『地獄への近道』(逢坂剛)_書評という名の読書感想文

『地獄への近道』逢坂 剛 集英社文庫 2021年5月25日第1刷

地獄への近道 (集英社文庫)

お馴染み御茶ノ水署生活安全課保安二係の迷コンビ、斉木&梢田がまたも駆け回る! 神保町に新たにできたバーに、見回りと称してビールを飲みに入ったら、薬物取引の疑惑が突如浮上して・・・・・・・(「影のない女」)。最近できた映画館で流れるのは一日一作品限り、しかも何が流れるか分からない。その隠された理由とは (「地獄への近道」)。人気ユーモア・ミステリーシリーズ第6弾。著者初のいきなり文庫! (集英社文庫)

※本書は、「web集英社文庫」 2020年12月~2021年4月に配信された連載をまとめたオリジナル文庫です。

目次
1.影のない女
2.天使の夜
3.不良少女M
4.地獄への近道

さて、最初の 「影のない女」。
いかにもこのシリーズらしく神田神保町が細かく正確に書かれている。私も、この界隈には土地勘があり、作品のなかに懐かしい部分と変わってしまった部分が混在しており、とても感慨深かった。

相変わらず、斉木は小学校の時に自分をいじめた同級生で、今は直属の部下の梢田をいじめ返し、梢田は斉木の魔手を逃れるために昇任試験を受けては、落ち続けている。

しかし、大学と古本と出版社の街、神保町である。質より量の学生相手の飲食店と、領収書さえ完備されていればどんな高い店にも突撃していく編集者相手の飲食店がこれまた混在しており、その特殊性は昔とあまり変わっていないと思う。

当然、新宿歌舞伎町だのマニラだのNYブロンクスだのというような土地とは、起こる犯罪の悪さの質も違っているはずであり、そういう場所でも点数を稼がねばならぬという斉木&梢田の苦悩はつきることがないだろう。

しかし、もちろん事件は起こる。錐で延髄を一突きというだけが事件ではないのである。その背景にどういう 「悪」 が潜んでいるかが問題なのである。(山田裕樹/解説より)

言わずもがなですが、「錐で延髄を一突き」 とは、冷酷非情な殺人鬼を 「はやにえ」 で有名な鳥に譬えて人気の 「百舌シリーズ」 のことです。本作がシリアスな警察小説とは正反対の、軽妙でどこかコミカルなものだということが言いたいのだと思います。

さらに加えて、「スペインものの長大な時間の流れや、公安ものの巨悪への挑戦ばかりが、逢坂作品の特質ではないのである」 と山田氏は言います。長編で、凶悪で残忍な事件ばかりが事件ではないということ。「事件」 は、見方さえ変えれば如何様にも創り出せる。それこそが著者の才能である - と言いたいのだと。(あとはひとえに好みの問題です! )

この作品にはもう一人、欠くべからざる人物が登場します。名を五本松小百合といい、斉木や梢田と同じ御茶ノ水署の生活安全課に勤務する、れっきとした警察官です。五本松は、ある意味、斉木や梢田以上に活躍します。事件にかかる裏情報に精通しています。

時に、彼女は自分を 「松本ユリ」 と称しています。

この本を読んでみてください係数 80/100

地獄への近道 (集英社文庫)

◆逢坂 剛
1943年東京都文京区生まれ。
中央大学法学部法律学科卒業。

作品 「カディスの赤い星」「屠殺者よグラナダに死ね」「百舌シリーズ」「岡坂伸策シリーズ」「御茶ノ水警察署シリーズ」「イベリアシリーズ」「禿鷹シリーズ」他多数

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