『犬』(赤松利市)_第22回大藪春彦賞受賞作
『犬』赤松 利市 徳間書店 2019年9月30日初刷
大阪でニューハーフ店 「さくら」 を営む桜は63歳のトランスジェンダーだ。23歳で同じくトランスジェンダーの美少女・沙希を店員として雇い、慎ましくも豊かな日々を送っていた。今さらと思いながらも、女の幸せを忘れられない桜は、気を惹くために、安藤から持ち掛けられた儲け話に乗ることを決意。老後のためにコツコツ貯めた、なけなしの1千万円を用意するが・・・・・・・。
女、男、老、金・・・・・・・。
尽きぬ悩みを足掻く力とは。鬼才が放つ狂乱の疾走劇。
大阪発。愛と暴力の旅が、今、始まった。
嬲り、嬲られ、愛に死ね! (徳間書店)
読書メーターに、実に的を得た感想を見つけました。縷々私が書くよりも、まずはそれを読んでみてください。”パット長月” さんからの投稿です。
著者は二作目。グロい・・・・・・・が、やっぱりおもしろかった。還暦過ぎて器量と身体の劣化に苦しむMtFの桜、彼女? を母と慕う20代前半の若くて美しいMtFサキッチョ、老境に入ってもなお両刀使いで変態ドSクズ野郎の安藤の間で展開する凄まじい暴力・凌辱・そしてじんとくる親子? の愛と絆の物語。「純子」 もそうだったが、外道 (「純子」 のウ〇コに対して今回は痛そうな肛姦が主要パーツ) と人情が奇妙に同居しつつも、ハッピーエンドで締めてくれるせいか、結局のところ最後は人情のほうに傾いて気分よく読了した。たいした力量である。
“気分よく読了した” パット長月さんこそ、なかなかの力量である。そう思うのは、読後間もない私だからでしょうか。
確かに、ハッピーエンドであるには違いありません。但し、そこへ行く着くまでに繰り返し見せられる一切容赦のない暴力や狂気の果ての凌辱に、はたしてあなたは堪えられるでしょうか? 気分が悪くなったりはしないでしょうか。
見てもいない光景が目に焼き付いて、嗅ぎもしない臭いが鼻に付き、桜や沙希の痛みをわが身に感じ、あまりのおぞましさに、読むのを止めはしないでしょうか。それが心配です。
この本を読んでみてください係数 85/100
◆赤松 利市
1956年香川県生まれ。
作品 「藻屑蟹」「鯖」「らんちう」「ボダ子」「純子」等
関連記事
-
『死にたくなったら電話して』(李龍徳/イ・ヨンドク)_書評という名の読書感想文
『死にたくなったら電話して』李龍徳(イ・ヨンドク) 河出書房新社 2014年11月30日初版
-
『おはなしして子ちゃん』(藤野可織)_書評という名の読書感想文
『おはなしして子ちゃん』藤野 可織 講談社文庫 2017年6月15日第一刷 理科準備室に並べられた
-
『にぎやかな落日』(朝倉かすみ)_書評という名の読書感想文
『にぎやかな落日』朝倉 かすみ 光文社文庫 2023年11月20日 初版1刷発行 「今まで自
-
『生きてるだけで、愛。』(本谷有希子)_書評という名の読書感想文
『生きてるだけで、愛。』本谷 有希子 新潮文庫 2009年3月1日発行 あたしってなんでこんな
-
『赤目四十八瀧心中未遂』(車谷長吉)_書評という名の読書感想文
『赤目四十八瀧心中未遂』車谷 長吉 文芸春秋 1998年1月10日第一刷 時々この人の本を読
-
『サブマリン』(伊坂幸太郎)_書評という名の読書感想文
『サブマリン』伊坂 幸太郎 講談社文庫 2019年4月16日第1刷 『チルドレン』
-
『リバース&リバース』(奥田亜希子)_書評という名の読書感想文
『リバース&リバース』奥田 亜希子 新潮文庫 2021年4月1日発行 大切なものは
-
『二千七百の夏と冬』(上下)(荻原浩)_書評という名の読書感想文
『二千七百の夏と冬』(上下)荻原 浩 双葉文庫 2017年6月18日第一刷 [物語の発端。現代の話
-
『殺戮にいたる病』(我孫子武丸)_書評という名の読書感想文
『殺戮にいたる病』我孫子 武丸 講談社文庫 2013年10月13日第一刷 東京の繁華街で次々と猟奇
-
『不時着する流星たち』(小川洋子)_書評という名の読書感想文
『不時着する流星たち』小川 洋子 角川文庫 2019年6月25日初版 私はな