『ひなた弁当』(山本甲士)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2019/04/30 『ひなた弁当』(山本甲士), 作家別(や行), 山本甲士, 書評(は行)

『ひなた弁当』山本 甲士 小学館文庫 2019年3月20日第9刷

ひなた弁当 (小学館文庫)

人員削減を行うことになった勤務先で、五十歳目前の芦溝良郎は、上司に騙され出向を受け入れる。紹介先の人材派遣会社では名前を登録されただけで、きつい仕事ばかりを紹介され長続きしない。家族からはこれまで通りにしてくれと言われ、スーツ姿で朝から出ていく。やがて心の病を自ら疑うようになった頃、以前の派遣社員の新たな姿に励まされ、公園で見かけたのがドングリだった。そこでの思いつきが、良郎の運命を大きく変えていく・・・・・・・。追いつめられた先に、本人も気づかなかった潜在能力を発揮し始め、逞しく変貌していく主人公を描いた感動の長編小説! (小学館文庫)

“happy reading” にはもってこいの一冊。

但し、あなたに “合う” かどうかはわかりません。 難癖を付けようと思えばいくらでも付けられます。

土手や空き地に勝手に生えてる野草と自分が釣った魚でオリジナルな弁当を作り、(自分が食べるだけならまだしも) それを商売にしようなぞとは、

五十にもなって - そんな奴あ、いないだろう - とか、

んなこと出来るわけないだろうに、とか。

それくらいには突飛な話であるわけです。「リストラ」 はあまりに切実な問題ですが、当事者である主人公の良郎がとった行動は、切実過ぎる現実を前にして、突き抜けて現実離れしたものだったといえます。

しかしです。敢えて、ここでそのことは問うべきではない、と思うのです。少なくとも私はそんな思いで読みました。

炒ればドングリは美味いし、まるで天敵みたいに嫌われているブラックバスやブルーギルの白身は、それと言わなければ絶対に気付きません。癖がなく淡泊な味は、いくら食べても飽きることがありません。

その発見こそを、善しとしようではありませんか。

(ネットで見かけた感想を二つほど)
・私自身、自分は仕事が出来るとは思ったことは有りませんし、いつクビになるか暗い顔でヒヤヒヤしながら職場にいる人間です・・・・。が、何となく (本当に何となくですが・・・・) 本人が思っている以上に世の中は何とかなるのではないか? と、思わせてしまう、ある意味、私にとっては夢を見せて頂いたお話でした・・・・。(ヒムアキョさん 2019/02/01)

・リストラされた、何の取り柄も特技もないくたびれたサラリーマンが、どん底から一発逆転するスカッと話。確かにドングリ以降は胸がすく展開だけど、前半の方がリアリティはあったな。ロクに料理もした事がないのに、万人の舌を納得させる弁当をサラッと作ってしまうとか、リストラ以後関わる人がおしなべて良い人だとか・・・・・・・なんて細かい点をあげつらうのは無粋かな。ここは明るい気持ちになれる、ビタミン剤のような小説という事で良いのかも。(kujimamiさん 2018/11/16)

まあまあ、こんな感じで読んでもらえればと。

この本を読んでみてください係数 80/100

ひなた弁当 (小学館文庫)

◆山本 甲士
1963年滋賀県大津市生まれ。
北九州大学法学部卒業。

作品 「ノーペイン、ノーゲイン」「どろ」「かび」「とげ」「ひろいもの」「あたり-魚信」「運命のひと」他多数

関連記事

『ボトルネック』(米澤穂信)_書評という名の読書感想文

『ボトルネック』米澤 穂信 新潮文庫 2009年10月1日発行 ボトルネック (新潮文庫)

記事を読む

『ゴールドラッシュ』(柳美里)_書評という名の読書感想文

『ゴールドラッシュ』柳 美里 新潮文庫 2019年8月30日8刷 ゴールドラッシュ (新潮文

記事を読む

『つみびと』(山田詠美)_書評という名の読書感想文

『つみびと』山田 詠美 中央公論新社 2019年5月25日初版 つみびと (単行本)

記事を読む

『けむたい後輩』(柚木麻子)_書評という名の読書感想文

『けむたい後輩』柚木 麻子 幻冬舎文庫 2014年12月5日初版 けむたい後輩 &nbs

記事を読む

『砂漠ダンス』(山下澄人)_書評という名の読書感想文

『砂漠ダンス』山下 澄人 河出文庫 2017年3月30日初版 砂漠ダンス (河出文庫 や)

記事を読む

『ファーストラヴ』(島本理生)_彼女はなぜ、そうしなければならなかったのか。

『ファーストラヴ』島本 理生 文春文庫 2020年2月10日第1刷 ファーストラヴ (文春文

記事を読む

『ペインレス 私の痛みを抱いて 上』(天童荒太)_書評という名の読書感想文

『ペインレス 私の痛みを抱いて 上』天童 荒太 新潮文庫 2021年3月1日発行 ペインレス

記事を読む

『パイナップルの彼方』(山本文緒)_書評という名の読書感想文

『パイナップルの彼方』山本 文緒 角川文庫 2022年1月25日改版初版発行 生きづ

記事を読む

『母と死体を埋めに行く』(大石圭)_書評という名の読書感想文

『母と死体を埋めに行く』大石 圭 角川ホラー文庫 2021年10月25日初版 母と死体を埋め

記事を読む

『プリズム』(貫井徳郎)_書評という名の読書感想文

『プリズム』貫井 徳郎 実業之日本社文庫 2022年8月9日初版第2刷発行 [作家

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『遠巷説百物語』(京極夏彦)_書評という名の読書感想文

『遠巷説百物語』京極 夏彦 角川文庫 2023年2月25日初版発行

『最後の記憶 〈新装版〉』(望月諒子)_書評という名の読書感想文

『最後の記憶 〈新装版〉』望月 諒子 徳間文庫 2023年2月15日

『しろがねの葉』(千早茜)_書評という名の読書感想文

『しろがねの葉』千早 茜 新潮社 2023年1月25日3刷

『今夜は眠れない』(宮部みゆき)_書評という名の読書感想文

『今夜は眠れない』宮部 みゆき 角川文庫 2022年10月30日57

『プロジェクト・インソムニア』(結城真一郎)_書評という名の読書感想文

『プロジェクト・インソムニア』結城 真一郎 新潮文庫 2023年2月

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑