『ぼくとおれ』(朝倉かすみ)_たったひとつの選択が人生を変える。ってかあ!?
公開日:
:
最終更新日:2020/04/10
『ぼくとおれ』(朝倉かすみ), 作家別(あ行), 書評(は行), 朝倉かすみ
『ぼくとおれ』朝倉 かすみ 実業之日本社文庫 2020年2月15日初版
1972年9月28日。北海道の同じ病院で生まれた 「ぼく」 蒲生栄人と 「おれ」 仁村拓郎。ふたりは毎日 〈スイッチ〉 を押し、ちいさな選択を繰り返して、進学、恋愛、就職、結婚と、人生の地図を描いてきたが・・・・・・・。40歳の男ふたりが辿った交わりそうで交わらない (!?) 道筋を、昭和から平成へ移りゆく世相と絡め、巧みな筆致で紡ぎ出す。山本周五郎賞作家の珠玉作。(『地図とスイッチ』 改題) 解説/大森 望 (実業之日本社文庫)
札幌市の同じ病院で同じ日に生まれた栄人と拓郎は、幼い頃に一度だけ (たがいにそうとは知らずに) 再会し、その後は (たがいにそうとは知らずに) 地図上で微妙に近づいたり離れたりしながら人生を歩んでいくことになる。
“ぼく” = 栄人の父親は東京都庁に勤務する公務員。専業主婦の母親は、札幌の病院経営者の娘。そのため、里帰りして栄人を出産する。産後、同じ病室で (しかも、となりのベッドで)再会したのが、小・中学校時代の同級生 - それが、拓郎の母親だった。
その拓郎の父親は、札幌の小さな煮豆製造会社に勤務するサラリーマン。母親は高校中退後、同じ会社の工場でパートタイム労働者として働いていたときに彼と知り合って結婚した。
家庭環境のまったく違う二人が、その後の人生をそれぞれどんなふうに生きたか。人生のどこまでが生まれ落ちた境遇や社会状況によって決まり、どこまでがみずからの選択によってつくられるのか。“1972年生まれ” たちは、いったいどんな時代を経験したのか。(解説より)
- とまあ、こんな話であるわけです。
何気に読み終えたのですが・・・・・・・ちょっと待てよ、と考えました。これって、わざわざ言い立てるほどのことなんだろうかと。
同じ病院で同じ日に生まれ、母親同士がかつての同級生だったというのは、確かに奇遇ではあります。が、おそらく言いたいのはそこではありません。それよりは、同じ時代に生まれたものの、栄人と拓郎の家庭環境がまるで違うということ。そのことが二人のその後の人生にどんな影響を及ぼしたのか。それを言わんが為の、いわば方便に過ぎません。
本当に言いたかったのは - 人生の 「どこからが」 みずからの選択によってつくられるのか - その境目こそを示したかったのだろうと。
目論見が目論見通りであるかどうかはぜひご自身で確かめてください。残念ながら、私はイマイチ納得できずにいます。栄人と拓郎、二人のどちらにも肩入れ出来ないような。結局それは “出自” のせいであるような。そんな気がしてなりません。
この本を読んでみてください係数 80/100
◆朝倉 かすみ
1960年北海道小樽市生まれ。
北海道武蔵女子短期大学教養学科卒業。
作品 「肝、焼ける」「田村はまだか」「夏目家順路」「玩具の言い分」「ロコモーション」「恋に焦がれて吉田の上京」「たそがれどきに見つけたもの」「満潮」「平場の月」他多数
関連記事
-
-
『間宵の母』(歌野晶午)_書評という名の読書感想文
『間宵の母』歌野 晶午 双葉文庫 2022年9月11日第1刷発行 恐怖のあまり笑いが
-
-
『田舎でロックンロール』(奥田英朗)_書評という名の読書感想文
『田舎でロックンロール』奥田 英朗 角川書店 2014年10月30日初版 田舎でロックンロール
-
-
『罪の余白』(芦沢央)_書評という名の読書感想文
『罪の余白』芦沢 央 角川文庫 2015年4月25日初版 罪の余白 (角川文庫) どうしよう
-
-
『僕のなかの壊れていない部分』(白石一文)_僕には母と呼べる人がいたのだろうか。
『僕のなかの壊れていない部分』白石 一文 文春文庫 2019年11月10日第1刷 僕のなかの
-
-
『名前も呼べない』(伊藤朱里)_書評という名の読書感想文
『名前も呼べない』伊藤 朱里 ちくま文庫 2022年9月10日第1刷 「アンタ本当に
-
-
『薬指の標本』(小川洋子)_書評という名の読書感想文
『薬指の標本』小川 洋子 新潮文庫 2021年11月10日31刷 薬指の標本(新潮文庫)
-
-
『かか』(宇佐見りん)_書評という名の読書感想文
『かか』宇佐見 りん 河出書房新社 2019年11月30日初版 かか 19歳の浪人生う
-
-
『ボクたちはみんな大人になれなかった』(燃え殻)_書評という名の読書感想文
『ボクたちはみんな大人になれなかった』燃え殻 新潮文庫 2018年12月1日発行 ボクたちは
-
-
『variety[ヴァラエティ]』(奥田英朗)_書評という名の読書感想文
『variety[ヴァラエティ]』奥田 英朗 講談社 2016年9月20日第一刷 ヴァラエティ
-
-
『犯人は僕だけが知っている』(松村涼哉)_書評という名の読書感想文
『犯人は僕だけが知っている』松村 涼哉 メディアワークス文庫 2021年12月25日初版