『ブルーもしくはブルー』(山本文緒)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/07 『ブルーもしくはブルー』(山本文緒), 作家別(や行), 山本文緒, 書評(は行)

『ブルーもしくはブルー』山本 文緒 角川文庫 2021年5月25日改版初版発行

人気作の新装版! 】 自分とそっくりな 分身ドッペルゲンガー)」 に出会った蒼子。2人は入れ替わって生活してみるが - !?

高収入の夫と都心の高級マンション。誰もが羨む暮らしを送る蒼子だったが、夫との関係は冷め満ち足りぬ思いを抱えていた。旅行中、偶然立ち寄った博多の街中で昔の恋人・河見を見かける。彼に寄り添っていたのは自分そっくりの、もう1人の 「蒼子」 だった! 名前も顔も同じなのに全く違う人生を送る2人。互いへの好奇心と羨みを感じて、1ヵ月だけ生活を入れ替わってみることにするが・・・・・・・。読みだしたら止まらない、驚愕の展開! (角川文庫)

佐々木蒼子は東京で、河見蒼子は博多で暮らしています。二人には何ら接点がありません。唯一あるのは、河見蒼子の夫が佐々木蒼子のかつての恋人であったということです。二人の男を天秤にかけ、佐々木蒼子は河見と別れ、現在の夫と結婚すると決めたのでした。

問題は、(佐々木蒼子の) その結婚が事実上破綻していたということです。そして、そこに現れたのがかつての恋人で、一度は結婚することも考えた河見だったということ。河見の妻がまるで自分と瓜二つの女性だと気付いたのは、博多の街中で偶然にも河見を見かけた直後のことでした。

佐々木蒼子と河見蒼子 - 姿形がまるて同じで、名前も同じ。「蒼子A」 と 「蒼子B」 は、こんなふうにして出会います。出会ったことで、二人がこの先どんな運命に巻き込まれ、あげくどんな結末に至るのか? もしもわが事ならと、想像しながら読んでみてください。

怖い物語だが、同じ人物である蒼子Aと蒼子Bが、偶然出会ってしまうから怖いのではない。どちらの男を選んでも、結局モラハラかDVに苦しむはめになるからでもないし、蒼子Aと蒼子Bが互いに憎悪を抱き、最終的には殺し合いに発展するから怖いのでもない。

蒼子には買い物以外に、趣味と呼べるものも、将来の展望も、知的好奇心もない。さらに、人間関係らしい人間関係をまるっきり持っていない。彼女にあるのは扶養の義務を担う男性パートナーとの閉じた関係だけ。そこから外れれば、たちまち社会から弾かれてしまう。

ドッペルゲンガーを見たことを打ち明けられる相手さえ皆無である。彼女が夢見る、あったかもしれないもう一つの人生とは、単に他のパートナーとの暮らしでしかない。ゆえに、蒼子は同性とは敵対関係しか築けず、だからこそ、もう一人の自分とさえうまくやれない。こうした状況に蒼子が疑問を持たないがゆえに、メビウスの輪から決して逃れられない、この終わりがない悪夢が何より怖いのだ。(柚木麻子/解説より)

この小説の、どこが 「名作」 なのか? 上記の柚木麻子の文章は、その理由が端的に述べられています。じっくり読むと、それがよくわかります。

ドッペルゲンガーなどという特異な現象はもはや二の次で、蒼子Aと蒼子Bはやがて主客を変え、遂には、二人して思いもしなかった結末を迎えることになります。その過程、そのなりゆきこそが怖ろしい。

互いの立場を入れ替える。入れ替えた上で、別の夫と暮らしてみる - 二人の蒼子にとって、それがどんな結果をもたらしたのか。どちらの蒼子にもあった夫婦関係の、「逃れられない閉塞感」 はきれいさっぱり消えて無くなったのでしょうか? それともそうはいかずに、一度は今の暮らしに見切りを付けながら、それより他に生きる手立てを見つけることができずに、致し方なく、元の鞘に収まったのでしょうか?

※『ブルーもしくはブルー』 を英訳すると 「the blue or the other blue」。わかりますか? わかりますよね。

この本を読んでみてください係数  85/100

◆山本 文緒
1962年神奈川県生まれ。
神奈川大学卒業。

作品 「恋愛中毒」「プラナリア」「群青の夜の羽毛布」「眠れるラプンツェル」「紙婚式」「結婚願望」「落花流水」「ファースト・プライオリティー」他多数

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