『さまよえる脳髄』(逢坂剛)_あなたは脳梁断裂という言葉をご存じだろうか。

『さまよえる脳髄』逢坂 剛 集英社文庫 2019年11月6日第5刷

さまよえる脳髄 (集英社文庫)

なんということでしょう。30年があっという間に過ぎました。この作品は、1988年10月に 〈新潮ミステリー倶楽部〉 の一冊として単行本が発行。1992年に文庫化 (新潮文庫)。その後、2003年に集英社文庫より新装されたものの第5刷ということになります。

単行本発行当初、表紙 (の裏) に載った惹句はこうです。

暴走する神経回路のパスワードを捜せ! ふとしたきっかけで豹変する病んだ脳髄たち。女性精神科医・南川藍子に忍び寄る影のなかに、まさかのあいつが・・・・・。精神病理学、大脳生理学の可能性を極限まで追求、脂の乗り切った逢坂サスペンスの最高峰! 

「おもしろそうだが、読むとずいぶん古くさいのではないか」 とお思いのあなた。文庫の解説に、こんな一節があります。

本書は、発表から十五年(2003年時点) が経っている。寡聞にして詳しく指摘することはできないが、作中に登場する心理学や大脳生理学の情報も、加速度的に進む医学研究の成果から見ると、既に古くなっている可能性も否定できない。それなのに作品を読むと、とても十五年も前に書かれた作品とは思えないほどにフレッシュなのだ。それは作中に横溢する脳と心理に関する情報を、単に興味深い話題として提示するのではなく、すべてミステリーのトリックと結びつけているからにほかならない。

つまりは、この小説は - 精神科医が、主に深層心理の分析によって、猟奇的な犯罪を繰り返す殺人犯に近づいていく - というサイコ・サスペンスの先駆的作品であると同時に、今もなお読者を魅了して止まない稀有な作品であるということです。

この手の本が何より好物だというあなたには、是非にも読んで欲しい一冊です。読めば、なぜこの小説が今更に新装され、尚且つ売れているかがきっとわかるはずです。嘘だと思って読んでみてください。必ずや満足して頂けるはずです。

精神科医・南川藍子の前にあらわれた三人の男たちは、それぞれが脳に 「傷」 を持っていた。試合中、突然マスコットガールに襲いかかり、殺人未遂で起訴されたプロ野球選手。制服姿の女性ばかりを次々に惨殺していく連続殺人犯。そして、事件捜査時の負傷がもとで、大脳に障害を負った刑事。やがて、藍子のもとに黒い影が迫り始める - 。人間の脳にひそむ闇を大胆に抉り出す、傑作長編ミステリ。(集英社文庫)

この本を読んでみてください係数 85/100

さまよえる脳髄 (集英社文庫)

◆逢坂 剛
1943年東京都文京区生まれ。
中央大学法学部法律学科卒業。

作品 「カディスの赤い星」「屠殺者よグラナダに死ね」「百舌シリーズ」「岡坂伸策シリーズ」「御茶ノ水警察署シリーズ」「イベリアシリーズ」「禿鷹シリーズ」他多数

関連記事

『その日東京駅五時二十五分発』(西川美和)_書評という名の読書感想文

『その日東京駅五時二十五分発』西川 美和 新潮文庫 2015年1月1日発行 その日東京駅五時二

記事を読む

『1973年のピンボール』(村上春樹)_書評という名の読書感想文

『1973年のピンボール』村上 春樹 講談社 1980年6月20日初版   1

記事を読む

『ミーツ・ガール』(朝香式)_書評という名の読書感想文

『ミーツ・ガール』朝香 式 新潮文庫 2019年8月1日発行 ミーツ・ガール (新潮文庫)

記事を読む

『姑の遺品整理は、迷惑です』(垣谷美雨)_書評という名の読書感想文

『姑の遺品整理は、迷惑です』垣谷 美雨 双葉文庫 2022年4月17日第1刷 重くて

記事を読む

『真夜中のマーチ』(奥田英朗)_書評という名の読書感想文

『真夜中のマーチ』奥田 英朗 集英社文庫 2019年6月8日第12刷 真夜中のマーチ (集英

記事を読む

『最後の命』(中村文則)_書評という名の読書感想文

『最後の命』中村 文則 講談社文庫 2010年7月15日第一刷 最後の命 (講談社文庫) 中村文

記事を読む

『白いしるし』(西加奈子)_書評という名の読書感想文

『白いしるし』西 加奈子 新潮文庫 2013年7月1日発行 白いしるし (新潮文庫) &

記事を読む

『噂』(荻原浩)_書評という名の読書感想文

『噂』荻原 浩 新潮文庫 2018年7月10日31刷 噂 (新潮文庫) 「レインマンが出没し

記事を読む

『それを愛とは呼ばず』(桜木紫乃)_書評という名の読書感想文

『それを愛とは呼ばず』桜木 紫乃 幻冬舎文庫 2017年10月10日初版 それを愛とは呼ばず

記事を読む

『スイート・マイホーム』(神津凛子)_書評という名の読書感想文

『スイート・マイホーム』神津 凛子 講談社文庫 2021年6月15日第1刷 スイート・マイホ

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『遠巷説百物語』(京極夏彦)_書評という名の読書感想文

『遠巷説百物語』京極 夏彦 角川文庫 2023年2月25日初版発行

『最後の記憶 〈新装版〉』(望月諒子)_書評という名の読書感想文

『最後の記憶 〈新装版〉』望月 諒子 徳間文庫 2023年2月15日

『しろがねの葉』(千早茜)_書評という名の読書感想文

『しろがねの葉』千早 茜 新潮社 2023年1月25日3刷

『今夜は眠れない』(宮部みゆき)_書評という名の読書感想文

『今夜は眠れない』宮部 みゆき 角川文庫 2022年10月30日57

『プロジェクト・インソムニア』(結城真一郎)_書評という名の読書感想文

『プロジェクト・インソムニア』結城 真一郎 新潮文庫 2023年2月

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑