『地下鉄に乗って〈新装版〉』(浅田次郎)_書評という名の読書感想文
公開日:
:
最終更新日:2024/01/07
『地下鉄に乗って〈新装版〉』(浅田次郎), 作家別(あ行), 書評(た行), 浅田次郎
『地下鉄に乗って〈新装版〉』浅田 次郎 講談社文庫 2020年10月15日第1刷
浅田次郎の原点にして名作中の名作 『地下鉄 (メトロ) に乗って』 を読みました。
永田町の地下鉄駅の階段を上がると、そこは三十年前の風景。ワンマンな父に反発し自殺した兄が現れた。さらに満州に出征する父を目撃し、また戦後闇市で精力的に商いに励む父に出会う。だが封印された “過去” に行ったため・・・・・・・。思わず涙がこぼれ落ちる感動の浅田ワールド。吉川英治文学賞新人賞に輝く名作。(「BOOK」データベースより)
幸せとは、懐かしさのなかにあるのではないか。ときおり、そう感じる。
人は、だれしも生きてきた土地と時代に無縁ではいられない。家族という血縁から逃れられないように。そのために、自分の思いどおりには生きられず、苦しみばかりを味わってきたという人は多いかもしれない。
だが、年月を経ることで、自分とかかわったさまざまな縁のかたちが、ちがった側から見えてくる。過ぎた日々は戻らない。起こった事実を受けとめるしかない。無心になって過去を振りかえると、そのときには気がつかなかった、かけがえのなさと親しみを覚えることがある。懐かしく思いはじめるのだ。
そしてまた、辛苦や悔恨の情が深く刻まれた思い出ほど、いま自分がここにいることを強く感じさせるだろう。楽しさや悲しさといったひとつの気持ちから生まれる幸福感や不幸感ではなく、もっと複雑で矛盾した 「懐かしさ」 こそ、生きている証しとなる感情といえるかもしれない。
浅田次郎 『地下鉄に乗って』 は、そんな懐かしさを感じさせる小説だ。胸が苦しくなるような切なさと、もう一度しっかり足元を踏みしめながら歩いていこうという高揚感を読み手に抱かせる物語なのである。(吉野仁/解説より)
願わくば、ある程度の年齢の方にこそ読んでほしいと思う一冊です。若い人がダメだということではありません。若い頃にはわからない - 歳をとってはじめて気付く - そんなことがままあると思うからです。
人生も半ばを過ぎた今、過去に自分がしてきた言動のあれやこれやを思うと、どれひとつを取ってみても、思い通りにできたためしがなかったことに気付きます。自分の努力を棚上げし、別の理由をでっちあげ、それで済ませてきたような・・・・・・・。
もしもこんな田舎でなかったら。人目を気にせぬくらいに、普通の暮らしであったとしたら。(私が生まれて) すぐに死んでしまった母が、もしも生きていたら。二度目の母が、もしも癲癇症でなかったとしたら。どんなにか未来は違っていただろうと。
二度目の母が死に、父が死ぬまでは、詮無い、そんなことばかりを考えていました。
この本を読んでみてください係数 85/100
◆浅田 次郎
1951年東京都中野区生まれ。
中央大学杉並高等学校卒業。
作品 「鉄道員」「壬生義士伝」「お腹召しませ」「中原の虹」「帰郷」「獅子吼」他多数
関連記事
-
『墓標なき街』(逢坂剛)_書評という名の読書感想文
『墓標なき街』逢坂 剛 集英社文庫 2018年2月25日初版 知る人ぞ知る、あの <百舌シ
-
『業苦 忌まわ昔 (弐)』(岩井志麻子)_書評という名の読書感想文
『業苦 忌まわ昔 (弐)』岩井 志麻子 角川ホラー文庫 2020年6月25日初版
-
『路地の子』上原 善広_書評という名の読書感想文
『路地の子』上原 善広 新潮社 2017年6月16日発売 金さえあれば差別なんてさ
-
『緑の我が家』(小野不由美)_書評という名の読書感想文
『緑の我が家』小野 不由美 角川文庫 2022年10月25日初版発行 物語の冒頭はこ
-
『木になった亜沙』(今村夏子)_圧倒的な疎外感を知れ。
『木になった亜沙』今村 夏子 文藝春秋 2020年4月5日第1刷 誰かに食べさせた
-
『月と蟹』(道尾秀介)_書評という名の読書感想文
『月と蟹』道尾 秀介 文春文庫 2013年7月10日第一刷 海辺の町、小学生の慎一と春也はヤド
-
『虎を追う』(櫛木理宇)_書評という名の読書感想文
『虎を追う』櫛木 理宇 光文社文庫 2022年6月20日初版1刷 「連続幼女殺人事
-
『残像』(伊岡瞬)_書評という名の読書感想文
『残像』伊岡 瞬 角川文庫 2023年9月25日 初版発行 訪れたアパートの住人は、全員 “
-
『通天閣』(西加奈子)_書評という名の読書感想文
『通天閣』西 加奈子 ちくま文庫 2009年12月10日第一刷 織田作之助賞受賞作だと聞くと
-
『チョウセンアサガオの咲く夏』(柚月裕子)_書評という名の読書感想文
『チョウセンアサガオの咲く夏』柚月 裕子 角川文庫 2024年4月25日 初版発行 美しい花