『夫の骨』(矢樹純)_書評という名の読書感想文
公開日:
:
最終更新日:2024/01/08
『夫の骨』(矢樹純), 作家別(や行), 書評(あ行), 矢樹純
『夫の骨』矢樹 純 祥伝社文庫 2019年4月20日初版

昨年、夫の孝之が事故死した。まるで二年前に他界した義母佳子の魂の緒に搦め捕られたように。血縁のない母を 「佳子さん」 と呼び、他人行儀な態度を崩さなかった夫。その遺品を整理するうち、私は小さな桐箱の中に乳児の骨を見つける。夫の死は本当に事故だったのか、その骨は誰の子のものなのか。猜疑心に囚われた私は・・・・・・・ (「夫の骨」)。家族の “軋み” を鋭く捉えた九編。(祥伝社文庫)
●夫は突然逝ってしまった。物置に正体不明の “骨” を遺して・・・・・(表題作 「夫の骨」 第73回日本推理作家協会賞 〈短編部門〉 受賞作)
●恋人すら奪う姉が許せない・・・・・幸せのため絶対に守りたい “大切な人” (「朽ちない花」)
●厚顔な娘に知られてはならない・・・・・可愛い孫に送金する祖母の “献身” (「柔らかな背」)
●妹に劣等感を持つ姉には、隠し続ける秘密が・・・・・その “歪な関係” (「ひずんだ鏡」)
●中学受験に挑む娘と、支える母。”最後の一行” (P172) に秘めた想い (「絵馬の赦し」)
●隣家の犬小屋に閉じ込められた女性が気付いた “遠吠えの理由” (「虚ろの檻」)
●亡父の四十九日の夜、なぜか屋根に上った母が “探していたもの” (「鼠の家」)
●離婚した父と引きこもりだった娘。二人がダムに “捨てたかったもの” (「ダムの底」)
●死んでもらわないと・・・・・ふがいない夫に堪えかねた妻の “殺人計画” (「かけがえのないあなた」)
以上の、すべてがどんでん返し。9つの家族が抱える、9つの “秘密“ が描かれています。
(帯に) 決して覗いてはいけない 「家族の秘密」 想像を超える結末、お約束します。 とあります。
若干解せない箇所があるにはありますが、全体としてはよく出来た作品で、この程度のおぞましさ、辛辣さの加減が私は好きです。受賞作だからというわけではありませんが、やはり冒頭の作品 「夫の骨」 がピカ一だと思います。この人が書いた他の作品を、もっと読みたいと思いました。
この本を読んでみてください係数 85/100

◆矢樹 純
1976年青森県青森市生まれ。
弘前大学人文学科卒業。
作品 「Sのための覚え書き かごめ荘連続殺人事件」「がらくた少女と人喰い煙突」漫画原作に 「あいの結婚相談所」「バカレイドッグス」等
関連記事
-
-
『緋い猫』(浦賀和宏)_書評という名の読書感想文
『緋い猫』浦賀 和宏 祥伝社文庫 2016年10月20日初版 17歳の洋子は佐久間という工員の青年
-
-
『ノースライト』(横山秀夫)_書評という名の読書感想文
『ノースライト』横山 秀夫 新潮社 2019年2月28日発行 一家はどこへ消えたの
-
-
『ナイルパーチの女子会』(柚木麻子)_書評という名の読書感想文
『ナイルパーチの女子会』柚木 麻子 文春文庫 2018年2月10日第一刷 彼女の友情が私を食べ尽
-
-
『雨の中の涙のように』(遠田潤子)_書評という名の読書感想文
『雨の中の涙のように』遠田 潤子 光文社文庫 2023年8月20日初版第1刷発行
-
-
『岸辺の旅』(湯本香樹実)_書評という名の読書感想文
『岸辺の旅』湯本 香樹実 文春文庫 2012年8月10日第一刷 きみが三年の間どうしていたか、話し
-
-
『五つ数えれば三日月が』(李琴峰)_書評という名の読書感想文
『五つ数えれば三日月が』李 琴峰 文藝春秋 2019年7月30日第1刷 日本で働く
-
-
『蟻の菜園/アントガーデン』(柚月裕子)_書評という名の読書感想文
『蟻の菜園/アントガーデン』柚月 裕子 角川文庫 2019年6月25日初版 婚活サ
-
-
『夫のちんぽが入らない』(こだま)_書評という名の読書感想文
『夫のちんぽが入らない』こだま 講談社文庫 2018年9月14日第一刷 "夫のちんぽが入らない"
-
-
『電球交換士の憂鬱』(吉田篤弘)_書評という名の読書感想文
『電球交換士の憂鬱』吉田 篤弘 徳間文庫 2018年8月15日初刷 十文字扉、職業 「電球交換士」
-
-
『さみしくなったら名前を呼んで』(山内マリコ)_書評という名の読書感想文
『さみしくなったら名前を呼んで』山内 マリコ 幻冬舎 2014年9月20日第一刷 いつになれば、私