『嗤う淑女』(中山七里)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/09 『嗤う淑女』(中山七里), 中山七里, 作家別(な行), 書評(わ行)

『嗤う淑女』中山 七里 実業之日本社文庫 2018年4月25日第6刷

その名前は蒲生美智留
女神なのか、悪魔なのか?

中学時代、いじめと病に絶望した野々宮恭子は従姉妹の蒲生美智留に命を救われる。美貌と明晰な頭脳を持つ彼女へ強烈な憧れを抱いてしまう恭子だが、それが地獄の始まりだった - 。名誉、金、性的衝動・・・・・・・美しく成長した美智留は老若男女の欲望を残酷に操り、運命を次々に狂わせる。連続する悲劇の先に待つものは? 史上最恐の悪女ミステリー! (実業之日本社)

一 野々宮恭子
二 鷺沼紗代
三 野々宮弘樹
四 古巻佳恵
五 蒲生美智留

野々宮恭子のクラスに、従姉妹の蒲生美智留が転校してきたのは中一の秋だった。美智留によって、イジメと再生不良性貧血という難病から救われた恭子は、美智留の美貌や明晰さに憧れ、心酔していく。やがてある出来事をきっかけに、二人は大きな秘密を共有するに至った。

時を経て、27歳になった美智留は 「生活プランナー」 を名乗り、経済的不安を抱える顧客へのコンサルタント業を行っていた。アシスタントは恭子だ。ストレス解消の散財によって借金を抱える銀行員の紗代、就職活動に失敗して家業を手伝う弘樹、働かない夫と育ちざかりの娘を抱え家計に困窮する佳恵・・・・・・・美智留は 「あなたは悪くない」 と解決法を示唆するが・・・・・・・。人々はどのようにして美智留の罠に墜ちてゆくのか。美智留とは何者なのか? (同ウェブサイトより)

世界は呪いに満ちている。 

所詮この世は理不尽で、得てして不幸は連続し、止まることがありません。人は - 殊更に幸福に飢えた凡人は、それでも来たるべき奇跡を願わずにはいられません。愚かな人間の前にこそ、蒲生美智留は現れます。

学生時代、醜さゆえに散々イジメにあった野々宮恭子は、その上命をも脅かす難病に見舞われます。救われたのはまぎれもなく美智留のおかげで、彼女に心酔する恭子の気持ちがわからぬではありません。但し、恭子のそれは度が過ぎて歪なものになっています。

鷺沼紗代と野々宮弘樹の場合は最悪で、銀行員として男性と肩を並べて働くも報われず、ブランド品の衝動買いでストレスを発散する紗代の気持ちはわからぬではありません。それにつけても限度があります。

家にいても安らげず、周囲に対し怒りをためこむばかりの弘樹については言語道断。自己実現できない原因は、すべからく彼自身にあります。不平不満の果てに人を殺そうなどとはあまりに愚かしく、何かが狂っているとしか思えません。

結婚相手を間違えたと思う古巻佳恵の場合はどうでしょう。大手企業をリストラされた後まるで働かなくなった夫に対し、彼女はどう対処すべきだったのでしょう? 困窮する家計に悩む彼女の気持ちはわかります。とは言え、その解決方法が、夫が死んで得られる保険金の額を破格に増やすことではなかったはずです。

動機やきっかけは様々あれど、アドバイスをするだけで、美智留は決して直接には手を下しません。やれと示唆することは全てが犯罪なのですが、言われた当人はそれが最良の方法だと、それしか今の苦境を逃れるすべがないと信じ込みます。

女神のような美智留が言う、”正当” でなおかつ甘美な言葉 - 凡庸な彼らは、求めるところの最大限の可能性を示唆する彼女の提言に、いとも容易く頷いてしまいます。

この本を読んでみてください係数 85/100

◆中山 七里
1961年岐阜県生まれ。
花園大学文学部国文科卒業。

作品 「切り裂きジャックの告白」「贖罪の奏鳴曲」「追憶の夜想曲」「七色の毒」「さよならドビュッシー」「闘う君の唄を」「連続殺人鬼カエル男」他多数

関連記事

『円卓』(西加奈子)_書評という名の読書感想文

『円卓』西 加奈子 文春文庫 2013年10月10日第一刷 直木賞の『サラバ!』を読む前に、

記事を読む

『教場2』(長岡弘樹)_書評という名の読書感想文

『教場2』長岡 弘樹 小学館文庫 2017年12月11日初版 必要な人材を育てる前に、不要な人材を

記事を読む

『人面瘡探偵』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『人面瘡探偵』中山 七里 小学館文庫 2022年2月9日初版第1刷 天才。5ページ

記事を読む

『贖罪の奏鳴曲(ソナタ)』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『贖罪の奏鳴曲(ソナタ)』中山 七里 講談社文庫 2013年11月15日第一刷 御子柴礼司は被

記事を読む

『さくら』(西加奈子)_書評という名の読書感想文

『さくら』西 加奈子 小学館 2005年3月20日初版 「この体で、また年を越すのが辛いです。ギブ

記事を読む

『セイレーンの懺悔』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『セイレーンの懺悔』中山 七里 小学館文庫 2020年8月10日初版 不祥事で番組

記事を読む

『私に付け足されるもの』(長嶋有)_書評という名の読書感想文

『私に付け足されるもの』長嶋 有 徳間書店 2018年12月31日初版 芥川賞、大

記事を読む

『ワルツを踊ろう』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『ワルツを踊ろう』中山 七里 幻冬舎文庫 2019年10月10日初版 金も仕事も住

記事を読む

『護られなかった者たちへ』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『護られなかった者たちへ』中山 七里 宝島社文庫 2021年8月4日第1刷 連続

記事を読む

『嗤う名医』(久坂部羊)_書評という名の読書感想文

『嗤う名医』久坂部 羊 集英社文庫 2016年8月25日第一刷 脊柱管狭窄症で尿道に管を入れられ自

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『絞め殺しの樹』(河﨑秋子)_書評という名の読書感想文

『絞め殺しの樹』 河﨑 秋子 小学館文庫 2024年4月10日 初版

『つまらない住宅地のすべての家』(津村記久子)_書評という名の読書感想文

『つまらない住宅地のすべての家』津村 記久子 双葉文庫 2024年4

『悪逆』(黒川博行)_書評という名の読書感想文

『悪逆』黒川 博行 朝日新聞出版 2023年10月30日 第1刷発行

『エンド・オブ・ライフ』(佐々涼子)_書評という名の読書感想文

『エンド・オブ・ライフ』佐々 涼子 集英社文庫 2024年4月25日

『アトムの心臓 「ディア・ファミリー」 23年間の記録』(清武英利)_書評という名の読書感想文

『アトムの心臓 「ディア・ファミリー」 23年間の記録』清武 英利 

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑