『坊さんのくるぶし/鎌倉三光寺の諸行無常な日常』(成田名璃子)_書評という名の読書感想文

『坊さんのくるぶし/鎌倉三光寺の諸行無常な日常』成田 名璃子 幻冬舎文庫 2019年2月10日初版

お布施をくすねた罰で、鎌倉にある禅寺・三光寺に送られることになった、お気楽跡継ぎ坊主の高岡皆道。不動明王のような強面の禅一、謎めいた優男の高仙ら “ワケアリ” の先輩僧侶たちに囲まれながら、慣れない修行に四苦八苦。そんなある日、修行仲間の源光が脱走騒ぎを起こし - 。すねに傷もつ 「悟りきれない」 修行僧たちの、青春 “坊主” 小説! (幻冬舎文庫/書き下ろし)

帯に 「瞑想? 迷走? ワケアリ修行僧たちの煩悩デイズ!  あなたの退屈、解決します。」 とあります。

ポップな見出しや軽めの言い回しに騙されてはいけません。基本コメディではありますが、人として、とても深いことが書いてあります。

代々続く寺の跡継ぎとはいえ、皆道は、したくて坊主をしているわけではありません。自分のことは、僧侶というただの自営業者の跡取り息子だと理解しています。

幸か不幸か、浄土真宗では - 修行は毎日の生活の中にあるという考えから - 出家もなければ定まった修行もありません。厳しい戒律もなく、剃髪もせずに済みます。ゆえに、皆道は今、得度とは名ばかりの、ぬるい実家の寺住まいで、それを良いことに寺を継ぐ気になっています。

浄土真宗願千寺。建立三百年以上になる実家の寺は、規模としては中くらいで、親父は俺を含む五人の弟子持ちだ。とはいえ、ほとんどの寺の住職は世襲で息子が継ぐから、他の四人の弟子が願千寺の住職になることはない。伝統ある寺といっても何のことはない、その辺の中小企業と一緒。先細りなところまで同じなのだから嫌になってくる。

さっきみたいに五万も包んでくれる婆さんなんて、じいちゃんの時代には珍しくもなかったらしいが、今じゃ絶滅危惧種のプレミアム檀家だ。(本文より)

お寺ではままこんなことがあります。その日願千寺では、檀家の十三回忌とお葬式が重なったのでした。住職である父親が葬儀へ、息子の皆道が十三回忌の法要へ行くことになります。

その法要で、皆道は、普通なら十分はかかる読経を五分弱で終わらせたのでした。お布施を中抜きし、内緒で競馬に行こうとしたのでした。それらは今回だけに止まらず、以前からもそうで、すべては父親である住職の知るところだったのでした。

事は公けにされ、期せずして皆道は “三光寺送り” となります。

皆道はれっきとした寺の跡継ぎではあるものの、仏教というものをまるで信じていません。いくら考えても、信じることができません。皆道にすれば、ご本尊の阿弥陀如来像さえも昔から家に置いてある、ただの古い置物としか思えません。

住職の父親に倣い仏事もこなすのですが、それはあくまで 「やれと言われてする」 だけの、”カタチ” にしか過ぎません。ゆえに、往々にしてそれは随分と横柄なものになります。

息子の怠慢を知った住職の父親は、皆道に対し 「おまえは、半分勘当だ」 と、 「性根を入れ替えるまでは」 余所の寺へ預けると宣言します。

これといった修行もせず、願千寺の僧侶として漫然と暮らしていただけの皆道は、極めて修行が厳しいとされる禅寺の、(一部では名の知れた) 鎌倉の三光寺へ 「明日から行け」 と命じられたのでした。

◆この本を読んでみてください係数 80/100

◆成田 名璃子
1975年青森県生まれ。東京都在住。
東京外国語大学仏語学科卒業。

作品 「東京すみっこごはん」「咲見庵三姉妹の失恋」「ハレのヒ食堂の朝ごはん」「不機嫌なコルドニエ 靴職人のオーダーメイド謎解き日誌」など

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