『幸せのプチ』(朱川湊人)_この人の本をたまに読みたくなるのはなぜなんだろう。
公開日:
:
最終更新日:2024/01/08
『幸せのプチ』(朱川湊人), 作家別(さ行), 書評(さ行), 朱川湊人
『幸せのプチ』朱川 湊人 文春文庫 2020年4月10日第1刷
夜中になると町を歩き回るという、銀色の仮面をつけた男。
不気味な男の正体を探る少年に、中年の警官は言った。
「あの人は悪いことはしないから安心していい。いつか君にもわかるときがくる」-都電が走るこの下町には、どこか不思議で、ささやかな奇跡が起きる。
ほっぺが落ちる 「ほそ長いコロッケパン」 に、みかければラッキーな 「白い野良犬」、迷路のような道路の先にそびえる銭湯の高い煙突、赤い公衆電話。キミはもしかして、大切な人を亡くした経験があるのかい?
その町に出かければ、若い自分が残してきた苦い記憶、生きている限り忘れないあの光景に出会えるのだろうか。町の名前は、琥珀 (こはく)-
1970&1980年代の懐かしいアイテム、思い出を背景に繰り広げられる、ひとりひとりの切実な人生模様。文庫化で大幅に修正加筆! 涙腺決壊、追憶切実な連作集。(文藝春秋BOOKSより)
[目次]
第1話 追憶のカスタネット通り
第2話 幸せのプチ
第3話 タマゴ小町とコロッケ・ジェーン
第4話 オリオン座の怪人
第5話 夜に旅立つ
昭和40年代から50年代くらいにかけての東京の下町の話。当時の空気が色濃く漂うノスタルジックな物語は、特別なものは何ひとつ出てはきません。すべては出会いと別れで、それはいつの時代のどんな町であってもあるような見慣れた光景でしょう。
時に、不思議なことが起こります。しかし、思い起こしてみれば、それとよく似た経験をかつて自分もしたような、わかってみれば何でもないような、そんなことに怖気づいたり感動したりであったような気がします。大抵は、大したことではありません。
町の名前は 「琥珀」 といいます。時代の、そして町の “匂い” を感じてください。たぶん、若い人にはわからない。50歳を挟んで前後の人ならきっと伝わるはずです。
この本を読んでみてください係数 80/100
◆朱川 湊人
1963年大阪府生まれ。
慶応義塾大学文学部卒業。
作品 「白い部屋で月の歌を」「都市伝説セピア」「花まんま」「さよならの空」「かたみ歌」「わくらば日記」「月蝕楽園」「冥の水底」他多数
関連記事
-
『小説 シライサン』(乙一)_目隠村の死者は甦る
『小説 シライサン』乙一 角川文庫 2019年11月25日初版 乙一 4年ぶりの最
-
『草にすわる』(白石一文)_書評という名の読書感想文
『草にすわる』白石 一文 文春文庫 2021年1月10日第1刷 一度倒れた人間が、
-
『切願 自選ミステリー短編集』(長岡弘樹)_書評という名の読書感想文
『切願 自選ミステリー短編集』長岡 弘樹 双葉文庫 2023年3月18日第1刷発行
-
『背中の蜘蛛』(誉田哲也)_第162回 直木賞候補作
『背中の蜘蛛』誉田 哲也 双葉社 2019年10月20日第1刷 池袋署刑事課の課長
-
『しゃべれども しゃべれども』(佐藤多佳子)_書評という名の読書感想文
『しゃべれども しゃべれども』佐藤 多佳子 新潮文庫 2012年6月10日27刷 俺は今昔亭三つ葉
-
『カレーライス』(重松清)_教室で出会った重松清
『カレーライス』重松 清 新潮文庫 2020年7月1日発行 「おとなになっても忘れ
-
『携帯の無い青春』(酒井順子)_書評という名の読書感想文
『携帯の無い青春』酒井 順子 幻冬舎文庫 2011年6月10日初版 黒電話の前で、「彼」からの電話
-
『少年と犬』(馳星周)_書評という名の読書感想文
『少年と犬』馳 星周 文藝春秋 2020年7月25日第4刷 傷つき、悩み、惑う人び
-
『しろいろの街の、その骨の体温の』(村田沙耶香)_書評という名の読書感想文
『しろいろの街の、その骨の体温の』村田 沙耶香 朝日文庫 2015年7月30日第一刷 クラスでは目
-
『殺戮にいたる病』(我孫子武丸)_書評という名の読書感想文
『殺戮にいたる病』我孫子 武丸 講談社文庫 2013年10月13日第一刷 東京の繁華街で次々と猟奇