『地下鉄に乗って〈新装版〉』(浅田次郎)_書評という名の読書感想文

『地下鉄に乗って〈新装版〉』浅田 次郎 講談社文庫 2020年10月15日第1刷

浅田次郎の原点にして名作中の名作 『地下鉄 (メトロ) に乗って』 を読みました。

永田町の地下鉄駅の階段を上がると、そこは三十年前の風景。ワンマンな父に反発し自殺した兄が現れた。さらに満州に出征する父を目撃し、また戦後闇市で精力的に商いに励む父に出会う。だが封印された “過去” に行ったため・・・・・・・。思わず涙がこぼれ落ちる感動の浅田ワールド。吉川英治文学賞新人賞に輝く名作。(「BOOK」データベースより)

幸せとは、懐かしさのなかにあるのではないか。ときおり、そう感じる。
人は、だれしも生きてきた土地と時代に無縁ではいられない。家族という血縁から逃れられないように。そのために、自分の思いどおりには生きられず、苦しみばかりを味わってきたという人は多いかもしれない。

だが、年月を経ることで、自分とかかわったさまざまな縁のかたちが、ちがった側から見えてくる。過ぎた日々は戻らない。起こった事実を受けとめるしかない。無心になって過去を振りかえると、そのときには気がつかなかった、かけがえのなさと親しみを覚えることがある。懐かしく思いはじめるのだ。

そしてまた、辛苦や悔恨の情が深く刻まれた思い出ほど、いま自分がここにいることを強く感じさせるだろう。楽しさや悲しさといったひとつの気持ちから生まれる幸福感や不幸感ではなく、もっと複雑で矛盾した 懐かしさ こそ、生きている証しとなる感情といえるかもしれない。

浅田次郎地下鉄に乗っては、そんな懐かしさを感じさせる小説だ。胸が苦しくなるような切なさと、もう一度しっかり足元を踏みしめながら歩いていこうという高揚感を読み手に抱かせる物語なのである。(吉野仁/解説より)

願わくば、ある程度の年齢の方にこそ読んでほしいと思う一冊です。若い人がダメだということではありません。若い頃にはわからない - 歳をとってはじめて気付く - そんなことがままあると思うからです。

人生も半ばを過ぎた今、過去に自分がしてきた言動のあれやこれやを思うと、どれひとつを取ってみても、思い通りにできたためしがなかったことに気付きます。自分の努力を棚上げし、別の理由をでっちあげ、それで済ませてきたような・・・・・・・。

もしもこんな田舎でなかったら。人目を気にせぬくらいに、普通の暮らしであったとしたら。(私が生まれて) すぐに死んでしまった母が、もしも生きていたら。二度目の母が、もしも癲癇症でなかったとしたら。どんなにか未来は違っていただろうと。

二度目の母が死に、父が死ぬまでは、詮無い、そんなことばかりを考えていました。

この本を読んでみてください係数 85/100

◆浅田 次郎
1951年東京都中野区生まれ。
中央大学杉並高等学校卒業。

作品 「鉄道員」「壬生義士伝」「お腹召しませ」「中原の虹」「帰郷」「獅子吼」他多数

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