも違う理由があったのなら、そこをきっちり書いて欲しかった。

そして、湯浅。この人物こそが全ての事件のキーマンだと思うのですが、結局彼の正体は明かされません。

単に私が思い違いをしているだけで、湯浅は、実はキーマンと呼ぶほどの人物ではなかったのかもしれません。いずれにせよ、 (言いたいのはそこではなく) 湯浅で始まった話なら、どんな形にせよ最後もやはり湯浅で締めてほしかった、ということです。

赤川次郎の本をたくさん読んでいるわけではないので、偉そうなことは言えないのですが、この手の話だからこそ、言いたいことがあります。背景をもっと明白に、状況は殊に詳細に、そして設えた伏線は必ずや回収されるものとして書いてほしかった。そんな思いが残ります。

この本を読んでみてください係数 80/100

◆赤川 次郎
1948年福岡県生まれ。
桐朋高等学校卒業。

作品 「幽霊列車」「三毛猫ホームズ」シリーズ、「天使と悪魔」シリーズ、「鼠」シリーズ、「ふたり」「雨の夜、夜行列車に」「涙のような雨が降る」「記念写真」他多数

関連記事

『月の上の観覧車』(荻原浩)_書評という名の読書感想文

『月の上の観覧車』荻原 浩 新潮文庫 2014年3月1日発行 本書『月の上の観覧車』は著者5作目

記事を読む

『ぶらんこ乗り』(いしいしんじ)_書評という名の読書感想文

『ぶらんこ乗り』いしい しんじ 新潮文庫 2004年8月1日発行 ぶらんこが上手で、指を鳴らす

記事を読む

『さまよえる脳髄』(逢坂剛)_あなたは脳梁断裂という言葉をご存じだろうか。

『さまよえる脳髄』逢坂 剛 集英社文庫 2019年11月6日第5刷 なんということで

記事を読む

『トリツカレ男』(いしいしんじ)_書評という名の読書感想文

『トリツカレ男』いしい しんじ 新潮文庫 2006年4月1日発行 ジュゼッペのあだ名は「トリツ

記事を読む

『毒母ですが、なにか』(山口恵以子)_書評という名の読書感想文

『毒母ですが、なにか』山口 恵以子 新潮文庫 2020年9月1日発行 16歳で両親

記事を読む

『るんびにの子供』(宇佐美まこと)_書評という名の読書感想文

『るんびにの子供』宇佐美 まこと 角川ホラー文庫 2020年8月25日初版 近づく

記事を読む

『地下鉄に乗って〈新装版〉』(浅田次郎)_書評という名の読書感想文

『地下鉄に乗って〈新装版〉』浅田 次郎 講談社文庫 2020年10月15日第1刷 浅

記事を読む

『デフ・ヴォイス/法廷の手話通訳士』(丸山正樹)_書評という名の読書感想文

『デフ・ヴォイス/法廷の手話通訳士』丸山 正樹 文春文庫 2015年8月10日第一刷 仕事と結

記事を読む

『とらすの子』(芦花公園)_書評という名の読書感想文

『とらすの子』芦花 公園 東京創元社 2022年7月29日初版 ホラー界の新星が描

記事を読む

『工場』(小山田浩子)_書評という名の読書感想文

『工場』小山田 浩子 新潮文庫 2018年9月1日発行 (帯に) 芥川賞作家の謎めくデビュー作、

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『マッチング』(内田英治)_書評という名の読書感想文

『マッチング』内田 英治 角川ホラー文庫 2024年2月20日 3版

『僕の神様』(芦沢央)_書評という名の読書感想文

『僕の神様』芦沢 央 角川文庫 2024年2月25日 初版発行

『存在のすべてを』(塩田武士)_書評という名の読書感想文

『存在のすべてを』塩田 武士 朝日新聞出版 2024年2月15日第5

『我が産声を聞きに』(白石一文)_書評という名の読書感想文

『我が産声を聞きに』白石 一文 講談社文庫 2024年2月15日 第

『朱色の化身』(塩田武士)_書評という名の読書感想文

『朱色の化身』塩田 武士 講談社文庫 2024年2月15日第1刷発行

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑