『放課後の音符(キイノート)』(山田詠美)_書評という名の読書感想文

『放課後の音符(キイノート)』山田 詠美 新潮文庫 1995年3月1日第一刷

【大人でも子供でもない、どっちつかずのもどかしい時間。まだ、恋の匂いにも揺れる17歳の日々-。背伸びした恋。心の中で発酵してきた甘い感情。片思いのまま終わってしまった憧れ。好きな人のいない放課後なんてつまらない。授業が終わった放課後、17歳の感性がさまざまな音符となり、私たちだけにパステル調の旋律を奏でてくれる・・・。女子高生の心象を繊細に綴る8編の恋愛小説。】(「BOOK」データベースより)

この人が書く、「少年少女もの」が好きです。小説『僕は勉強ができない』の中で、山田詠美はこんなことを言っています。

「大人になるとは、進歩することよりも、むしろ進歩させるべきでない領域を知ることだ」

つまり〈人には決して進歩しない領域〉があるけれど、もしかするとそれは〈進歩しなくてもいい領域〉かも知れないので注意しなさいよ、ということです。

17歳とは、それほどに微妙な年齢です。とりわけ、女子の心は不可解な代物です。男の私には測り知れないことですが、彼女たちはときに背伸びをしたり、わざと素っ気ない風を装ったりして、精一杯大人の女に見えるための努力をしているのでしょう。

高校生になった途端に急に色っぽくなって、いきなり女全開状態になってる中学の頃の同級生に出会ったときの驚きといったらないですよね。男なら一度は経験していると思いますが、たかが17歳の小娘、いや失礼、高校生と言えども一筋縄ではいかないのです。

何分硬派だった私は、周りの女子が何を話していたかなんて憶えてもいませんし、彼女たちが何を考え、何を感じていたのか知るはずもありません。たとえ知りたくても、ホイホイ近づいて軽口を叩く勇気も、自信もなかったのですが。

だから、分からないのです。彼女たちのややこしい恋愛事情など、私には解きほぐす糸口さえ見つかりません。
・・・・・・・・・・
「17歳なんて、まるで子供だもの。目に見えないものに惹かれる程、余分なものに飢えてはいない」と言う一方で、ディスコで言い寄ってくる男子に対しては、

「こんな子たちと寝たって、甘い音楽の流れるようなベッドの時間なんて、訪れる筈がないのだ。シーツのしわが、そのまま五線紙になって、それを柔く蹴とばす足元が、やさしい調べを奏でるような、そんな時間など、決して持てる筈がない」と言い放ちます。

彼女たちは、したたかです。少なくとも、同じ年頃の男子には到底敵わない。自分を飾る小物であったり、男を振り向かせる甘い香水であったり、髪の長さや色の濃淡、スカート丈や胸元のボタンの開け閉めにさえ、並々ならぬ工夫と創意を払っています。

意中の男子には、自分の仕草がどんな風に映っているのか。彼を虜にして、欲情させ得るだけの女としての魅力が自分にはあるのか、ないのか。彼は、私と寝たいのか・・・。

彼女たちは、大人が思っているよりも、はるかに色々なことを考えています。

この本を読んでみてください係数  85/100


◆山田 詠美
1959年東京都板橋区生まれ。
明治大学日本文学科中退。

作品 「ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー」「僕は勉強ができない」「風葬の教室」「ジェントルマン」「ベッドタイムアイズ」「A2Z」「風味絶佳」「学問」「放課後の音符」「熱血ポンちゃんシリーズ」他多数

◇ブログランキング

いつも応援クリックありがとうございます。
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ

関連記事

『色彩の息子』(山田詠美)_書評という名の読書感想文

『色彩の息子』山田 詠美 集英社文庫 2014年11月25日初版 唐突ですが、例えば、ほとん

記事を読む

『Blue/ブルー』(葉真中顕)_書評という名の読書感想文

『Blue/ブルー』葉真中 顕 光文社文庫 2022年2月20日初版1刷 ※本作は書

記事を読む

『白磁の薔薇』(あさのあつこ)_書評という名の読書感想文

『白磁の薔薇』あさの あつこ 角川文庫 2021年2月25日初版 富裕層の入居者に

記事を読む

『ブラックライダー』(東山彰良)_書評という名の読書感想文_その2

『ブラックライダー』(その2)東山 彰良 新潮文庫 2015年11月1日発行 書評は二部構成

記事を読む

『ビタミンF』(重松清)_書評という名の読書感想文

『ビタミンF』重松 清 新潮社 2000年8月20日発行 炭水化物やタンパク質やカルシウムのよ

記事を読む

『ブラフマンの埋葬』(小川洋子)_書評という名の読書感想文

『ブラフマンの埋葬』小川 洋子 講談社文庫 2017年10月16日第8刷 読めば読

記事を読む

『僕はロボットごしの君に恋をする』(山田悠介)_幾つであろうと仕方ない。切ないものは切ない。

『僕はロボットごしの君に恋をする』山田 悠介 河出文庫 2020年4月30日初版

記事を読む

『電球交換士の憂鬱』(吉田篤弘)_書評という名の読書感想文

『電球交換士の憂鬱』吉田 篤弘 徳間文庫 2018年8月15日初刷 十文字扉、職業 「電球交換士」

記事を読む

『ハンチバック』(市川沙央)_書評という名の読書感想文

『ハンチバック』市川 沙央 文藝春秋 2023年7月25日第5刷発行 【第169回

記事を読む

『けむたい後輩』(柚木麻子)_書評という名の読書感想文

『けむたい後輩』柚木 麻子 幻冬舎文庫 2014年12月5日初版 14歳で作家デビューした過去

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『アイドルだった君へ』(小林早代子)_書評という名の読書感想文

『アイドルだった君へ』小林 早代子 新潮文庫 2025年3月1日 発

『現代生活独習ノート』(津村記久子)_書評という名の読書感想文

『現代生活独習ノート』津村 記久子 講談社文庫 2025年5月15日

『受け手のいない祈り』(朝比奈秋)_書評という名の読書感想文

『受け手のいない祈り』朝比奈 秋 新潮社 2025年3月25日 発行

『蛇行する月 』(桜木紫乃)_書評という名の読書感想文

『蛇行する月 』桜木 紫乃 双葉文庫 2025年1月27日 第7刷発

『でっちあげ/福岡 「殺人教師」 事件の真相 』(福田ますみ)_書評という名の読書感想文

『でっちあげ/福岡 「殺人教師」 事件の真相 』福田 ますみ 新潮文

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑