『世にも奇妙な君物語』(朝井リョウ)_書評という名の読書感想文

『世にも奇妙な君物語』朝井 リョウ 講談社文庫 2018年11月15日第一刷

彼は子供の頃から 『世にも奇妙な物語』 が大好きで、当初は単純に、最後にどんでん返しがあるとか手軽にゾクっとする感覚を味わえるとか、そんな理由で好きだったものが、「小説を書くようになり全く違う魅力に溺れてしまった」 といいます。

で、その魅力とは - “世にも奇妙な” という言葉が持つ、すべてを無にするほどのパワーである - と。

小説を書くとき、特に、少し現実離れしたような設定の人物や舞台を描写するとき、理由の存在がついて回る。このキャラクターの天真爛漫さは過去に暗いエピソードでもないと成立しない、この世界がこんな状態なのは相応の歴史がなければ必然性がない・・・・・私たちは目の前の事象に理由を求める。物語に背景を求める。それどころか、小説家自身にさえ、「どうしてこの小説を書いたのか」 と問い、自分なりに答え合わせをしたがる。

私はそれが苦手だ。特に理由もなく人や世界や物語を描いたっていいはずなのに、現実は予感も助走もないような出来事ばかりなのに、いつも小説が成り立つ理由を掻き集めてばかりいる自分に辟易している。(P315.316/著者あとがきより)

- そんな私にとって、『世にも奇妙な物語』 は深く呼吸ができるオアシス - で、そこでは - その人が、その世界がどうしてそんなことになったのか、理由を求めようとは思わない。だって、”世にも奇妙な” 物語だと、最初に宣言しているから - なんだと。

世界は何が起こるかわからない。人の心は覗けない。誰かが意図したものなら尚更に。結末の先にあるもうひとつの結末。その恐怖、その落差を、存分に味わってください。

あらすじ
いくら流行っているからといって、経済的にも精神的にも自立した大人が、なぜ一緒に住むのか。(第一話 「シェアハウさない」

その人がどれだけ 「リア充」 であるのかを評価する、「コミュニケーション能力促進法」 が執行された世界。知子のもとに、一枚の葉書が届く。(第二話 「リア充裁判」

親のクレームにより、幼稚園内で、立っている金次郎像が座っているものに変えられた! (第三話 「立て! 金次郎」



そしてすべての謎は、第五話 「脇役バトルロワイヤル」 に集約される。(小説現代より)

※できるだけ最初から順番通りに読んでください。途中はまだしも、第五話 「脇役バトルロワイヤル」 だけは、何があっても最後に読むように。でないと、せっかくの著者の企みが台無しになってしまいます。

収録作品
1.シェアハウさない
2.リア充裁判
3.立て! 金次郎
4.13.5文字しか集中して読めな
5.脇役バトルロワイヤル

この本を読んでみてください係数 85/100

◆朝井 リョウ
1989年岐阜県垂井町生まれ。
早稲田大学文化構想学部卒業。

作品 「桐島、部活やめるってよ」「何者」「世界地図の下書き」「もういちど生まれる」「少女は卒業しない」「何様」「スペードの3」他多数

関連記事

『残された者たち』(小野正嗣)_書評という名の読書感想文

『残された者たち』小野 正嗣 集英社文庫 2015年5月25日第一刷 尻野浦小学校には、杏奈先

記事を読む

『ユリゴコロ』(沼田まほかる)_書評という名の読書感想文

『ユリゴコロ』沼田 まほかる 双葉文庫 2014年1月12日第一刷 ある一家で見つかった「ユリゴコ

記事を読む

『逢魔が時に会いましょう』(荻原浩)_書評という名の読書感想文

『逢魔が時に会いましょう』荻原 浩 集英社文庫 2018年11月7日第2刷 大学4

記事を読む

『小島』(小山田浩子)_書評という名の読書感想文

『小島』小山田 浩子 新潮文庫 2023年11月1日発行 私が観ると、絶対に負ける

記事を読む

『フクロウ准教授の午睡 (シエスタ)』(伊与原新)_書評という名の読書感想文

『フクロウ准教授の午睡 (シエスタ)』伊与原 新 文春文庫 2025年4月10日 第3刷 祝

記事を読む

『いっそこの手で殺せたら』(小倉日向)_書評という名の読書感想文

『いっそこの手で殺せたら』小倉 日向 双葉文庫 2024年5月18日 第1刷発行 覚悟がある

記事を読む

『八月の路上に捨てる』(伊藤たかみ)_書評という名の読書感想文

『八月の路上に捨てる』伊藤 たかみ 文芸春秋 2006年8月30日第一刷 第135回 芥川賞

記事を読む

『岡山女/新装版』(岩井志麻子)_書評という名の読書感想文

『岡山女/新装版』岩井 志麻子 角川ホラー文庫 2022年6月25日改版初版 ここ

記事を読む

『女神/新装版』(明野照葉)_書評という名の読書感想文

『女神/新装版』明野 照葉 光文社文庫 2021年10月20日初版第1刷発行 とび

記事を読む

『ぴんぞろ』(戌井昭人)_書評という名の読書感想文

『ぴんぞろ』戌井 昭人 講談社文庫 2017年2月15日初版 浅草・酉の市でイカサマ賭博に巻き込ま

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『サリン/それぞれの証』(木村晋介)_書評という名の読書感想文

『サリン/それぞれの証』木村 晋介 角川文庫 2025年2月25日

『スナーク狩り』(宮部みゆき)_書評という名の読書感想文

『スナーク狩り』宮部 みゆき 光文社文庫プレミアム 2025年3月3

『小説 木の上の軍隊 』(平一紘)_書評という名の読書感想文

『小説 木の上の軍隊 』著 平 一紘 (脚本・監督) 原作 「木の上

『能面検事の死闘』(中山七里)_書評という名の読書感想文 

『能面検事の死闘』中山 七里 光文社文庫 2025年6月20日 初版

『編めば編むほどわたしはわたしになっていった』(三國万里子)_書評という名の読書感想文

『編めば編むほどわたしはわたしになっていった』三國 万里子 新潮文庫

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑