『BUTTER』(柚木麻子)_梶井真奈子、通称カジマナという女
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最終更新日:2024/01/08
『BUTTER』(柚木麻子), 作家別(や行), 書評(は行), 柚木麻子
『BUTTER』柚木 麻子 新潮文庫 2020年2月1日発行

木嶋佳苗事件から8年。獄中から溶け出す女の欲望が、すべてを搦め捕っていく -
男たちから次々に金を奪った末、三件の殺害容疑で逮捕された女、梶井真奈子。世間を賑わせたのは、彼女の決して若くも美しくもない容姿だった。週刊誌で働く30代の記者・里佳は、梶井への取材を重ねるうち、欲望に忠実な彼女の言動に振り回されるようになっていく。濃厚なコクと鮮烈な舌触りで著者の新境地を開く、圧倒的長編小説。(新潮社)
結婚詐欺の末、男性三人を殺したとされる容疑者・梶井真奈子、通称カジマナ。事件が発覚すると、世間は若くも美しくもない太り気味の女性がなぜそんなに男から貢がれ自信に満ちているのか、男は興味本位に、女は男受けする秘密を知りたいと熱狂した。週刊誌記者の町田里佳もそのひとりだ。新しい側面を記事にしようと直接取材を敢行する。
拘置所で面会したカジマナの食に対するこだわりやとびきりの自信を作り上げた家族や成長環境に接するうちに、里佳は、ある時は解放され、ある時は束縛されて変貌していく。その変化は彼女の友人や恋人、家族をも巻き込み、生活は一変した。
女性の心の奥底に宿る悪意や闇を描く作家が着想を得た木嶋佳苗事件。だがキジカナとカジマナは全くの別人だ。
木嶋佳苗の自伝的小説 『礼讃』 を読んだとき、彼女の異常なまでの研究熱心さに驚愕したことを覚えている。食だけでなく文化や歴史、経済などを貪欲に学ぶ真面目さを違う方面で生かしていたら、きちんと成功を収めていたかもしれない。
『BUTTER』 はその真面目さの一つの断面を小説として広げ創り上げていった。柚木麻子の手腕は見事だ。ねっとりとした本の紙の質が食べ物の描写のくどさを倍増させる。これは紙の本でなくては出会えない感触だった。
この本に出てくる女たちと自分は違うと読み終わった後、スーパーマーケットでカルピスバターを手に取っていた。物語に絡め取られていたのかもしれない。(あずまえりか/週刊文春 2017年6月15日号からの抜粋)
※「この本の主人公は、木嶋佳苗ではありません。私は、柚木を知りませんが、柚木も私を知りません」 とは、『BUTTER』 を読んだ木嶋佳苗本人のコメントです。おそらく、それはその通りなのでしょう。梶井真奈子は、モデルとなった木嶋佳苗の何倍も気持ち悪く書いてあります。
バター、バターで胸焼けするかもしれません。最後の七面鳥は圧巻でした。「読みながら、震えが止まらなかった。規格外の傑作だった」 - かどうかはわかりません。
この本を読んでみてください係数 85/100

◆柚木 麻子
1981年東京都世田谷区生まれ。
立教大学文学部フランス文学科卒業。
作品 「終点のあの子」「本屋さんのダイアナ」「ランチのアッコちゃん」「伊藤くんA to E」「ナイルパーチの女子会」「その手をにぎりたい」他多数
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