『藍の夜明け』(あさのあつこ)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/07 『藍の夜明け』(あさのあつこ), あさのあつこ, 作家別(あ行), 書評(あ行)

『藍の夜明け』あさの あつこ 角川文庫 2021年1月25日初版

※本書は、2012年9月に講談社より刊行された単行本 『白兎3 蜃楼の主』 を加筆修正し、改題のうえ文庫化したものです。

悪夢を見た夜に必ず近所で起きる通り魔事件。眠っている間にいったい何が?

16歳になった翌朝、爾 (みつる) はひどい悪夢から目を覚ます。その手の平には寝る前にはなかった浅い傷と、指には長い髪の毛が絡みついていた。前夜、近所で起きた女性の通り魔殺人の報道を知り不安に駆られる爾。異変は次々起き、三度目の朝。爾は自分が脱いだTシャツから血の匂いをかぎ取る。そして少女の他殺体発見のニュースが! その少女は、看護師を務める爾の母の患者だった。犯人が自分かもしれない。爾は親友の達樹にも話せず悩んでいた。ある日、学校で見知らぬ少年と遭遇する。達樹からは自分たちの幼なじみの白兎だと言われるが、爾には全く見覚えがなく・・・・・・・。大人のサスペンス・ミステリ、第3弾!(角川文庫)

目次
序 青鈍の記憶
一 紅が咲く
二 聴く人
三 血と肉と祈りと

表紙は、(おそらく藍色をした明け方なのでしょう) 公園の敷地らしき所に作り物のパンダが二体。帯に大きく 「16歳の誕生日に おれは、女の人を殺した!? 」 過去の記憶が事件を呼ぶサスペンス・ミステリ! とあります。

これが、まさか “時代劇” で幕が開くとは思いもしませんでした。時は、律令制下の日本。検非違使が闊歩する都の街中から物語は始まっていきます。

(何も知らない私は) はじめ何かの間違いではないかと思いました。戸惑いもしたのですが、結果、私はその時代劇の章 「序 青鈍の記憶」 が最も面白く読めました。(第一章からは突然時代が現代に変わります)

都に来てから六年になる。その昔、都に上る前は近江の紺掻だった。父の代からの染物屋で、毎日毎日、藍の葉を運び、藍瓶の中に糸を浸し布を浸して生きてきた。物心ついてからずっと藍に塗れて生きてきた。

十八の歳、故郷を棄てた。妻も子もいたけれど、棄てた。老いかけた二親も棄てた。
なぜ、このように酷い真似をする
嬰児を抱いた妻が縋ってくる。乳の濃い匂いがした。

三年経ったら帰ってくる
都で一花咲かせたら、必ずおまえの許に帰ってくる。だから、頼む。三年、おれに三年の時をくれ」 (本文より)

約束の三年が経ち、その倍の六年が過ぎ、それでも男は都を離れません。一花咲かせるどころか、男は落ちぶれて盗賊となり、人を殺して喜ぶ殺人鬼になり果てています。年老いた親が死に、飢えて赤子も死んだ上、妻の葉黄女 (はぎめ) も死んだのでした。

極悪非道を絵に描いた、その男の名を狗丸といいます。狗丸に付き纏う、もう一人の男がいます。その男の名を、白兎といいました。

時を経て、白兎は爾の前に現れます。

※先日たまたま書店で見つけて買ったのがこれで、読んではじめて、白兎1 (文庫のタイトルは 『緋色の稜線』)、白兎2 (文庫のタイトルは 『藤色の記憶』) があるのを知りました。これはぜひとも読まなければなりません。

追伸:どうやら 「白兎4」 まであるようです!! すみません。 (2/9)

この本を読んでみてください係数 85/100

◆あさの あつこ
1954年岡山県英田郡美作町(現:美作市)湯郷生まれ。
青山学院大学文学部卒業。

作品 「ほたる館物語」「バッテリー」「バッテリーⅡ」「たまゆら」他多数

関連記事

『薄闇シルエット』(角田光代)_書評という名の読書感想文

『薄闇シルエット』角田 光代 角川文庫 2009年6月25日初版 「結婚してやる。ちゃんとしてやん

記事を読む

『ざんねんなスパイ』(一條次郎)_書評という名の読書感想文

『ざんねんなスパイ』一條 次郎 新潮文庫 2021年8月1日発行 『レプリカたちの

記事を読む

『アンソーシャル ディスタンス』(金原ひとみ)_書評という名の読書感想文

『アンソーシャル ディスタンス』金原 ひとみ 新潮文庫 2024年2月1日 発行 すぐに全編

記事を読む

『文庫版 オジいサン』(京極夏彦)_なにも起きない老後。でも、それがいい。

『文庫版 オジいサン』京極 夏彦 角川文庫 2019年12月25日初版 72歳の益

記事を読む

『受け月』(伊集院静)_書評という名の読書感想文

『受け月』伊集院 静 文春文庫 2023年12月20日 第18刷 追悼 伊集院静  感動の直

記事を読む

『マタタビ潔子の猫魂』(朱野帰子)_派遣OL28歳の怒りが爆発するとき

『マタタビ潔子の猫魂』朱野 帰子 角川文庫 2019年12月25日初版 地味で無口

記事を読む

『私の家では何も起こらない』(恩田陸)_書評という名の読書感想文

『私の家では何も起こらない』恩田 陸 角川文庫 2016年11月25日初版 私の家では何も起こら

記事を読む

『俺と師匠とブルーボーイとストリッパー』(桜木 紫乃)_書評という名の読書感想文

『俺と師匠とブルーボーイとストリッパー』桜木 紫乃 角川文庫 2023年12月25日 初版発行

記事を読む

『ナキメサマ』(阿泉来堂)_書評という名の読書感想文

『ナキメサマ』阿泉 来堂 角川ホラー文庫 2020年12月25日初版 最後まで読ん

記事を読む

『あの日、君は何をした』(まさきとしか)_書評という名の読書感想文

『あの日、君は何をした』まさき としか 小学館文庫 2020年7月12日初版 北関

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『マッチング』(内田英治)_書評という名の読書感想文

『マッチング』内田 英治 角川ホラー文庫 2024年2月20日 3版

『僕の神様』(芦沢央)_書評という名の読書感想文

『僕の神様』芦沢 央 角川文庫 2024年2月25日 初版発行

『存在のすべてを』(塩田武士)_書評という名の読書感想文

『存在のすべてを』塩田 武士 朝日新聞出版 2024年2月15日第5

『我が産声を聞きに』(白石一文)_書評という名の読書感想文

『我が産声を聞きに』白石 一文 講談社文庫 2024年2月15日 第

『朱色の化身』(塩田武士)_書評という名の読書感想文

『朱色の化身』塩田 武士 講談社文庫 2024年2月15日第1刷発行

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑