『犯罪小説集』(吉田修一)_書評という名の読書感想文
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最終更新日:2024/01/10
『犯罪小説集』(吉田修一), 作家別(や行), 吉田修一, 書評(は行)
『犯罪小説集』吉田 修一 角川文庫 2018年11月25日初版

田園に続く一本道が分かれるY字路で、1人の少女が消息を絶った。犯人は不明のまま10年の時が過ぎ、少女の祖父の五郎や直前まで一緒にいた紡(つむぎ)は罪悪感を抱えたままだった。だが、当初から疑われていた無職の男・豪士の存在が関係者たちを徐々に狂わせていく・・・・・・・。(「青田Y字路」) 痴情、ギャンブル、過疎の閉鎖空間、豪奢な生活・・・・・・・幸せな生活を願う人々が陥穽にはまった瞬間の叫びとは? 人間の真実を炙り出す小説集。(角川文庫)
青田Y字路 (あおたのわいじろ)
夏も深まり、稲は青々と育っている。青田に張った水も日を浴びてますます透き通り、稲は風を受け、一面に美しい青田波が立つ。
この田園風景のなか、一本道が延びている。砂利敷きの一本道は夏日に白く輝き、そのきらめきに誘われるように歩いていくと、大きな一本杉のあるY字路になる。Y字路を右に向かえば鬱蒼とした杉林で、左に折れれば、バブル崩壊で打ち捨てられた宅地造成予定跡地となる。
声はすぐそこにある中前神社の境内からで、今日は折しも夏越祭りの最終日、狭い参道には、焼きそば、磯辺焼き、ベビーカステラの屋台が並び、参拝客の汗もソースも醤油も砂糖も全部いっしょくたになって賑わっている。
この境内のさらに奥、賑わいから離れた竹やぶに一台の白いバンが停まっている。後部ハッチを開けた荷台には、有名ブランドの偽物がずらりと並ぶ。売り主らしい中年女を頭ごなしに怒鳴っているのは地元のヤクザで、
「誰の許可もらってここで商売してんだよ? あ? どっから入り込んだ? 」
ヤクザが中年女の頭を叩く。汗まみれの女の髪は濡れて重く、動かない。その髪を男が掴む。毛が抜けるほど摑まれて、中年女の顔が歪む。
「分かった。・・・・・・・私、分かったよ! 」
謝っているのに、怒ったような口調には日本人にはない訛りがある。
その口調に苛立った男が、容赦なく女の頬を張る。顎も張る。耳を掴み、肉厚の手のひらで、女の低い鼻を潰そうとする。
遠巻きに眺めていた客たちも、いよいよこのあたりで逃げていく。白いバンの裏に隠れていた若い男がおずおずと姿を現わしたのはそのときで、出てきたはいいが何もできない。(本文より抜粋/P6 ~ 8)
この 「若い男」 というのが中年女の一人息子で、名前を中村豪士といいます。童顔でまだ高校生のようにも見えるのですが、彼は二十五歳になっています。
二週間ほどの後、祭りの主催グループのリーダー、藤木五郎の孫娘・愛華の行方がわからなくなります。捜索の結果見つかったのは彼女のランドセルだけで、生死もわからぬまま、時間だけが過ぎていきます。
(愛華が姿を消す直前まで彼女と一緒にいたのが、同級生の紡でした。彼女は、今も消えない罪悪感を抱えています。当時、愛華の失踪に際し率先して捜索に協力したメンバーの中に、紡の父がいます。彼はかつての捜索に関し、ある大きな後悔を抱えています)
そして10年後。今度は五郎の中学の同級生の、次男坊の娘が行方不明になります。
その時、豪士は三十五歳。10年前、確かに豪士は疑われたのでした。しかも真っ先に。今またそうであるのは、ここで生きる人々の 「何が」 そうさせるのか。そうさせたのか。- どうにもならず、結局豪士は、暴挙に出ます。
※その臨場感、そのリアルさに圧倒される思いで読みました。いつかどこかで目にしたような、聞いたような話ばかりが書いてあります。
[収録作品]
・青田Y字路 (あおたのわいじろ)
・曼珠姫午睡 (まんじゅひめのごすい)
・百家楽餓鬼 (ばからがき)
・万屋善次郎 (よろずやぜんじろう)
・白球白蛇伝 (はっきゅうはくじゃでん)
この本を読んでみてください係数 85/100

◆吉田 修一
1968年長崎県長崎市生まれ。
法政大学経営学部卒業。
作品 「最後の息子」「熱帯魚」「パレード」「パーク・ライフ」「悪人」「横道世之介」「さよなら渓谷」「愛に乱暴」「怒り」「国宝」他多数
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