『琥珀のまたたき』(小川洋子)_書評という名の読書感想文

『琥珀のまたたき』小川 洋子 講談社文庫 2018年12月14日第一刷

琥珀のまたたき (講談社文庫)

もう二度と取り戻せないあの儚くも幸福な一瞬 古びた図鑑の片隅に蘇る、失われた時の輝き - 閉ざされた家で暮らす子どもたち。彼らだけの密やかな世界は、永遠に続くはずだった -

壁の外には出られません」 最も大事な禁止事項を、ママは言い渡した・・・・・・・

妹を亡くした三きょうだいは、ママと一緒にパパが残した古い別荘に移り住む。そこで彼らはオパール・琥珀・瑪瑙という新しい名前を手に入れた。閉ざされた家のなか、三人だけで独自に編み出した遊びに興じるうち、琥珀の左目にある異変が生じる。それはやがて、亡き妹と家族を不思議なかたちで結びつけるのだが・・・・・・・。(講談社BOOK倶楽部より)

誰かの声に静かに耳をかたむけることは、それ自体がひとつの祈りなのだと思う。その意味で、『琥珀のまたたき』 は、祈りの物語とも言える。主人公の琥珀は、幼くして死んでしまった妹の無言の声に耳を澄まし、妹の姿を図鑑の余白にパラパラ漫画のようなものとして蘇らせる。そして、過去を語る琥珀=アンバー氏のささやくような声を、小川さんはその鋭敏な耳で聴こうとするのだ。声を聴く、という祈りの連鎖が、この物語には、すばらしく澄みきった色彩で描き出されている。

実は私は、この小説を読みすすめながら、長女オパールは私自身なのではないかというざわざわした気持ちに取り憑かれた。これは、私だ。すぐれた小説というのは、読者にそういう思いを抱かせることがある。([小さな声の真実] 大森静佳(歌人)/解説より)

年末に読んだきりしばらく放置していました。正直、とても苦手な一冊です。読むには読みました。わからぬわけではありません。

しかし。

この人が書くこの手の物語 - それはもう “物語” というしか他に言い様がありません - を読むといつも思うのです。感動よりもむしろ、その圧倒的な創造力の源は一体何なのだろうと。自分のそれとのあまりの落差に、何を言っていいのかわからなくなります。

ここには、ある事情のもとに母親がした、三人の幼いわが子に向けた、ある種の “虐待” と “監禁” の様子が描かれています。

閉ざされた家で暮らす母と子の生活は明らかに異常なもので、しかし、それはまたそこで暮らす四人の家族にとって、代え難くかけがえのないものでもありました。

幼い三人の姉弟は、疑いもせず母の言いつけを守ります。なぜなら、彼らは心から母を愛しており、また母に、心から愛されていることを知っていたからでした。母を悲しませたくない一心で、三人はそれぞれに、今ある世界に留まろうとします。

ところが。

虐待を虐待とせず、監禁を監禁とは思わない彼らの生活は、外界の空気を纏いある日突然訪れた若者の出現で、徐々に綻びを見せはじめ、やがて終わりを迎えます。

この本を読んでみてください係数 80/100

琥珀のまたたき (講談社文庫)

◆小川 洋子
1962年岡山県岡山市生まれ。
早稲田大学第一文学部文芸専修卒業。

作品 「揚羽蝶が壊れる時」「妊娠カレンダー」「博士の愛した数式」「沈黙博物館」「ブラフマンの埋葬」「貴婦人Aの蘇生」「ことり」「ホテル・アイリス」「ミーナの行進」他多数

関連記事

『空中庭園』(角田光代)_書評という名の読書感想文

『空中庭園』角田 光代 文春文庫 2005年7月10日第一刷 空中庭園 (文春文庫) &

記事を読む

『東京放浪』(小野寺史宜)_書評という名の読書感想文

『東京放浪』小野寺 史宜 ポプラ文庫 2016年8月5日第一刷 (12-4)東京放浪 (ポプラ

記事を読む

『緑の我が家』(小野不由美)_書評という名の読書感想文

『緑の我が家』小野 不由美 角川文庫 2022年10月25日初版発行 物語の冒頭はこ

記事を読む

『四とそれ以上の国』(いしいしんじ)_書評という名の読書感想文

『四とそれ以上の国』いしい しんじ 文春文庫 2012年4月10日第一刷 四とそれ以上の国 (

記事を読む

『ぼっけえ、きょうてえ』(岩井志麻子)_書評という名の読書感想文

『ぼっけえ、きょうてえ』岩井 志麻子 角川書店 1999年10月30日初版 ぼっけえ、きょうて

記事を読む

『噛みあわない会話と、ある過去について』(辻村深月)_書評という名の読書感想文

『噛みあわない会話と、ある過去について』辻村 深月 講談社文庫 2021年10月15日第1刷

記事を読む

『ぼくがきみを殺すまで』(あさのあつこ)_書評という名の読書感想文

『ぼくがきみを殺すまで』あさの あつこ 朝日文庫 2021年3月30日第1刷 ぼくがきみを殺

記事を読む

『ようこそ、わが家へ』(池井戸潤)_書評という名の読書感想文

『ようこそ、わが家へ』池井戸 潤 小学館文庫 2013年7月10日初版 ようこそ、わが家へ (

記事を読む

『ギブ・ミー・ア・チャンス』(荻原浩)_書評という名の読書感想文

『ギブ・ミー・ア・チャンス』荻原 浩 文春文庫 2018年10月10日第1刷 ギブ・ミー・ア

記事を読む

『だれかの木琴』(井上荒野)_書評という名の読書感想文

『だれかの木琴』井上 荒野 幻冬舎文庫 2014年2月10日初版 だれかの木琴 (幻冬舎文庫)

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『連鎖』(黒川博行)_書評という名の読書感想文

『連鎖』黒川 博行 中央公論新社 2022年11月25日初版発行

『夜に星を放つ』(窪美澄)_書評という名の読書感想文

『夜に星を放つ』窪 美澄 文藝春秋 2022年7月30日第2刷発行

『生命式』(村田沙耶香)_書評という名の読書感想文

『生命式』村田 沙耶香 河出文庫 2022年5月20日初版発行

『中尉』(古処誠二)_書評という名の読書感想文

『中尉』古処 誠二 角川文庫 2017年7月25日初版発行

『犬のかたちをしているもの』(高瀬隼子)_書評という名の読書感想文

『犬のかたちをしているもの』高瀬 隼子 集英社文庫 2022年9月1

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑