『飼い喰い/三匹の豚とわたし』(内澤旬子)_書評という名の読書感想文
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最終更新日:2024/01/07
『飼い喰い/三匹の豚とわたし』(内澤旬子), 作家別(あ行), 内澤旬子, 書評(か行)
『飼い喰い/三匹の豚とわたし』内澤 旬子 角川文庫 2021年2月25日初版

下手な小説より何倍も面白い。騙されたと思って、まあ読んでみてください。
生き物が生まれてから肉になるまで。その全課程!! 世界各地の屠畜現場を取材していく中で抱いた、どうしても 「肉になる前」 が知りたいという欲望。実際にひとりで家を借り、豚小屋を作り、品種の違う3匹の子豚を貰い名付け、約半年かけて育て上げ、屠畜し、食べる。養豚の日々に加え、大規模畜産での豚の受精や出産から食卓にあがるまでの流れにも踏み込んだ、『世界屠畜紀行』 著者による 前人未到の養豚体験ルポルタージュ!! 解説・高野秀行 (角川文庫)
名前から判断するに、著者は明らかに女性である。一体全体どんな人なんだろうとwikipediaを見ると・・・・・・・、美人である。しかも、細身の。
写真だけだと、(この本に書いてあるような) とんでもないことを思いつき、それを実際にやってしまった人とはとても思えません。何が彼女をそこまでさせたのでしょう。浮ついた興味だけでは、(とてもじゃないが) あそこまでは出来ません。
書いてあるのは、豚と屠畜に魅入られた一人の女性作家の、あられもない実体験の全容です。すべてがありのまま。人糞を喰う豚が登場し、豚に自分のした “ブツ” を喰わせようとした人 (=著者) が登場します。日々大量の豚が屠畜され、「肉」 となります。
まえがき - なぜ私は自ら豚を飼い、屠畜し、食べるに至ったか
この本は、2008年10月から2009年9月までの1年間をかけ、3頭の肉豚を飼い育て、屠畜場に出荷し、肉にして食べるまでを追ったルポルタージュである。
これまで世界各地の屠畜の現場を取材して、家族で1頭の羊を屠り分け合って食べるところから、1日4000頭の牛を屠畜する大規模屠畜まで、数多の家畜の死の瞬間を見てきた。
彼らがかわいそうだという感情を抱いたことはない。彼らの死骸を食べることで、私たち人間は自らの生存を支える。それは自明のことだからである。しかし取材をするうちに、これらの肉は、どのようにして生まれ、どんなところで育てられ、屠畜されるに至るのかに、興味をおぼえるようになった。
私たちは何を食べているのだろうか。
知っているようで、何も知らない。自らの手で住居の軒先に小屋を作り、豚を飼い、日々触れ合うことで、豚という食肉動物が、どんな食べ物を好み、どんな習性があり、1日をどう過ごしているのか、私という人間にどう反応するのか、また、私自身が豚たちを飼ってみて何を感じるのか、じっくりと気が済むまで体験した。また同時に、現在の私たちが口にする国産豚肉のごく一般的な飼養方法と、小売店に並ぶまでの流れを知るために、大規模養豚農家と、養豚を支える飼料会社、獣医師、屠畜場、精肉、卸業者に取材し、話を伺った。
戦後60年間で、豚の飼養方法も、食肉の価格も需要も、何もかもが劇的に変貌した。家の軒先で1頭だけ、稲作の片手間に残飯をやってゆっくり育てていたのが、換気までコンピューター制御の豚舎で、品種改良を重ね、雑種強勢をかけ、1000頭単位の豚を、特別に配合した飼料を与えて育て、180日で出荷するようになった。同じ 「養豚」 として括るのが難しいくらいだ。
しかし、豚は豚である。今も昔も変わらない。飼えばかわいく愛らしく、食べれば美味しい。
日本で飼養され、出荷され食べられていった、すべての豚たちに、この本を捧げる。(全文)
子豚は、伸、秀、夢、と名付けられます。やがて成長し、屠畜され、肉となる運命の3匹に、彼女は名を付けたのでした。飼うのはペットではありません。全てを見届けた後、自らが口にするつもりの食用豚であるにもかかわらず。
※心配は無用です。思わず笑えてくるに違いありません。あまりの真っ正直さに、ちょっと引くかもしれません。
この本を読んでみてください係数 85/100

◆内澤 旬子
1967年神奈川県生まれ。文筆家、イラストレーター。
國學院大學文学部哲学科卒業。
作品 「世界屠畜紀行」「身体のいいなり」「ストーカーとの七〇〇日戦争」「着せる女」他多数。
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