『嫌な女』(桂望実)_書評という名の読書感想文

『嫌な女』桂 望実 光文社文庫 2013年8月5日6刷

嫌な女 (光文社文庫)

初対面の相手でも、たちまちするりとその懐に入ってしまう。小谷夏子は男をその気にさせる天才だ。彼女との未来を夢見た男は、いつの間にか自らお金を出してしまうのだ。そんな生来の詐欺師を遠縁に持つ弁護士・石田徹子は、夏子がトラブルを起こすたび、解決に引っぱり出されるのだが・・・・・・・。対照的な二人の女性の人生を鮮やかに描き出し、豊かな感動をよぶ傑作長編。(光文社文庫)

読み出してしばらくは、これほどまで感動的な話だとは思いもしませんでした。終盤になり、思わず涙ぐんだのは、主人公である二人の女性の人生はもとより、二人に深く関わる、少なくはない人物の人生にも共通するある想いに強く感じ入ったからだと思います。

なかなかに、人は思い通りには生きられません。たとえそれが (この物語に登場する) 何店舗もの店の経営者であったとしても、大学に勤める研究者でも。有能な女弁護士や男に夢を見させる天才詐欺師であったとしてもです。

皆は等しく同様に、何かしら不安や不満を抱えて生きています。思った通りに生きられず、わかり合える誰かと出会えることを強く願っています。

これは、天才詐欺師の物語である。嘘つきで、意地悪で、生来の詐欺師、小谷夏子の波瀾の人生を描く物語である。

絶世の美女というわけでもないのに、みんなが惹きつけられる。夏子といると訳もなく楽しくなってみんなが笑顔になる。嘘つきで、意地悪で、迷惑な存在ではあるのだが、一方でそういう魅力に富んだ女性なのである。

この小谷夏子という詐欺師の造形が圧巻だ。本書が成功した半分の因はそこにある。では残りの半分とは何か。

それは本書の構成を見ればいい。つまり、弁護士石田徹子の側から描くという構成だ。石田徹子にとって夏子は、祖母の妹の孫、つまり遠縁にあたるが、徹子が新米弁護士であった二十四歳のときに、十七年ぶりに突然連絡が来るまでそれほど親しい相手ではなかった。

むしろ嫌な思い出のある相手である。七歳の夏休み、祖母の家に遊びにいくと同い年の夏子がいた。裁縫の好きな祖母が作ったお揃いのワンピースをその場で着せられた翌日、徹子のワンピースはびりびりに裂かれて洗濯機の中に放りこまれていた。犯人は夏子だったが、最後まで謝らなかった。そういう相手であるから親しくもない。

それが十七年ぶりに電話してきて、困ったことがあるから相談したいと言う。ここから数年に一度、慰謝料を請求されたとか、金を返せと言われたとか、困ったことがあるたびに夏子から連絡がくるという関係が始まっていく。(解説より)

最初の依頼から5年後に2回目の依頼があり、そのまた7年後に3回目、その後も4年、7年、9年、9年、6年と間隔を空け、夏子からの依頼は途切れることなく続きます。

その間、夏子は結婚して離婚して、若い男と付き合ったり、年寄りを騙したり、病院の掃除婦をしたり、旅館の仲居をしたり、会うたびに仕事が変わっています。弘前、名古屋、和歌山、山口と住まいも転々とし、その度徹子は呼び出され、その地を訪ねます。

当然ながら、語り手の徹子も年を取っていきます。荻原法律事務所に入ったばかりの24歳の徹子は、最終章では事務所をリタイアし、71歳になっています。

この小説は、単に一つや二つの事件の話ではありません。必ずしも思い通りとはいかない、長い長い人生 (の話) が綴られています。(感涙! )

この本を読んでみてください係数 85/100

嫌な女 (光文社文庫)

◆桂 望実
1965年東京都生まれ。
大妻女子大学文学部国文科卒業。

作品 「死日記」「県庁の星」「諦めない女」「結婚させる家」「たそがれダンサーズ」他多数

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