『少女奇譚/あたしたちは無敵』(朝倉かすみ)_朝倉かすみが描く少女の “リアル”
公開日:
:
『少女奇譚/あたしたちは無敵』(朝倉かすみ), 作家別(あ行), 書評(さ行), 朝倉かすみ
『少女奇譚/あたしたちは無敵』朝倉 かすみ 角川文庫 2019年10月25日初版
このことは、あたしたちだけの秘密よ 朝倉かすみが挑む少女×ふしぎの物語
小学校の帰り道、きらきら光る乳歯のようなものを拾った東城リリア。同級生の清香と沙羅も、似たような欠片を拾ったという。ふしぎな光を放つこれはきっと、あたしたちに特殊な能力を授けてくれるものなのだ。敵と闘って世界を救うヒロイン。あたしたちは、選ばれた - 。でも、魔法少女だって、死ぬのはいやだ。(「あたしたちは無敵」)
少女たちの日常にふと覘く 「ふしぎ」 な落とし穴。表題作のほか、雑誌 『Mei (冥)』、WEBダ・ヴィンチに掲載されたものに書き下ろしを加えた全5編を収録。(WEBサイトKADOKAWAより)◆収録作品 「留守番」 「カワラケ」 「あたしたちは無敵」 「おもいで」 「へっちゃらイーナちゃん」
小学五、六年生あたりの少女を主人公にした、虚実混交の不思議な物語。不思議なことは、現に今いる少女たちの目の前で起こります。
彼女たちにとってはそれはまぎれもない現実で、不思議なことでも何でもありません。いとも容易く、それを 「現実」 として受け止めることができます。
軽々と。しなやかに。時には、息を詰めながら。
ある場合には、これから起こる僥倖の、あるいは災いの兆しとして。またある場合には、窮地に舞い降りた思いもしない救世主として。
「へっちゃらイーナちゃん」・・・・・・・ 七歳の時に家族と出かけた摩周湖で、不思議な女の子イーナちゃんと出会った 〈わたし〉。八歳で母が入院、九歳で父と姉との三人家族になり、父親の言動がおかしさを増していく。そして十一歳になった時、姉と 〈わたし〉 はある決断をする。とにかく妹に対する姉の思いが泣ける。また、次第に母親の複雑な思いが浮かび上がってきて胸を突かれる。(解説より)
この作品で特筆すべきは、父親がする一々の言動の際立った不快感。これに尽きます。二人は、父親の性向と性癖をよく承知しています。拒みたいのは山々なのですが、幼いゆえに拒むことができません。
母親が亡くなったあと、その傾向はさらに度を増し、姉ばかりか妹にも及びかねない事態になっていきます。
そんな時です。〈わたし〉 の前にふたたびあの不思議な少女、イーナちゃんが現れたのは。
この本を読んでみてください係数 80/100
◆朝倉 かすみ
1960年北海道小樽市生まれ。
北海道武蔵女子短期大学教養学科卒業。
作品 「肝、焼ける」「田村はまだか」「夏目家順路」「玩具の言い分」「ロコモーション」「恋に焦がれて吉田の上京」「たそがれどきに見つけたもの」「満潮」「平場の月」他多数
関連記事
-
-
『悪い恋人』(井上荒野)_書評という名の読書感想文
『悪い恋人』井上 荒野 朝日文庫 2018年7月30日第一刷 悪い恋人 (朝日文庫) 恋
-
-
『朝が来るまでそばにいる』(彩瀬まる)_書評という名の読書感想文
『朝が来るまでそばにいる』彩瀬 まる 新潮文庫 2019年9月1日発行 朝が来るまでそばにい
-
-
『きれいなほうと呼ばれたい』(大石圭)_書評という名の読書感想文
『きれいなほうと呼ばれたい』大石 圭 徳間文庫 2015年6月15日初刷 きれいなほうと呼ばれ
-
-
『月の上の観覧車』(荻原浩)_書評という名の読書感想文
『月の上の観覧車』荻原 浩 新潮文庫 2014年3月1日発行 月の上の観覧車 (新潮文庫) 本書
-
-
『鯖』(赤松利市)_書評という名の読書感想文
『鯖』赤松 利市 徳間書店 2018年7月31日初刷 鯖 (文芸書) 読めば、地獄。狂気
-
-
『その愛の程度』(小野寺史宜)_書評という名の読書感想文
『その愛の程度』小野寺 史宜 講談社文庫 2019年9月13日第1刷 その愛の程度 (講談社
-
-
『夏の陰』(岩井圭也)_書評という名の読書感想文
『夏の陰』岩井 圭也 角川文庫 2022年4月25日初版 出会ってはならなかった二人
-
-
『ジェントルマン』(山田詠美)_書評という名の読書感想文
『ジェントルマン』山田 詠美 講談社文庫 2014年7月15日第一刷 ジェントルマン (講談社
-
-
『展望塔のラプンツェル』(宇佐美まこと)_書評という名の読書感想文
『展望塔のラプンツェル』宇佐美 まこと 光文社文庫 2022年11月20日初版第1刷
-
-
『田舎でロックンロール』(奥田英朗)_書評という名の読書感想文
『田舎でロックンロール』奥田 英朗 角川書店 2014年10月30日初版 田舎でロックンロール