『あおい』(西加奈子)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2015/06/29 『あおい』(西加奈子), 作家別(な行), 書評(あ行), 西加奈子

『あおい』西 加奈子 小学館文庫 2007年6月11日初版


あおい (小学館文庫)

 

西加奈子のデビュー作です。「あおい」「サムのこと」「空心町深夜2時」の3編が収められています。

知名度から言えば圧倒的に「あおい」なんでしょうが、なんだか期待しすぎて、イマイチ乗り切れないまま読み終わってしまいました。この人の大阪弁は好きだし、上手いなぁと思うところは一杯あって感心したけれど、心は動かない。

一番引っかかったのは、語り手の〈あたし〉にレイプ経験があること。さらに〈あたし〉が友だちになったみいちゃんも小学生の頃にいたずら目的の誘拐未遂事件に遭遇しており、自分のことを「僕」と言い、「性同一性障害になろうとしている人」だという設定。

著者からすれば、この前提なくして「あおい」という物語はあり得ないのかも知れません。
しかし、読み手からするとこの種の話はかなり〈ありきたり〉で、よほどの覚悟の上で書かれていないと逆に読む気を削いでしまうことになり兼ねません。

上手く言えませんが、悲劇の安売りみたいに思えてよろしくない。そんな〈余分な〉伏線は不要で、〈あたし〉とダメ学生・カザマ君が恋をして、妊娠してさぁどうするの、ということだけを淡々と書いてほしかった、という感じでしょうか。
・・・・・・・・・・
2つの中編にちょこっと添えられたような、10ページほどの掌編「空心町深夜2時」が私は好きです。

〈関東方面の人〉にはいかにも猥雑で、こってり感満載で上品さのかけらもないような話でしょうが、これが生粋の関西人にとっては実にしっくりと馴染むのです。

車が脱輪して、2人はJAFが来るのを待っています。深夜1時のラーメン屋。外はそぼ降る雨。キムチをあてにビールを飲んでいる〈うち〉と、隣でラーメンをすする〈やっちゃん〉。

〈うち〉は東京へ行き、ピアノで身を立てようと思っています。女にモテる〈やっちゃん〉との付き合いにもちょっと疲れ気味で、30になって何も無い自分を清算するために大阪を出る決心をしています。

〈やっちゃん〉は、別れることも大阪を出ることも、訳を聞こうともしません。ただひどい女や、と言って笑うばかりです。ラーメンをすする〈やっちゃん〉を眺めながら、〈うち〉の頭を過るのは〈やっちゃん〉との出会いであり、2人が体を重ねた日々です。

〈うち〉は深夜の雨が好きだと言い、〈やっちゃん〉は深夜の雨より、深夜から降り出す雨が好きやと言います。違いを聞くと、そんなもん全然ちゃうわって、それからもうええわ、て言うから、やっぱり〈うち〉は泣きそうになります。

〈うち〉は〈やっちゃん〉と別れたくなどないのです。一緒に東京行かん? という言葉が喉まで出かかって、それをビールで飲み干します。一言、行かんといてくれ、て言うてくれたら、どこにも行けへんのに、と〈うち〉は思っています。

交差点はファミレスの黄色、コンビニの青、牛丼屋のオレンジ、なんやぎょうさんの色で溢れています。エンジンがかかって、ワイパーが深夜の雨を蹴散らします。〈やっちゃん〉の口からは、にんにくの匂い。ほんでな、はい出発、て言うのです。空心町深夜2時。
・・・・・・・・・・
「ドリカム大阪ラバーかよ」と、ある読者は呟きました。私が思い浮かべたのは「悲しい色やね ~ OSAKA BAY BLUES」。大阪を歌った、上田正樹の代表的なナンバーです。

にじむ街の灯を ふたり見ていた
桟橋に止めた 車にもたれて

泣いたらあかん 泣いたら
せつなくなるだけ
Hold me tight 大阪ベイブルース
おれのこと好きか あんた聞くけど
Hold me tight そんなことさえ
わからんようになったんか

大阪の海は 悲しい色やね
さよならをみんな ここに捨てに来るから

 

この本を読んでみてください係数 80/100


あおい (小学館文庫)

◆西 加奈子
1977年イラン、テヘラン生まれ。エジプト、大阪府堺市育ち。
関西大学法学部卒業。

作品 「さくら」「きいろいゾウ」「通天閣」「円卓」「漁港の肉子ちゃん」「ふくわらい」「サラバ!」他

◇ブログランキング

いつも応援クリックありがとうございます。
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ

関連記事

『あとかた』(千早茜)_書評という名の読書感想文

『あとかた』千早 茜 新潮文庫 2016年2月1日発行 あとかた (新潮文庫) &nbs

記事を読む

『藍の夜明け』(あさのあつこ)_書評という名の読書感想文

『藍の夜明け』あさの あつこ 角川文庫 2021年1月25日初版 藍の夜明け (角川文庫)

記事を読む

『明るい夜に出かけて』(佐藤多佳子)_書評という名の読書感想文

『明るい夜に出かけて』佐藤 多佳子 新潮文庫 2019年5月1日発行 明るい夜に出かけて (

記事を読む

『朝が来る』(辻村深月)_書評という名の読書感想文

『朝が来る』辻村 深月 文春文庫 2018年9月10日第一刷 朝が来る (文春文庫)

記事を読む

『一億円のさようなら』(白石一文)_書評という名の読書感想文

『一億円のさようなら』白石 一文 徳間書店 2018年7月31日初刷 一億円のさようなら (文芸書

記事を読む

『七色の毒』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『七色の毒』中山 七里 角川文庫 2015年1月25日初版 七色の毒 (単行本) &nb

記事を読む

『いかれころ』(三国美千子)_書評という名の読書感想文

『いかれころ』三国 美千子 新潮社 2019年6月25日発行 いかれころ 「ほんま私は

記事を読む

『ゴースト』(中島京子)_書評という名の読書感想文

『ゴースト』中島 京子 朝日文庫 2020年11月30日第1刷 ゴースト (朝日文庫)

記事を読む

『贖罪の奏鳴曲(ソナタ)』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『贖罪の奏鳴曲(ソナタ)』中山 七里 講談社文庫 2013年11月15日第一刷 贖罪の奏鳴曲

記事を読む

『Iの悲劇』(米澤穂信)_書評という名の読書感想文

『Iの悲劇』米澤 穂信 文藝春秋 2019年9月25日第1刷 Iの悲劇 序章 Iの悲劇

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

『三千円の使いかた』(原田ひ香)_書評という名の読書感想文

『三千円の使いかた』原田 ひ香 中公文庫 2021年8月25日初版

『トリニティ』(窪美澄)_書評という名の読書感想文

『トリニティ』窪 美澄 新潮文庫 2021年9月1日発行 トリ

『エリザベスの友達』(村田喜代子)_書評という名の読書感想文

『エリザベスの友達』村田 喜代子 新潮文庫 2021年9月1日発行

『殺人カルテ 臨床心理士・月島繭子』(大石圭)_書評という名の読書感想文

『殺人カルテ 臨床心理士・月島繭子』大石 圭 光文社文庫 2021年

『青空と逃げる』(辻村深月)_書評という名の読書感想文

『青空と逃げる』辻村 深月 中公文庫 2021年7月25日初版

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑