『よるのばけもの』(住野よる)_書評という名の読書感想文
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最終更新日:2019/04/30
『よるのばけもの』(住野よる), 住野よる, 作家別(さ行), 書評(や行)
『よるのばけもの』住野 よる 双葉文庫 2019年4月14日第1刷
夜になると、僕は化け物になる。寝ていても座っていても、それは深夜に突然やってくる。ある日、化け物になった僕は、忘れ物をとりに夜の学校へと忍びこんだ。誰もいない、と思っていた夜の教室。だけどそこには、なぜかクラスメイトの矢野さつきがいて - 。大ベストセラー青春小説 『君の膵臓をたべたい』 の著者が描く、本当の自分をめぐる物語。(双葉文庫)
文庫の帯には「夜の学校で、僕はひとりぼっちの少女に出会った - 本当の君が、ここにいる」 とあります。
最初は何が始まってゆくのだろうと。
そのうち段々と、「ああ、これはよくある “いじめ” の話」 なんだと、きっとそう思うはずです。「本当の君」 とは - なぜか夜中の教室に一人ぽつんと佇む同級生の、矢野さつきのことなんだと - そう思うに違いありません。
さつきという少女は確かにいじめに遭っています。クラスの中で、明らかに孤立しています。
しかしです。よく読むと、(外見は) さつきはさほどそのことに傷ついてはいないように思えます。というか、敢えてその立場(=いじめに遭う側) に甘んじているように思えてなりません。
昼間の学校では、彼女は決して本心を晒しません。むしろ、いじめを享受しているようにさえみえます。自分が承知でそうであるのなら、少なくとも別の誰かには害が及ばないとでも言うようにして。
だからこそ、さつきにだけは - 化け物の “僕” が “僕” だとわかった - のでしょう。
いじめの物語ではなかった、と読み終わったあとに清々しく胸を衝かれる。いじめが醸成される構造も柱の一つではあるが、主ではない。必死で空気を読んでその他大勢であり続けようとする少年と真夜中の化け物、どちらが本当の彼なのか。なぜ二つに引き裂かれたのかという問いかけが痛いくらいに鮮やかだ。地雷原、と作中で書かれた思春期の教室で、化け物的な側面を持たすに生きていける子がどれだけいるだろう。(週刊文春 2017.2.9号掲載/彩瀬まるの書評から抜粋)
※実際には、なかなか矢野さつきのような少女はいないと思います。彼女のような人物よりも、むしろ化け物になってしまった主人公の “僕” に似た者の方が、何倍も、何十倍も多いはずです。
なぜなら、地雷原を避けて通るには、それが一番容易い方法だからです。但し、ただ避けて通るばかりでは、問題は何一つ解決しません。
この本を読んでみてください係数 80/100
◆住野 よる
1990年生まれの29歳(らしい)。大阪府在住。男性。
作品 「君の膵臓をたべたい」「また、同じ夢を見ていた」「青くて痛くて脆い」「か「」く「」し「」ご「」と「」「麦本三歩の好きなもの」等
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