『真夜中のマーチ』(奥田英朗)_書評という名の読書感想文
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『真夜中のマーチ』(奥田英朗), 作家別(あ行), 奥田英朗, 書評(ま行)
『真夜中のマーチ』奥田 英朗 集英社文庫 2019年6月8日第12刷
自称青年実業家のヨコケンこと横山健司は、仕込んだパーティーで三田総一郎と出会う。財閥の御曹司かと思いきや、単なる商社のダメ社員だったミタゾウとヨコケンは、わけありの現金強奪をもくろむが、謎の美女クロチェに邪魔されてしまう。それぞれの思惑を抱えて手を組んだ3人は、美術詐欺のアガリ、10億円をターゲットに完全犯罪を目指す! が・・・・・・・!? 直木賞作家が放つ、痛快クライム・ノベルの傑作。(集英社文庫)
連日、うだるような暑さが続いています。
2週間ほどは経ったのでしょうか。寝ている間中冷房をかけ、起きるとすぐに冷房を切り、着替えを済ませ一階の台所へ行き、すぐにまた冷房を入れます。たいていは、午前7時頃のことです。
玄関横のトイレで用を足し、外にある幾鉢かの花に水をやり、朝刊を取り込んで台所へ戻って来たところで、もう汗をかいている - 着替えたばかりのシャツが早くも台無しになり、シャツと肌とがへばり付くのが何とも不快な - そんな日々であるわけです。
朝刊を読みながらトースト一枚とアイスコーヒー一杯の朝食を済ませると、椅子をずらして換気扇の下まで移動し、煙草を喫うのが習慣になっています。皿とコップを洗い、ラックに新聞をしまうと、見計らったように、ようやく妻が起き出してきます。
特にこれといった予定のない日には、そのまま台所に居座って、私は本を読みます。今日はまさしくそんな日で、先日買った 「集英社文庫 ナツイチ 2019」 の中の一冊、奥田英朗の 『真夜中のマーチ』 を読みました。
奥田英朗は、私の大好きな作家さんの一人です。これまでに沢山の作品を読みました。超真面目な巨編があるかと思えば、それとは真逆に、およそありそうもない話を平気で書くような、変幻自在にジャンルを越えて秀逸な、まことに稀有な作家さんであるわけです。
シリアスなクライムノベル、純度高い青春小説、きわめつけのヘンな小説、そして会社員小説の次に刊行されたこの長編は、スラップスティック小説だ。奥田英朗の自由奔放なジャンル横断はとどまるところを知らないのである。(解説より)
※スラップスティックとは - コメディの一種。からだを使ったギャグ。「どたばたギャグ」 とも訳される。チャップリンのそれなどが有名。(wikipedia)
要は、読んで楽しい、”お気楽” な読み物であるということです。
これはとても大事なことだと思います。この手の本が、実は中々にありません。前宣伝ほどには面白くないであるとか、突飛なだけで面白さが持続しないであるとか、話の中身があまりに杜撰で読むに堪えないであるとか、大抵はそんなことであるわけです。
そこで、私は奥田英朗の書いたものを読みます。この人が書いたものなら間違いない、と思うからです。うだるような暑さが続くこんな日は、大したことは考えず、涼しい部屋で寝転んで、ハラハラドキドキ、時に腹を抱えてバカ笑いするような、こんな本を読んで過ごすに限ります。どこかへ行こうなどとは思いもしません。
この本を読んでみてください係数 80/100
◆奥田 英朗
1959年岐阜県岐阜市生まれ。
岐阜県立岐山高等学校卒業。プランナー、コピーライター、構成作家を経て小説家。
作品 「ウランバーナの森」「最悪」「邪魔」「空中ブランコ」「町長選挙」「沈黙の町で」「無理」「噂の女」「ナオミとカナコ」「向田理髪店」他多数
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