『理系。』(川村元気)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/08 『理系。』(川村元気), 作家別(か行), 川村元気, 書評(ら行)

『理系。』川村 元気 文春文庫 2020年9月10日第1刷

いかに理系の知恵文系の物語をもって適切に使い、難局を乗り越えるか。危機の先にある、大きなチャンスをどうやってものにするのか。稀代の映画プロデューサーであり、ベストセラー作家である川村元気が、最先端を走る理系人15人と対話し、その目が映す未来に迫る。これから世界と人間は、どう変わるのか? 全国民必読本。(文春文庫)

如何にも堅苦しくて小難しいビジネス本のような説明に、どうか二の足を踏まないでください。

案外楽しく読めます。誰でもよく知るあのことが、実はこんな人の仕業だったのかと。LINEや人型ロボットや宇宙について。あの有名だったテレビCMやピタゴラスイッチについて。(あなたが知らない人の) 知らないことが、山ほど書いてあります。

東京藝術大学大学院映像研究科教授 佐藤雅彦先生の話

『バザールでござーる』 のネーミングはどう生まれた?

佐藤 昔、ニューヨークへロケに行ったとき、僕はお酒を飲まないので誘われても断ってばかりなんですけど、「佐藤さん、今日行くところはすごく素敵なナイトクラブで、有名なミュージシャンを輩出したところなんですよ」 と言われて、「なんて店ですか」 と聞いたら、「CBGBってところだ」 って言うんです。そのとき、CBGBというネーミングにしびれてしまいました。
川村 音感がいいですよね。
佐藤 そうです。なぜいいかというと、CBGBって 「AB A´B´」 という構造をしているんです。例えば 『ぐりとぐら』 とか 『キットカット』 も、CBGBの形をしている。それで、「次にネーミングかキャッチコピーを作るときは、AB A´B´でいこう」 と思っていて、そこから生まれたのが 『バザールでござーる』 です。

川村 ものすごく理系っぽい考え方ですね (笑)。
佐藤 いきなり 『バザールでござーる』 にはなかなかいけないけど、そういう方法論を踏み台にすればジャンプができる。しかもいったん飛んでしまうと、後から振り返って橋を架けることもできるし、そうするとどんどん飛びやすくなる。
川村 方法論があるから、量産体制も取れるんでしょうね。
佐藤 はい。常に自分が作ったものを要素還元して量産体制に入っていました。自己模倣ですね。そうすると、サントリーが来てもトヨタが来ても、いつも80点以上を出せる。いずれにしても、広告というのは基本として 「広く告げる」 ということなので、なるべく多くの人に伝わる方法論を探すことを、怠っちゃいけないと思いますね。(本文より抜粋)

ま、こんなわかりやすい話ばかりではないのですが。ちなみに佐藤先生の略歴はといいますと、先生は、

1954年静岡県生まれ。東京大学教育学部卒業後、電通に入社。CMプランナーとして湖池屋 『ポリンキー』、NEC 『バザールでござーる』 をはじめ多数のヒットCMを手がける。94年に電通退社後、企画事務所TOPICSを設立。99年より慶應義塾大学環境情報学部教授、2006年より現職。主な仕事にプレイステーション・ソフト 『I・Q』、NHK Eテレの 『ピタゴラスイッチ』 『0655/2355』 『考えるカラス~科学の考え方~』 の企画・監修ほか。著書に 『考えの整頓』(暮らしの手帖社)、『経済ってそういうことだったのか会議』(共著/日本経済新聞社) ほか。芸術選奨 (11年)、紫綬褒章 (13年) をはじめ、受賞歴も多数。

という、素人目から見ると 「理系と文系、両刀使いの達人」 のような人物です。他に、「ニコニコ動画」 の生みの親である川上量生氏であるとか、ミドリムシで有名なユーグレナの出雲充氏、ロボットクリエイターの高橋智隆氏、LINEの舛田淳氏、JAXA宇宙飛行士の若田光一氏など、錚々たる顔ぶれが並んでいます。

この本を読んでみてください係数 85/100

◆川村 元気
1979年横浜生まれ。
上智大学文学部新聞学科卒業。小説家の他に、映画プロデューサー、絵本作家。

作品 映画「電車男」「告白」「悪人」「モテキ」「君の名は。」「怒り」等を制作。著作「世界から猫が消えたなら」「四月になれば彼女は」「仕事。」「億男」「百花」絵本「ティニーふうせんいぬのものがたり」「ムーム」等

関連記事

『輪 RINKAI 廻』(明野照葉)_書評という名の読書感想文

『輪 RINKAI 廻』明野 照葉 文春文庫 2003年11月10日第1刷 茨城の

記事を読む

『ぼくの死体をよろしくたのむ』(川上弘美)_書評という名の読書感想文

『ぼくの死体をよろしくたのむ』川上 弘美 新潮文庫 2022年9月1日発行 うしろ

記事を読む

『それもまたちいさな光』(角田光代)_書評という名の読書感想文

『それもまたちいさな光』角田 光代 文春文庫 2012年5月10日第一刷 【主人公である悠木

記事を読む

『やめるときも、すこやかなるときも』(窪美澄)_書評という名の読書感想文

『やめるときも、すこやかなるときも』窪 美澄 集英社文庫 2019年11月25日第1刷

記事を読む

『蓬萊』(今野敏)_書評という名の読書感想文

『蓬萊』今野 敏 講談社文庫 2016年8月10日第一刷 この中に「日本」が封印されている - 。

記事を読む

『絵が殺した』(黒川博行)_書評という名の読書感想文

『絵が殺した』黒川 博行 創元推理文庫 2004年9月30日初版 富田林市佐備の竹林。竹の子採り

記事を読む

『国境』(黒川博行)_書評という名の読書感想文(その1)

『国境』(その1)黒川 博行 講談社 2001年10月30日第一刷 建設コンサルタントの二宮と暴

記事を読む

『万引き家族』(是枝裕和)_書評という名の読書感想文

『万引き家族』是枝 裕和 宝島社 2018年6月11日第一刷 「犯罪」 でしか つな

記事を読む

『殺人依存症』(櫛木理宇)_書評という名の読書感想文

『殺人依存症』櫛木 理宇 幻冬舎文庫 2020年10月10日初版 息子を六年前に亡

記事を読む

『福袋』(角田光代)_書評という名の読書感想文

『福袋』角田 光代 河出文庫 2010年12月20日初版 私たちはだれも、中身のわ

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『セルフィの死』(本谷有希子)_書評という名の読書感想文

『セルフィの死』本谷 有希子 新潮社 2024年12月20日 発行

『鑑定人 氏家京太郎』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『鑑定人 氏家京太郎』中山 七里 宝島社 2025年2月15日 第1

『教誨師』 (堀川惠子)_書評という名の読書感想文

『教誨師』 堀川 惠子 講談社文庫 2025年2月10日 第8刷発行

『死神の精度』(伊坂幸太郎)_書評という名の読書感想文

『死神の精度』伊坂 幸太郎 文春文庫 2025年2月10日 新装版第

『それでも日々はつづくから』(燃え殻)_書評という名の読書感想文

『それでも日々はつづくから』燃え殻 新潮文庫 2025年2月1日 発

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑