『朽ちないサクラ』(柚月裕子)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/09 『朽ちないサクラ』(柚月裕子), 作家別(や行), 書評(か行), 柚月裕子

『朽ちないサクラ』柚月 裕子 徳間文庫 2019年5月31日第7刷

(物語の冒頭)
森口泉をはじめとする米崎県警広報広聴課のメンバーはその日、朝から総出で苦情電話の応対に追われていた。米崎県の平井中央署生活安全課が、女子大生を狙ったストーカー事件においてしでかした不始末への苦情だ。女子大生の両親は何度も平井中央署に相談していたのだが、担当した警官はまともに取り合わなかった。業を煮やした両親が正式に被害届を出してからもなお担当警官は受理を引き延ばし、一週間後にようやく受理したが、その二日後に女子大生はストーカーに殺されてしまったのだった。

それだけでも警察の対応は十分に問題視されるのだが、それ以上の不始末があった。被害届の受理を引き延ばした理由について、警察は当初、他の事件捜査が多忙だったとしていたが、実は、ストーカー事案を担当する生活安全課が自分たちの慰安旅行を優先したことが理由だったと判明したのである。これが米崎新聞にスクープされ、県民たちの怒りが爆発した。かくして森口泉たちが苦情の電話への対応に追われることになったのである。

犯人は事件から二日後に逮捕されたが、米崎県警の内側は、それでは落着しなかった。慰安旅行の情報を米崎新聞に洩らしたのは誰か。県警内での腹の探り合いが始まったのである。そして “犯人” が見つからないでいるなか、また新たな殺人事件が発生した。被害者は、米崎新聞の記者である津村千佳。県警担当である彼女は、泉と高校の同級生であり、定期的に食事をする仲であり、そして、慰安旅行の情報を知る人物でもあった。二人での会食の席における泉の不用意な言動から、千佳は慰安旅行に気付いてしまっていたのである。

泉の懇願により絶対に記事にしないと約束した千佳だったが、会食の二日後、慰安旅行の情報は米崎新聞の単独スクープとして紙面を飾った。秘密を漏らしていないと千佳は泉に訴えたが、泉はそれを信じ切れず、そしてその疑いのなかで千佳は殺された・・・・・・・。(文庫本・解説からの抜粋)

二週間前の四月二日、午前零時三十分頃、平井市光南町の路上で、女性が男に刃物で刺された。被害者の名前は長岡愛梨さん、二十一歳。平井市にある自宅から、米崎市の大学に通っていた女子大生だ。
犯人は、安西秀人、三十四歳。自称フリーターで、以前から愛梨さんにストーカー行為を行っていた。安西は愛梨さんを刺したあと現場から逃走したが、二日後に米崎市の中心部から離れた大森公園近くをうろついていたところを、巡回中の警察官が発見、逮捕された。

この事件の前) 度を越したストーカー行為に、娘の身に危険を感じた愛梨さんの両親は、警察に相談した。だが、所轄の平井中央警察署の生活安全課で、愛梨さんの両親の対応をした課員は、無言電話の相手や車を傷つけた犯人が安西かどうかの確証がないとして、取り合わなかった。
しかし、愛梨さんの両親は、諦めなかった。被害届を受理してくれるよう、何度も足を運んだ。この間もストーカー行為は続き、警察が受理しないなら弁護士を立てる覚悟だ、と詰め寄る。
弁護士が出てくると、問題が大きくなると考えた所轄署は、ここに至ってようやく捜査を開始することに決めた。しかし、受理期日を一週間延ばした。別の事件の捜査で人手がとられ、人員が払底しているとの理由だった。平井中央署は約束どおり一週間後に被害届を受理したが、その二日後に愛梨さんは殺害された。(本文より/抜粋して掲載)

※事は安西秀人のストーカー行為に始まり、不幸にも被害者である女子大生の命を奪ったものの、すぐに犯人の安西は逮捕され、事件は一応の解決をみたかに思えました。

ところがその直後、所轄署の怠慢を暴くスクープが地元米崎新聞のその日のトップ記事として紙面を飾ります。その見出しは、『平井市女子大生ストーカー殺人事件/警察署職員、両親の被害届を放置中、北海道へ慰安旅行か』 というものでした。

そのスクープ記事が出た一週間後、今度は米崎新聞の県警担当記者だった津村千佳が遺体となって発見されます。

千佳と泉は高校の同級生で、千佳が亡くなる一週間前、つまりはスクープ記事が出た当日の夜、二人は密かに待ち合わせ食事を共にしています。ここからです。ここからが、本当に面白くなります!!

警察のあきれた怠慢のせいでストーカー被害者は殺された!? 警察不祥事のスクープ記事。新聞記者の親友に裏切られた ・・・・・・・ 口止めした泉は愕然とする。情報漏洩の犯人探しで県警内部が揺れる中、親友が遺体で発見された。警察広報職員の泉は、警察学校の同期・磯川刑事と独自に調査を始める。次第に核心に迫る二人の前にちらつく新たな不審の影。事件には思いも寄らぬ醜い闇が潜んでいた。第5回徳間文庫大賞受賞作。(徳間文庫)

この本を読んでみてください係数 80/100

◆柚月 裕子
1968年岩手県生まれ。

作品 「臨床真理」「盤上の向日葵」「最後の証人」「検事の本懐」「検事の死命」「検事の信義」「ウツボカズラの甘い息」「孤狼の血」他多数

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