『隣のずこずこ』(柿村将彦)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/07 『隣のずこずこ』(柿村将彦), 作家別(か行), 書評(た行), 柿村将彦

『隣のずこずこ』柿村 将彦 新潮文庫 2020年12月1日発行

帯に 「衝撃のディストピア・ファンタジー」 とあります。ディストピアを描いた話でありながらファンタジーとは、一体どういうことなんでしょう? この小説から何か学ぶことがあるのでしょうか。それとも、そんなこととは一切関係がないのでしょうか。

「村を壊します。あなたたちは丸呑みです。ごめんね」 二足歩行の巨大な狸とともにやってきたあかりさんはそう告げた。村を焼き、村人を呑み込む 〈権三郎狸〉 の伝説は、古くからこの地に語り継がれている。あれはただの昔話ではなかったのか。中学3年生の住谷はじめは、戸惑いながらも抗おうとするが - 。恩田陸、萩尾望都、森見登美彦が絶賛した、日本ファンタジーノベル大賞2017受賞作! (新潮文庫)

「権三郎狸の話」 はこの地方に伝わる昔話で、矢喜原で生まれ育った子供ならみんなが知っています。住谷はじめが聞かされたのは、祖父からでした。

むかしむかしあるところに」- というありきたりな前置きから、話は始まります。

あるところに小さな村があった。
村人は日々まじめに働き、おかげで村はそこそこ栄えていた。とりたてて裕福でもなかったが、その日の食べものに困るようなこともなく、それなりに幸せな毎日を送っていた。

そこへある時、一人の旅人が現れた。
旅人は若い女だった。街道沿いでもない山間の村に旅人が来ることなど滅多になく、しかもそれが若い女だというので、村人たちは大層珍しがった。
興味半分、訝り半分の村人たちを前に、女は言った。

私を、しばらくここにおいて欲しいのです
当然、村人はわけを訊ねた。でも女はそれは言えないという。

妖しがる村人に、女は懐からたくさんの金を取り出して見せた。
おいてくださるなら、これをみなさんにそっくり差し上げます
金に目が眩んだ村人たちは、すぐさま女の頼みを聞き入れた。

女は村にすぐなじんだ。器量の良い娘だったし、村人の野良仕事を手伝ったりもした。祭りのときには舞を舞って村人たちを見とれさせた。その上金までくれるというのだから、村人に文句があるはずもなかった。

しかし一ヶ月ほどが経ったころ、女は突然、村を出て行くと言い出した。
村人は必死になって止めた。もう金はいらないからと、なんとか村に留まってくれるよう女に頼んだ。一ヶ月の間に、女は村に欠かせない存在となっていたのだ。

でも村人から何を言われようと、女は首を縦に振らなかった。そして結局、村から去って行ってしまった。
女を見送った村人たちは悲しんだ。仕事も何も手につかなかった。男も女も老人も子供もみんな嘆き悲しんで、村中のあちこちに寝っ転がって泣いた。来る日も来る日も泣いて過ごし、仕事をしなかったので村はだんだんさびれ、やがて食べものも底をつき始めた。

するとある日、今度は一匹の狸が村に現れた。
ここへ女が来たでしょう
悲しみにくれる村人たちは、いかにもそうだと泣きながら答えた。

そしたら狸は急に山ほども大きくなって、泣き続ける村人を一人ずつつまみ上げては口へ投げ入れて呑み込んだ。村人をすっかり呑んでしまうと、狸は火を吐いて村の家々や田畑を焼いた。

村をたちまち焼け野原に変えてしまった狸は、やがて元と同じ大きさに戻って、女のあとを追うように、またどこかへ去って行った、とさ。
おしまいおしまい。
(P32 ~ 34)

- と、まあ凡そこんな話であるわけです。

さて、時は現代。(信じ難いことではありますが) 矢喜原ではそんな昔話に聞かされた厄災がそのままに、今まさに再現されようとしています。現に、あかりと名乗る美女の横には1メートル半はあろうかという、信楽焼の狸の置物にそっくりな、昔話に出てくる 〈権三郎狸〉 が座っています。

ならば - 、やがて矢喜原の人々は巨大化なった権三郎狸によって呑み込まれ全員が死に、家々は焼き尽くされ、集落ごときれいさっぱり消え失せてしまうことになります。そしてそれらは周囲の人の記憶からも消え、元から何もなかったようになります。

この本を読んでみてください係数 85/100

◆柿村 将彦
1991年兵庫県生まれ。
大谷大学文学部卒業。

作品  2017年 「隣のずこずこ」 (「権三郎狸の話」 改題) で日本ファンタジーノベル大賞2017を受賞しデビュー。

関連記事

『太陽の坐る場所』(辻村深月)_書評という名の読書感想文

『太陽の坐る場所』辻村 深月 文春文庫 2011年6月10日第一刷 高校卒業から十年。元同級生

記事を読む

『あこがれ』(川上未映子)_書評という名の読書感想文

『あこがれ』川上 未映子 新潮文庫 2018年7月1日発行 第1回 渡辺淳一文学賞受賞作品 ま

記事を読む

『ツミデミック』(一穂ミチ)_書評という名の読書感想文

『ツミデミック』一穂 ミチ 光文社 2024年7月25日 5刷発行 パンデミック ✕ “犯罪

記事を読む

『絞め殺しの樹』(河﨑秋子)_書評という名の読書感想文

『絞め殺しの樹』 河﨑 秋子 小学館文庫 2024年4月10日 初版第1刷発行 最果ての地・

記事を読む

『森に眠る魚』(角田光代)_書評という名の読書感想文

『森に眠る魚』角田 光代 双葉文庫 2011年11月13日第一刷 東京の文教地区の町で出会った5人

記事を読む

『ねこまたのおばばと物の怪たち』(香月日輪)_書評という名の読書感想文

『ねこまたのおばばと物の怪たち』香月 日輪 角川文庫 2014年12月25日初版 「人にはそれぞれ

記事を読む

『ドラママチ』(角田光代)_書評という名の読書感想文

『ドラママチ』角田 光代 文春文庫 2009年6月10日第一刷 〈高円寺〉、〈荻窪〉、〈吉祥

記事を読む

『図書室』(岸政彦)_書評という名の読書感想文

『図書室』岸 政彦 新潮社 2019年6月25日発行 あの冬の日、大阪・淀川の岸辺で

記事を読む

『タイニーストーリーズ』(山田詠美)_書評という名の読書感想文

『タイニーストーリーズ』山田 詠美 文春文庫 2013年4月10日第一刷 当代随一の書き手がおくる

記事を読む

『角の生えた帽子』(宇佐美まこと)_書評という名の読書感想文

『角の生えた帽子』宇佐美 まこと 角川ホラー文庫 2020年11月25日初版 何度

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『あなたはここにいなくとも』 (町田そのこ)_書評という名の読書感想文

『あなたはここにいなくとも』 町田 そのこ 新潮文庫 2026年7月

『清潔な結婚』 (村田沙耶香)_書評という名の読書感想文

『清潔な結婚』 村田 沙耶香 講談社文庫 2026年8月12日 第1

『新古事記』 (村田喜代子)_書評という名の読書感想文

『新古事記』 村田 喜代子 講談社文庫 2026年7月15日 第1刷

『動物哲学物語 ナイス実存』 (ドリアン助川)_書評という名の読書感想文

『動物哲学物語 ナイス実存』 ドリアン助川 集英社インターナショナル

『八月の御所グラウンド』 (万城目学)_書評という名の読書感想文

『八月の御所グラウンド』 万城目 学 文春文庫 2026年8月10日

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑