『罪の名前』(木原音瀬)_書評という名の読書感想文

『罪の名前』木原 音瀬 講談社文庫 2020年9月15日第1刷

罪の名前 (講談社文庫)

木原音瀬著罪の名前
高校1年で優等生の日向には虫やカエルを生きたまま食べる性癖があった。秘めた欲望を知る幼なじみの隼人とは2人だけの秘密の行為があった。(「虫食い」)。人間の内に潜むゆがんだ本性を暴く四つの短編を収録。(講談社文庫・693円)

つい先日のことです。京都新聞で日曜毎に掲載される読書欄にある 「おすすめ文庫」 の中で発見し、すぐに読みたいと思いました。(木原音瀬という作家のことは何も知りません)

わずか数行ばかりの解説に、強く惹かれるものがありました。特に、高校1年で優等生の日向には 「虫やカエルを生きたまま食べる性癖があった」 という点に。その生々しさに、ただならぬ狂気みたいなものを感じました。常ならざる行為に秘められた、その情動の正体を知りたいと思いました。

[目次]
・罪と罰
・消える
・ミーナ
・虫食い

「虫食い」
日向が初めて口にしたのは、アリでした。それからは、動いているものなら何でも口に入れてみました。かめむし、ダンゴ虫、ミミズ・・・・・・・公園にいくと、いつも地面の上ばかり見ていました。今日はどんな虫を口の中に入れようかとわくわくしていました。虫が口の中で動くのが、日向には何より楽しいことでした。

そして (隼人と) ふたりの秘密 -

日向の前に立った隼人は、無言のまま右手を差し出してきた。その手首を摑み、日向は自分の顔に近づけた。指先から、石鹸の匂いがした。そのままでもいいのに、いつも隼人は手を洗う。

人差し指を、口に含む。石鹸の味がする。指に舌先を絡めて、じっとり吸い上げる。奥歯で軽く噛むと、指先が口の中でビクビクッと震えて、一気に引き抜かれた。

噛むなって前も言っただろ!
ごめん、ごめん。ちょっとだけ指、動かして
謝りながら、人差し指と中指の二本を咥える。口の中で生きているものの指が動く。ゆるゆると粘膜を撫でる。

日向は猫の子のように必死に吸い上げる。石鹸の味も消えて、感触だけが口の中に残る。自分の意志が及ばないところにあるものに、恍惚とする。

この動くものを歯で捕え、噛み潰したい。この生き物はどんな味がするんだろう。けど我慢する。いくらでも見つけられる虫やカエルと違って、隼人の指のかわりはどこにもない。たった一度でこの幸福は消えてしまう。
頭の中がじんわりして、快感に背筋がゾクゾクする。もうずっとこの生き物をしゃぶっていたい。そう一晩中でも。

・・・・・・・お前、また勃ってんぞ
そんな声、気にしない。
この変態野郎

隼人の指が少し乱暴に上顎をなぞる。日向は子猫みたいな甘い声をあげて、窮屈な布地の中で思いきり射精していた。(本文より)

※人というのは一筋縄では行きません。嘘をつく、独占する、虚栄を張る、虫を食べる・・・・・・・。それらは全部 “罪” なのでしょうか。歪んで、いるのでしょうか?

この本を読んでみてください係数 85/100

罪の名前 (講談社文庫)

◆木原 音瀬(このはら・なりせ)
高知県生まれ。主にBL作品を手掛け、そのジャンルでは不動の人気を持つ。一般紙の仕事も増えてきている。

作品 「眠る兎」「箱の中」「美しいこと」「コゴロシムラ」「嫌な奴」「秘密」「ラブセメタリー」「捜し物屋まやま」など多数

関連記事

『私のなかの彼女』(角田光代)_書評という名の読書感想文

『私のなかの彼女』角田 光代 新潮文庫 2016年5月1日発行 私のなかの彼女 (新潮文庫)

記事を読む

『煙霞』(黒川博行)_書評という名の読書感想文

『煙霞』黒川 博行 文芸春秋 2009年1月30日第一刷 煙霞 (文春文庫)  

記事を読む

『魂萌え! 』(桐野夏生)_書評という名の読書感想文

『魂萌え! 』桐野 夏生 毎日新聞社 2005年4月25日発行 魂萌え ! 夫婦ふたりで平穏

記事を読む

『大地のゲーム』(綿矢りさ)_書評という名の読書感想文

『大地のゲーム』綿矢 りさ 新潮文庫 2016年1月1日発行 大地のゲーム (新潮文庫)

記事を読む

『タイニーストーリーズ』(山田詠美)_書評という名の読書感想文

『タイニーストーリーズ』山田 詠美 文春文庫 2013年4月10日第一刷 タイニーストーリーズ (

記事を読む

『ジオラマ』(桐野夏生)_書評という名の読書感想文

『ジオラマ』桐野 夏生 新潮エンタテインメント倶楽部 1998年11月20日発行 ジオラマ (

記事を読む

『ヒーローズ(株)!!! 』(北川恵海)_書評という名の読書感想文

『ヒーローズ(株)!!! 』北川 恵海 メディアワークス文庫 2016年4月23日初版 ヒーロ

記事を読む

『ツ、イ、ラ、ク』(姫野カオルコ)_書評という名の読書感想文

『ツ、イ、ラ、ク』姫野 カオルコ 角川文庫 2007年2月25日初版 ツ、イ、ラ、ク (角川文

記事を読む

『妻は忘れない』(矢樹純)_書評という名の読書感想文

『妻は忘れない』矢樹 純 新潮文庫 2020年11月1日発行 妻は忘れない(新潮文庫)

記事を読む

『チヨ子』(宮部みゆき)_書評という名の読書感想文

『チヨ子』宮部 みゆき 光文社文庫 2011年7月20日初版 チヨ子 (光文社文庫) 五年前

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

『はるか/HAL – CA』(宿野かほる)_書評という名の読書感想文

『はるか/HAL - CA』宿野 かほる 新潮文庫 2021年10月

『変な家』(雨穴)_書評という名の読書感想文

『変な家』雨穴 飛鳥新社 2021年9月10日第8刷発行 変な

『でえれえ、やっちもねえ』(岩井志麻子)_書評という名の読書感想文

『でえれえ、やっちもねえ』岩井 志麻子 角川ホラー文庫 2021年6

『推し、燃ゆ』(宇佐見りん)_書評という名の読書感想文

『推し、燃ゆ』宇佐見 りん 河出書房新社 2021年3月15日40刷

『そこにいるのに/13の恐怖の物語』(似鳥鶏)_書評という名の読書感想文

『そこにいるのに/13の恐怖の物語』似鳥 鶏 河出文庫 2021年6

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑