『破局』(遠野遥)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/08 『破局』(遠野遥), 作家別(た行), 書評(は行), 遠野遥

『破局』遠野 遥 河出書房新社 2020年7月30日初版

第163回芥川賞受賞作

私を阻むものは、私自身にほかならない。

ラグビー、筋トレ、恋とセックス - ふたりの女を行き来するいびつなキャンパスライフ。28歳の鬼才が放つ、新時代の虚無。(河出書房新社)

ゾンビになったと思えば、痛みも悲しみも感じない。

仰向けになり、胸の上で両手の指をしっかりと組み合わせ、交通事故で死ぬ人間がいなくなればいいと思った。働きすぎで精神や体を壊す人間がいなくなればいいと思った。誰も認知症で子供の顔や名前を忘れたりしなくなればいいと思った。すべての受験生がこの春から望んだ学校に通えていればいいと思った。何かの夢に向けて努力している人間がいるなら、その夢が今日にでもまとめて叶えばいい。しかし祈った後で気づいたが、私は神を信じていない。私の願いなど、誰も聞いてはくれないだろう。 (本文より)

(芥川賞) らしいものを読まされた - そんな感じがします。あたり前のことが、あたり前のように書いてあるのに、とてもあたり前には思えません。

書いてある “あたり前” に感じる言い様のない違和感 - それはもう不快感といっていいでしょう - の正体とは一体何なのでしょう? 素直に受け入れられないのには、どんな訳があるのでしょう。

主人公が取る態度やする行動が、あるいはそのときどきの思考のあり方が、あまりにストレートなために、かえって腑に落ちません。もしも全部がわざとでないとしたら、その一々を、どう受け止めればよいのでしょう。どう感じろと? 

ところが、(選考委員各位がおっしゃるには) その一々が、

“新しく” 、”現代的” であるらしい。(受賞作ですから当然ですが) 評価は概ね高評価で、なにより “おもしろかった” - らしい。

どこがおもしろかったのか? もったいぶらずに、教えてもらいたい。何気に 「ここがいい」 「ここがおもしろかった」 と言えば、事と次第によっては思いっきりバカにされそうな - そんな気がしてなりません。

(代わりと言っては何ですが) 選考委員の一人であるこの人の評価はといいますと、

主人公は嫌味な男だ。にもかかわらず、見捨てることができない。社会に対して彼が味わっている違和感に、いつの間にか共感している。もしかしたら、恐ろしいほどに普遍的な小説なのかもしれない。(小川洋子)

何とも意味深な。意外とフレンドリーな。失礼ながら 「買いかぶりに過ぎないのではないですか」 と、尋ねてみたくなるような。

せいぜい私にわかるのは、彼 (主人公) が実際に目の前にいたとしたら、その言動の一々を目の当たりにしたとするなら、おそらくは、本で読むより何倍も嫌な男に思うに違いない、ということです。彼から漂うものを、本当に “虚無” と呼んでよいのでしょうか。

私は、違うと思います。

この本を読んでみてください係数 70/100

◆遠野 遥
1991年神奈川県生まれ。東京都在住。
慶応義塾大学法学部卒業。

作品 2019年、『改良』 で第56回文藝賞を受賞しデビュー。

関連記事

『廃墟の白墨』(遠田潤子)_書評という名の読書感想文

『廃墟の白墨』遠田 潤子 光文社文庫 2022年3月20日初版 今夜 「王国」 に

記事を読む

『夜蜘蛛』(田中慎弥)_書評という名の読書感想文

『夜蜘蛛』田中 慎弥 文春文庫 2015年4月15日第一刷 芥川賞を受賞した『共喰い』に続く作品

記事を読む

『鍵のない夢を見る』(辻村深月)_書評という名の読書感想文

『鍵のない夢を見る』辻村 深月 文春文庫 2015年7月10日第一刷 誰もが顔見知りの小さな町

記事を読む

『フェルメールの憂鬱 大絵画展』(望月諒子)_書評という名の読書感想文

『フェルメールの憂鬱 大絵画展』望月 諒子 光文社文庫 2018年11月20日初版1刷

記事を読む

『日曜日の人々/サンデー・ピープル』(高橋弘希)_書評という名の読書感想文

『日曜日の人々/サンデー・ピープル』高橋 弘希 講談社文庫 2019年10月16日第1刷

記事を読む

『正しい女たち』(千早茜)_書評という名の読書感想文

『正しい女たち』千早 茜 文春文庫 2021年5月10日第1刷 どんなに揉めても、

記事を読む

『指の骨』(高橋弘希)_書評という名の読書感想文

『指の骨』高橋 弘希 新潮文庫 2017年8月1日発行 太平洋戦争中、激戦地となった南洋の島で、野

記事を読む

『しろがねの葉』(千早茜)_書評という名の読書感想文

『しろがねの葉』千早 茜 新潮社 2023年1月25日3刷 男たちは命を賭して穴を

記事を読む

『地を這う虫』(高村薫)_書評という名の読書感想文

『地を這う虫』高村 薫 文春文庫 1999年5月10日第一刷 高村薫と言えば硬質で緻密な文章で知

記事を読む

『はるか/HAL – CA』(宿野かほる)_書評という名の読書感想文

『はるか/HAL - CA』宿野 かほる 新潮文庫 2021年10月1日発行 「再

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『友が、消えた』(金城一紀)_書評という名の読書感想文

『友が、消えた』金城 一紀 角川書店 2024年12月16日 初版発

『連続殺人鬼カエル男 完結編』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『連続殺人鬼カエル男 完結編』中山 七里 宝島社 2024年11月

『雪の花』(吉村昭)_書評という名の読書感想文

『雪の花』吉村 昭 新潮文庫 2024年12月10日 28刷

『歌舞伎町ゲノム 〈ジウ〉サーガ9 』(誉田哲也)_書評という名の読書感想文

『歌舞伎町ゲノム 〈ジウ〉サーガ9 』誉田 哲也 中公文庫 2021

『ノワール 硝子の太陽 〈ジウ〉サーガ8 』(誉田哲也)_書評という名の読書感想文

『ノワール 硝子の太陽 〈ジウ〉サーガ8 』誉田 哲也 中公文庫 2

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑