『藍の夜明け』(あさのあつこ)_書評という名の読書感想文
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最終更新日:2021/02/09
『藍の夜明け』(あさのあつこ), あさのあつこ, 作家別(あ行), 書評(あ行)
『藍の夜明け』あさの あつこ 角川文庫 2021年1月25日初版
※本書は、2012年9月に講談社より刊行された単行本 『白兎3 蜃楼の主』 を加筆修正し、改題のうえ文庫化したものです。
悪夢を見た夜に必ず近所で起きる通り魔事件。眠っている間にいったい何が?
16歳になった翌朝、爾 (みつる) はひどい悪夢から目を覚ます。その手の平には寝る前にはなかった浅い傷と、指には長い髪の毛が絡みついていた。前夜、近所で起きた女性の通り魔殺人の報道を知り不安に駆られる爾。異変は次々起き、三度目の朝。爾は自分が脱いだTシャツから血の匂いをかぎ取る。そして少女の他殺体発見のニュースが! その少女は、看護師を務める爾の母の患者だった。犯人が自分かもしれない。爾は親友の達樹にも話せず悩んでいた。ある日、学校で見知らぬ少年と遭遇する。達樹からは自分たちの幼なじみの白兎だと言われるが、爾には全く見覚えがなく・・・・・・・。大人のサスペンス・ミステリ、第3弾!(角川文庫)
目次
序 青鈍の記憶
一 紅が咲く
二 聴く人
三 血と肉と祈りと
表紙は、(おそらく藍色をした明け方なのでしょう) 公園の敷地らしき所に作り物のパンダが二体。帯に大きく 「16歳の誕生日に おれは、女の人を殺した!? 」 過去の記憶が事件を呼ぶサスペンス・ミステリ! とあります。
これが、まさか “時代劇” で幕が開くとは思いもしませんでした。時は、律令制下の日本。検非違使が闊歩する都の街中から物語は始まっていきます。
(何も知らない私は) はじめ何かの間違いではないかと思いました。戸惑いもしたのですが、結果、私はその時代劇の章 「序 青鈍の記憶」 が最も面白く読めました。(第一章からは突然時代が現代に変わります)
都に来てから六年になる。その昔、都に上る前は近江の紺掻だった。父の代からの染物屋で、毎日毎日、藍の葉を運び、藍瓶の中に糸を浸し布を浸して生きてきた。物心ついてからずっと藍に塗れて生きてきた。
十八の歳、故郷を棄てた。妻も子もいたけれど、棄てた。老いかけた二親も棄てた。
「なぜ、このように酷い真似をする」
嬰児を抱いた妻が縋ってくる。乳の濃い匂いがした。
「三年経ったら帰ってくる」
「都で一花咲かせたら、必ずおまえの許に帰ってくる。だから、頼む。三年、おれに三年の時をくれ」 (本文より)
約束の三年が経ち、その倍の六年が過ぎ、それでも男は都を離れません。一花咲かせるどころか、男は落ちぶれて盗賊となり、人を殺して喜ぶ殺人鬼になり果てています。年老いた親が死に、飢えて赤子も死んだ上、妻の葉黄女 (はぎめ) も死んだのでした。
極悪非道を絵に描いた、その男の名を狗丸といいます。狗丸に付き纏う、もう一人の男がいます。その男の名を、白兎といいました。
時を経て、白兎は爾の前に現れます。
※先日たまたま書店で見つけて買ったのがこれで、読んではじめて、白兎1 (文庫のタイトルは 『緋色の稜線』)、白兎2 (文庫のタイトルは 『藤色の記憶』) があるのを知りました。これはぜひとも読まなければなりません。
追伸:どうやら 「白兎4」 まであるようです!! すみません。 (2/9)
この本を読んでみてください係数 85/100
◆あさの あつこ
1954年岡山県英田郡美作町(現:美作市)湯郷生まれ。
青山学院大学文学部卒業。
作品 「ほたる館物語」「バッテリー」「バッテリーⅡ」「たまゆら」他多数
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