『最後の証人』(柚月裕子)_書評という名の読書感想文

『最後の証人』柚月 裕子 角川文庫 2018年10月30日8刷

最後の証人 (角川文庫)

検事を辞して弁護士に転身した佐方貞人のもとに殺人事件の弁護依頼が舞い込む。ホテルの密室で男女の痴情のもつれが引き起こした刺殺事件。現場の状況証拠などから被告人は有罪が濃厚とされていた。それにもかかわらず、佐方は弁護を引き受けた。「面白くなりそう」 だから。佐方は法廷で若手敏腕検事・真生と対峙しながら事件の裏に隠された真相を手繰り寄せていく。やがて7年前に起きたある交通事故との関連が明らかになり・・・・・・・

元検察官の佐方貞人は刑事事件専門の敏腕弁護士。犯罪の背後にある動機を重視し、罪をまっとうに裁かせることが、彼の弁護スタンスだ。そんな彼のもとに舞い込んだのは、状況証拠、物的証拠とも被告人有罪を示す殺人事件の弁護だった。果たして佐方は、無実を主張する依頼人を救えるのか。感動を呼ぶ圧倒的人間ドラマとトリッキーなミステリー的興趣が、見事に融合した傑作法廷サスペンス。(「BOOK」データベースより)

佐方貞人シリーズ・第1作 『最後の証人』 を読みました。この後、シリーズは第2作 『検事の本懐』(第15回大藪春彦賞受賞)、第3作 『検事の死命』 と続くことになります。

実は私は、(何も知らずに) 最初シリーズの第2作にあたる 『検事の本懐』 を読みました。何気に手に取ったのですがこれがはるかに予想を超えて面白く、朴訥を絵に描いたような佐方という人物の、胸のすくような仕事ぶりにすっかり魅了されたのでした。

その頃佐方は、東京から新幹線で北に二時間ほどのところにある地方都市で新米検事として働いています。そのときの彼の活躍ぶり、あるいはそもそも彼がなぜ検事という職業を選んだのか、事件に際しあくまで真摯であろうとする彼の姿勢などが縷々綴られています。

ところが、シリーズ・第1作であるこの 『最後の証人』 では、既に佐方は検事を辞めて、弁護士になっています。

- それでは順番が逆ではないか? そう思うのは至極当然のことです。(最初、私もそう思いました) なら、なぜ 『検事の本懐』 を第1作にしなかったのか? と誰もが思うでしょう。

そうに違いありません。しかし、それは “できない” ことだったのです。なぜなら、『最後の証人』 は当初単体の読み物で、シリーズ化の予定などなかったのですから。

ところが、作品に登場する 「佐方貞夫」 という人物に対する反響が思いのほか大きかった。「佐方のことをもっと知りたい」 という読者が数多くいたのだそうです。

その声に応えるために書かれたのが 『検事の本懐』 であり、『検事の死命』 であるということ。佐方が法曹の世界へ足を踏み入れた初期の段階から、そう長くはない検事時代の仕事ぶりを振り返ることで、 佐方貞人の “人となり” とをより鮮明に描き出そうと。

そんな中、第2作・第3作は生まれたのでした。但し、言わずもがなですが、三冊はそれぞれに独立しており、一冊だけでも十二分に楽しめるものになっています。

が、一冊読めばきっとあなたは思うはずです。もっと読みたいと。佐方貞人のことをもっと知りたいと。佐方にはそう思わせる何かがあります。

この本を読んでみてください係数 85/100

最後の証人 (角川文庫)

◆柚月 裕子
1968年岩手県生まれ。

作品 「臨床真理」「検事の本懐」「検事の死命」「蝶の菜園 - アントガーデン -」「パレードの誤算」「朽ちないサクラ」「ウツボカズラの甘い息」「孤狼の血」他多数

関連記事

『シンドローム』(佐藤哲也)_書評という名の読書感想文

『シンドローム』佐藤 哲也 キノブックス文庫 2019年4月9日初版 シンドローム(キノブッ

記事を読む

『そこにいるのに/13の恐怖の物語』(似鳥鶏)_書評という名の読書感想文

『そこにいるのに/13の恐怖の物語』似鳥 鶏 河出文庫 2021年6月20日初版 そこにいる

記事を読む

『政治的に正しい警察小説』(葉真中顕)_書評という名の読書感想文

『政治的に正しい警察小説』葉真中 顕 小学館文庫 2017年10月11日初版 政治的に正しい

記事を読む

『線の波紋』(長岡弘樹)_書評という名の読書感想文

『線の波紋』長岡 弘樹 小学館文庫 2012年11月11日初版 線の波紋 (小学館文庫)

記事を読む

『ウツボカズラの甘い息』(柚月裕子)_書評という名の読書感想文

『ウツボカズラの甘い息』柚月 裕子 幻冬舎文庫 2018年10月10日初版 ウツボカズラの甘

記事を読む

『ルパンの消息』(横山秀夫)_書評という名の読書感想文

『ルパンの消息』横山 秀夫 光文社文庫 2009年4月20日初版 ルパンの消息 (光文社文庫)

記事を読む

『すべて忘れてしまうから』(燃え殻)_書評という名の読書感想文

『すべて忘れてしまうから』燃え殻 扶桑社 2020年8月10日第3刷 すべて忘れてしまうから

記事を読む

『死にぞこないの青』(乙一)_書評という名の読書感想文

『死にぞこないの青』乙一 幻冬舎文庫 2001年10月25日初版 死にぞこないの青 (幻冬舎文

記事を読む

『笹の舟で海をわたる』(角田光代)_書評という名の読書感想文

『笹の舟で海をわたる』角田 光代 毎日新聞社 2014年9月15日第一刷 笹の舟で海をわたる

記事を読む

『ルビンの壺が割れた』(宿野かほる)_書評という名の読書感想文

『ルビンの壺が割れた』宿野 かほる 新潮社 2017年8月20日発行 ルビンの壺が割れた こ

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。

『ポラリスが降り注ぐ夜』(李琴峰)_書評という名の読書感想文

『ポラリスが降り注ぐ夜』李 琴峰 ちくま文庫 2022年6月10日第

『カインの傲慢/刑事犬養隼人』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『カインの傲慢/刑事犬養隼人』中山 七里 角川文庫 2022年6月2

『カゲロボ』(木皿泉)_書評という名の読書感想文

『カゲロボ』木皿 泉 新潮文庫 2022年6月1日発行

『あたしたち、海へ』(井上荒野)_書評という名の読書感想文

『あたしたち、海へ』井上 荒野 新潮文庫 2022年6月1日発行

『白昼夢の森の少女』(恒川光太郎)_書評という名の読書感想文

『白昼夢の森の少女』恒川 光太郎 角川ホラー文庫 2022年5月25

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑