『夏をなくした少年たち』(生馬直樹)_書評という名の読書感想文
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最終更新日:2024/01/09
『夏をなくした少年たち』(生馬直樹), 作家別(あ行), 書評(な行), 生馬直樹
『夏をなくした少年たち』生馬 直樹 新潮文庫 2019年8月1日発行

第3回 新潮ミステリー大賞受賞作 『夏をなくした少年たち』 を読みました。
(反省) 私は、大きな思い違いをしていました。買ったタイミングに、思わせぶりなタイトル、その上 「スタンド・バイ・ミー」 とくれば、誰だってそう思うではありませんか? 何とも紛らわしい。(但し、だからどうだと言うわけではありません)
◎あらすじ(解説より)
人生には、さまざまな後悔がつきまとう。(中略) たいていの後悔は、何日か経てば忘れてしまうものだが、中には一生ひきずるような大きな後悔を抱え込む場合もある。生馬直樹 『夏をなくした少年たち』 は、主人公が少年時代に犯したある過ちに対するとてつもなく深い後悔と、二十二年の時を経てその過ちとまっすぐ向き合おうとする勇気とを、切なくも鮮烈に描き出す。(後略)
主人公は、警視庁杉並警察署の刑事、梨木拓海 (三十代半ば)。物語は、彼が管内 (杉並区阿佐ヶ谷南) で起きた殺人事件の被害者と遺体安置所で体面する場面から始まる。〈彼は男の顔を見下ろして、変わってないな、と思った。およそ二十年ぶりの再会だったが、最初に感じたことはそれだった〉
死体を見つめた彼は、やがて、〈- そうか。結局、死んだのか〉 と胸の中でつぶやくと、この事件を自分の手で解決することを決意する。(あとでわかることだが) “あの夏” と決着をつけるために・・・・・・・。
この短いプロローグに続いて、小説は二十二年の時を遡り、小学六年生の拓海が語り手となって、”あの夏” の出来事を語りはじめる。(by大森望)
◎新潮ミステリー大賞受賞にかかる貴志祐介氏の選評
本作を凡百の類似作から隔てているのは、登場する少年たちの心理や生活が実に生き生きと描かれていることだろう。『スタンド・バイ・ミー』 を彷彿とさせると言ったら褒めすぎだろうか。何となく知ってはいるものの多くの人にとってそれほど馴染みのない新潟という舞台もぴったりであり、悲劇が待ち受けている山へ行くシーンを読んでいると、胸が苦しくなった。
※貴志祐介氏の選評が褒めすぎだとは思いません。(既に私は全編を読み終えていました) ただ、私はこの文章を読んで、何気に、
スタンド・バイ・ミー? この小説が?
「それは違うだろう」 と感じたのでした。夏休みという時期が時期だけに、紛らわしいタイトルに加えて 『スタンド・バイ・ミー』 などという如何にも “それらしい” 単語が添えられると、いかばかりか読者を混乱させますが、この作品は “大人” が読んでこそ 「ああ、そうだったのか」 とわかる話だろうと。
少年少女らは、何より等身大の物語を読みたいと思っています。なるだけわかり易く、余計な説明は不要で、尚且つストレートに心に響く話を望んでいます。
これをみてください。これは、このブログの直近1ヶ月の累計検索数の結果(検索が多かった記事ベスト10)です。
1. さよなら、ビー玉父さん/阿月まひる
2. さよなら、田中さん/鈴木るりか
3. きみの町で/重松清
4. エイジ/重松清
5. あん/ドリアン助川
6. 高校入試/湊かなえ
7. 幸福な食卓/瀬尾まいこ
9. ぼくは勉強ができない/山田詠美
10. フォルトゥナの瞳/百田尚樹 (8月14日現在/記事総数854中)
「『スタンド・バイ・ミー』 を彷彿とさせる」 かどうかは別にして、この時期、少年少女らが好んで手に取るのは、概ねこの手の本です。残念ながら、この 『夏をなくした少年たち』 は、”この手の本” とは似て非なる作品です。
それが言いたかった。
この本を読んでみてください係数 80/100

◆生馬 直樹
1983年新潟県生まれ。
作品 2016年、「夏をなくした少年たち」 で新潮ミステリー大賞を受賞し、デビュー。他に 「偽りのラストパス」 がある。
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