『ひとでちゃんに殺される』(片岡翔)_書評という名の読書感想文 

公開日: : 最終更新日:2024/12/31 『ひとでちゃんに殺される』(片岡翔), 作家別(か行), 書評(は行), 片岡翔

『ひとでちゃんに殺される』片岡 翔 新潮文庫 2021年2月1日発行

表紙の絵とタイトルに、軽いノリで買ってみました。新潮文庫のための書き下ろしであるらしい。可愛い顔をしたひとでちゃんが人を殺す!? ・・・・・・・ いいえ、そうではありません。死ぬのは、彼女が選んだ人です。

悪魔から逃れるためには生贄を選ぶしかない

宙を舞うスキー板が、地下鉄の鉄扉が、墜落する信号機が、次々と呪われた生徒の首を断つ・・・・・・・。怪死事件が相次ぐ教室に、謎の転校生がやって来た。「縦島ひとで、十六歳です」 圧倒的な美貌で周囲を虜にし、匂い立つような闇を纏う彼女の正体は!? 助かるためには誰か一人を生贄に差し出すしかない - 悪魔に魅入られた高校生たちが迫られる究極の命の選択。戦慄の学園サスペンスホラー 。(新潮文庫)

黒い女を見たのは、昨日の早朝だった。
真っ黒な顔と身体に、足元まで伸びた髪。細い体躯にひょろ長い手脚。顔には渦巻きのような目があって、それが人間じゃないのは一目瞭然だ。その女は美味しそうに、人間の生首をぺろぺろと舐めていた。

ハッと目を覚まし、すぐに夢だということに気がついた。
けれどただの夢じゃない。トラウマのように刻まれた古い記憶が蘇る。幼い頃、境内の奥にある蔵で、その女の絵を見たことがあったのだ。

そして今日、一條は死んだ。

奴があの黒い女に殺されたのは、疑いようのない事実。
天が裁きを下したのだ。
そう思うと清々しかった。

仁志と三ツ橋。さらに率先して葵を馬鹿にしていた海老原と花田、玉井の名前を刻み込む。葵のスタンプを作った脇と、陰で全員を煽っている美園。そこまで彫ったところで、我に返った。

※物語の前半、全てはクラスの優等生・鷹守清史郎が仕組んだことでした。

チャイムが鳴ると、すぐに (担任の) 若宮が入ってきた。

「えぇっと、こんなタイミングだけど、我らが1年4組に転校生が来ました」
教室がざわつく。なんでこの状況のうちのクラスに。と思ったが、2人も生徒が減ったからかもしれない。

とてつもなく美人だった。
男子も女子も、その容姿に釘付けになっている。
若宮がドヤ顔をしながら、黒板に名前を書く。チョークの音に重ねるように、彼女は自ら話し出した。

「お父さんの転勤が多くて色んな街に住んできたけど、生まれは熊本です。9歳まで住んでいました。小さい頃から、ひとでなしのひとでちゃんって呼ばれています。仙台も、宮城県も初めてです。色々教えてください。どうぞ、よろしくお願いします」

※この人物こそが、物語の主人公・縦島ひとでで、彼女がこの学校のこのクラスに転校してきたのには、実は訳があります。それを今は誰も知りません。

後半になり、クラスののけ者の佐藤水色だけがひとでの正体を知ることになります。彼女が自分をひとでなしだという本当の理由を、佐藤自らが、身をもって知ることになります。

この本を読んでみてください係数 80/100

◆片岡 翔
1982年北海道生まれ。

作品 2014年に映画 「1/11」 を監督。脚本家として 「町田くんの世界」 「I”s」 「トーキョーエイリアンブラザーズ」 「きいろいゾウ」 などを手がける。‘17年、初の小説 『さよなら、ムッシュ』 を刊行。他に 『あなたの右手は蜂蜜の香り』 がある。

関連記事

『ビタミンF』(重松清)_書評という名の読書感想文

『ビタミンF』重松 清 新潮社 2000年8月20日発行 炭水化物やタンパク質やカルシウムのよ

記事を読む

『ヒポクラテスの憂鬱』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『ヒポクラテスの憂鬱』中山 七里 祥伝社文庫 2019年6月20日初版第1刷 全て

記事を読む

『貘の耳たぶ』(芦沢央)_取り替えた、母。取り替えられた、母。

『貘の耳たぶ』芦沢 央 幻冬舎文庫 2020年2月10日初版 あの子は、私の子だ。

記事を読む

『ペインレス 私の痛みを抱いて 上』(天童荒太)_書評という名の読書感想文

『ペインレス 私の痛みを抱いて 上』天童 荒太 新潮文庫 2021年3月1日発行

記事を読む

『颶風の王』(河﨑秋子)_書評という名の読書感想文

『颶風の王』河﨑 秋子 角川文庫 2024年1月25日 8刷発行 新・直木賞作家の話題作 三

記事を読む

『猿の見る夢』(桐野夏生)_書評という名の読書感想文

『猿の見る夢』桐野 夏生 講談社 2016年8月8日第一刷 薄井正明、59歳。元大手銀行勤務で、出

記事を読む

『ブータン、これでいいのだ』(御手洗瑞子)_書評という名の読書感想文

『ブータン、これでいいのだ』御手洗 瑞子 新潮文庫 2016年6月1日発行 クリーニングに出し

記事を読む

『世界から猫が消えたなら』(川村元気)_書評という名の読書感想文

『世界から猫が消えたなら』川村 元気 小学館文庫 2014年9月23日初版 帯に「映画化決定!」

記事を読む

『櫛挽道守(くしひきちもり)』(木内昇)_書評という名の読書感想文

『櫛挽道守(くしひきちもり)』木内 昇 集英社文庫 2016年11月25日第一刷 幕末の木曽山中。

記事を読む

『ハリガネムシ』(吉村萬壱)_書評という名の読書感想文

『ハリガネムシ』吉村 萬壱 文芸春秋 2003年8月31日第一刷 ボップ調の明るい装丁から受ける

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『長くなった夜を、』(中西智佐乃)_書評という名の読書感想文

『長くなった夜を、』中西 智佐乃 集英社 2025年4月10日 第1

『神童』(谷崎潤一郎)_書評という名の読書感想文

『神童』谷崎 潤一郎 角川文庫 2024年3月25日 初版発行

『孤蝶の城 』(桜木紫乃)_書評という名の読書感想文

『孤蝶の城 』桜木 紫乃 新潮文庫 2025年4月1日 発行

『春のこわいもの』(川上未映子)_書評という名の読書感想文

『春のこわいもの』川上 未映子 新潮文庫 2025年4月1日 発行

『銀河鉄道の夜』(宮沢賢治)_書評という名の読書感想文

『銀河鉄道の夜』宮沢 賢治 角川文庫 2024年11月15日 3版発

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑